成功する「プロジェクトマネジャー」の育て方

 
 
プロジェクトの三大制約条件は、コスト、納期、出来栄えと言われる。
プロジェクトを成功に導くには、制作の過程で生じるリスクを管理できる、
優秀なプロジェクトマネジャーの役割が重要になる。
 
 
ソリューションサービス研究所代表取締役
久井信也 = 文
text by Shinya Hisai
ひさい・しんや●
1944年生まれ。66年、富士ゼロックスに入社。同社SE部長を経て2000年より現職。長年にわたり、SE部門の人材育成計画づくり、プロジェクトマネジメント方法論などの標準化、プロジェクトマネジャーの育成教育プログラムを担当する。
高橋常政 = イラストレーション
illustration by Tsunemasa Takahashi中島 恵 = 構成
 
 

 プロジェクトマネジメントという言葉が情報産業を中心に注目を集めている。1990年代後半から、エンジニアリング業界やIT情報システム業界だけでなく各業界で「プロジェクトマネジメント型で仕事を進めていこう」という発想が生まれ、その動きが広がってきた。そして、それを遂行する人、プロジェクトマネジャーの存在意義が急速にクローズアップされるようになった。

 プロジェクトマネジャーとは、期限の決まったプロジェクトを全体の計画から完了まで遂行、管理、統括する責任者である。大工の棟梁にたとえて考えるとわかりやすい。棟梁は大工の仕事は熟知しているが、自分が金槌を持つわけではない。顧客の要望を聞き、その家の家族構成や予算、土地の形状などをすべて考慮したうえで全体像を描き、陣頭指揮を執って設計担当、材料調達などに仕事を割り振ってまとめていく。このように、プロジェクト全体の段取りをつけ、納期までの計画を実行していくのがプロジェクトマネジャーの仕事である。

 いまなぜプロジェクトマネジャーの役割が注目され、必要とされているのだろうか。一つには、成果主義をより重視する流れのなかで、明快なアウトプットを出す役割が必要になったことがある。第二に、SCM(※1)やCRM(※2)導入などでは仕事の進め方が、経理なら経理だけ、開発は開発だけ、というやり方ではなく、組織を横断して遂行する能力が必要になったことがある。各部署から集めた専門家集団をコントロールし統括するためにプロジェクトマネジャーの役割が重要になったのだ。第三には、技術の海外移転や産業空洞化が進むなかで、日本が生き残るために、より高付加価値の技術開発が求められていて、そこに優秀なプロジェクトマネジャーが不可欠となってきたことがある。

 しかし、現在、国内のITプロジェクトの遂行で問題となっているのがプロジェクトマネジメントの未成熟さである。日本のシステム開発プロジェクトの成功率は30%未満という調査結果がある(※3)。赤字プロジェクトの数も減っていない。70%ものプロジェクトが失敗していることになる。失敗にはベンダー側の要因による失敗と、ユーザー側の要因による失敗がある。ユーザーにとっては、あとになって「こんな会社に発注したから失敗した」ということがありうるし、その逆にユーザー自らがシステム化の目的やニーズを明確に提示しきれなかったということもある。

 PMBOK(※4)でもいわれている通り、プロジェクトの三大制約条件は、コスト、納期、スコープ(品質を含む出来栄え)である。ユーザーは発注する際、この三大制約条件を明確に提示し、双方が合意してプロジェクトをスタートするべきである。

 だが、現場では、この三条件のうち、何らかの事情で条件を変更せざるをえないことが起きる。特にシステムの機能追加・変更などスコープに変更が起きると作業の手戻りや手直しで、納期遅延、コスト超過につながる。現実的には当初に設定した要求仕様のままですんなり収まることはほとんどない。したがって、制作のプロセスでリスクを管理しながら軌道修正し、成功に導いていく優秀なプロジェクトマネジャーは非常に大切な存在なのである。

失敗を分析して
チーム内に組織知として広める

 中国のIT産業が目覚ましい発展を遂げているが、ソフトウエア開発の業務は中国に移転したとしても、日本から情報システム構築の仕事がなくなることはなく、むしろ需要は広がっていくと筆者は予測している。90年代に始まった携帯電話やインターネット関連の新市場の興隆に見られるように、ICタグなど新たな技術の進歩と連携した情報システム構築の需要はこれからも拡大していくだろう。日本がより付加価値の高い製品やサービスを生み出していくために、優秀なITの専門技術者やプロジェクトマネジャーを育てなければならないのである。

 プロジェクトマネジャーに求められる能力条件は、組織を統合させる力、リーダーシップ、意思決定力、顧客や他のステークホルダー間との調整・交渉・緩衝役、メンバーの動機付け、目標を達成するという強い意志、コミュニケーション能力、リスク管理力など広範囲にわたる。これだけの役割を果たせるマネジャーを計画的に育成するには、まずはプロジェクトを支援する組織のあり方が重要だ。

 プロジェクトの成功要因としてプロジェクトマネジャーの役割は大きい。プロジェクト運営に関する基礎教育も重要であり、この知識をベースにいかに経験を積ませるかである。先輩諸氏の言葉であるが、一人前のプロジェクトマネジャーになるためには「修羅場を経験する」ということである。俗に言う「経験と勘と度胸」(KKD)も大切だということである。しかし、単なる経験主義で無用な経験をさせることはよくない。先人の失敗を教訓として適切な経験を積むことで自信もつき度胸もつく。

 さらに、失敗した場合でもその原因を究明し、報告させることによって冷静な判断ができるようになり、リスクを察知し回避する能力が身につく。失敗の分析は非常に大切で、その原因を整理してレポートを書かせると、客観的に問題点をあぶり出すことができる。そして、それをオープンにし、組織知にしていくことが大切である。

 筆者も、企業内でプロジェクトマネジメントの方法論づくりを推進したことがある。失敗の教訓から「やるべきこと」「やってはいけないこと」を抽出し、この経験知を組織に浸透させるようにした。それがプロジェクトを成功に導くノウハウになっている。

 アメリカでは、フリーのプロジェクトマネジャーが強力なリーダーシップを発揮してプロジェクトを成功させ、完遂後に次の新たなプロジェクトのリーダーとして参加する独立・専業のプロジェクトマネジャーもいると聞く。しかし、日本ではプロジェクトマネジャー人材を専門的に育成する大学もあるがまだ少ない。現在プロジェクトマネジャー育成が注目されているが、併せてプロジェクトを組織的に支援するPMO(プロジェクト・マネジメント・オフィス)の体制・機能を強化することも重要だ。プロジェクトを成功に導くには個人の能力に依拠するだけでなく、組織の能力として成熟した支援体制づくりに取り組むことがIT情報産業界の重要な課題ではないかと考える。

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(1)企業の調達から供給まで連携した情報システムのこと(サプライ・チェーン・マネジメント)。
(2)顧客との対応力強化を目的とした情報システム(カスタマー・リレーションシップ・マネジメント)。
(3)「日経コンピュータ」03年9月調査による。
(4)A Guide to the Project Management Body of Knowledge:米国の推進団体PMI(プロジェクトマネジメント・インスティチュート)が策定した知識体系。事実上の国際標準となっている。
 
 
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