中途採用のミスマッチはなぜ起こるのか

 
 
ある大手企業の場合を試算すると、採用ミスマッチが原因で、
年間3400万円の無駄なコストが発生しているという。
このようなミスマッチを減らしていくには、
どんな方法があるのだろうか。
 
 
プロッソ社長
牛久保 潔 = 文
text by Kiyoshi Ushikubo
うしくぼ・きよし●
1964年生まれ。外資系大手ハードウエアベンダー、ソフトウエアベンダーにおいて、人事、業務、マーケティングを担当した後、独立。主に中途採用を中心とする採用コンサルティングを行う。
著書『キャリア・アップのために「人事」を上手に利用しよう』(小社刊)
高橋常政 = イラストレーション
illustration by Tsunemasa Takahashiライヴ・アート = 図版作成
 
 

「採用ミスマッチ」による
無駄なコストを把握しよう

 みなさんは、「採用ミスマッチ」という言葉を聞いたことがあるだろうか。

 これは採用の選考段階で、仕事内容に関する説明不足や誤解があったり、本人が言っていたよりも実際の知識や経験が不足していたために、入社時に会社が期待した実績と、本人が実際に挙げる実績の間に大きな差ができてしまうことを言う。そして、そのことが原因で、社員が入社後およそ1年以内に辞めていくことを、「採用ミスマッチによる退職」と呼ぶ。最近、経営者と話をしていると、退職率(「離職率」とも言い、全社員のうち1年間に辞める社員の割合のこと)に目標値を決めて管理する会社が増えてきたようだ。もちろんその中には、「今の退職率が20%程度なので、何とか10%にしたい」という「下げたい派」もいれば、「今までは低いほどいいと思ってきたが、これからは定期的に評価の低い10%程度の社員を辞めさせることで、常に組織を活性化していきたい」という「上げたい派」もいる。

 そこでさらに、「では、採用ミスマッチによる退職率の方はどうなっていますか」と聞くと、なかなか答えが返ってこなくなってしまう。今回は、中途採用における「採用ミスマッチ」の重要性と、それをいかに減らしていくべきかについて考えてみたい。

 計算をわかり易くするために、定年による退職を省いて考えてみよう。図を見て欲しい。

 社員が900人いる会社で、その年に中途採用で100人採用し、新卒採用はしなかったとすると、合計の社員数は、「900人+100人=1000人」になる。この会社の退職率が10%だとすると、「1000人×10%=100人」となり、1年間に100人の社員が辞める計算になる。

 この100人の退職者を、「入社後1年以内に辞めた人」と、「入社後1年以上経ってから辞めた人」に分けてみよう。ここでは、ある大手企業の例を参考にして、「入社後1年以内」の退職者が25人、「入社後1年以上」経ってからの退職者が75人と仮定する。すると、この会社の「入社後1年以内の社員の退職率」は、「25人÷100人=25%」となり、一方、「入社後1年以上経っている社員の退職率」は、「75人÷900人=約8%」になる。この25%と8%の差、「25%−8%=17%」が、「採用ミスマッチによる退職率」ということになる。

 全社的な「退職率」については、「0%が理想」という会社もあれば、「15%が理想」という会社もある。しかし、「採用ミスマッチによる退職率」に限って言えば、「0%が理想」である。

 そこで、辞めた社員の補充のための採用コストと教育研修費を、それぞれ1人あたり150万円、50万円とすると、図の下の計算式にあるように、「採用ミスマッチ」が原因で、1年間に3400万円もの無駄なコストが発生していることがわかる。しかも、このコスト計算には、新しく入社した社員が、前任者と同レベルの戦力になるまでの、仕事の実績のマイナス分は含まれていない。こう考えると、「採用ミスマッチ」を減らすことが、いかに大きなコストダウンにつながっていくかがわかる。

 では「採用ミスマッチ」を減らすためには、いったいどうすればいいのだろうか。

「採用ミスマッチ」を減らすには?

 採用業務には、「ターゲッティング→応募者集め→選考→入社・配属」という大きな流れがあり、各プロセスの中で、「採用ミスマッチによる退職率」を下げるいくつもの工夫が考えられる。その中から今回は特に、「社員紹介制度」、「再雇用」、「リファレンス」、「条件提示」について話をしてみたい。

 最初は、「社員紹介制度」である。

 一般的に社員紹介制度とは、経営者や人事部門が社員に対し、「あなたの知り合いに、当社への転職を希望する人がいたら紹介してください」と依頼するものである。もともと社員紹介制度は、「採用ミスマッチ」を減らす目的よりも、採用コストを下げる目的で導入されることが多いが、企業の「採用ミスマッチ」の記録と採用ソースの関係を調べてみると、社員紹介制度は「採用ミスマッチ」を下げる効果が高いことがわかる。これは、自社の業務を誰よりも知っている社員自らが、相手の仕事ぶりを見た上で、紹介してくることが最大の理由だろう。ただ採用や異動が、何の方針やルールも無いまま、各部門に完全に任されている会社では、このタイプの社員紹介をやり過ぎると、派閥やグループができ易くなったり、その場限りの採用をする傾向が強くなってしまう。また、社員紹介のお礼として、会社が社員に報酬を支払うことは、違法となるので注意が必要だ。

 次に「再雇用」を見てみよう。

 一般に「再雇用」というと、「定年を迎えて辞めた社員を、別の給与体系、勤務体系で再度雇用する」という意味で使われることが多い。しかしここでは、「自分から会社を辞めていった社員をふたたび採用する」という意味で使いたい。人が会社を辞めるにはさまざまな理由がある。当然、辞めた人の中には、惜しまれつつ辞めた人と、押し出されるようにして辞めた人がいるが、ここで言う「再雇用」とは、この「惜しまれつつ辞めていった人」を再び採用しようというものだ。それも、「以前在籍していたあの人が戻りたがっています」というような社員紹介を歓迎するだけではなく、優秀な退職者については、もっと積極的に再入社を勧めてみようということである。この「再雇用」というものは、「社員紹介制度」と同様に、採用コストの低減のために導入されることが多いが、「採用ミスマッチ」を減らすという意味でも、同じようなに大きな効果がある。

 これを成功させるためには、退職する前から、将来の「再雇用」を成功させるための種を蒔いておく必要がある。具体的には、退職インタビューの時から、誰が何を話すべきかを検討したり、引き続き連絡を取れる状態にしておくことも重要だ。すでにこうして、惜しまれつつ辞めていった退職者の3割以上の「再雇用」に成功した会社も出てきている。もしかすると「一度会社を裏切った人をふたたび採用するのはおかしい」と感じる人がいるかもしれない。そこで少し、「再雇用」の是非についても触れておこう。

「再雇用」に対する心理的抵抗が減っていく

 たとえばプロ野球やJリーグで活躍していた優秀な選手が、監督やコーチと反りが合わなかったり、「世界の舞台で活躍したい」と思って海外に出て行ったとする。そして何年かプレーした後で帰国するとしたら、その選手を「裏切り者」と感じるだろうか。おそらくファンの多くは、たとえ他の選手がポジションを取られるとしても、優秀な選手の復帰を喜ぶに違いない。これはプロスポーツ界だけの特別な話ではなくて、組織が実績や成果を重んじるようになればなるほど、多くの現場で起きる現象である。

 すでに、欧米やアジアの大手企業の中には、人事部門が管理している社員データの中に、「再雇用可か、不可か」というフラグを作り、退職時に「Yes or No」を入力している会社もある。つまり、そのフラグが「Yes」になっていれば、後年その社員がふたたび応募してきた場合にも、「再雇用に特に問題なし」ということだ。

「再雇用」に反対することが、「年功序列主義だ」とか「保守的だ」と言われるようになる日はそう遠くないだろう。

 ジャック・ウェルチ氏をはじめとして、実績を上げた経営者の中には自社の非主流部門や子会社のマネージメントを経験したことのある人が多い。これは、「優秀な人には早めに組織の全体が見られるような仕事をさせたい」という会社側の思いもあるだろうが、同時に、「非主流にいたことで自社のビジネスを客観的に観察できた経験」が有利に働いたとも言える。この点については、一度辞めて再雇用された社員についても同じことが言えるのである。

「採用ミスマッチ」を減らすには、「リファレンス」も有効だ。これは、採用の選考過程において、その人の仕事の進め方や実績について、近くで見聞きしていた人に話を聞き、選考の判断材料にするものだ。

 自社の中に、応募者と以前一緒に仕事をしたことのある社員がいれば、普通は一番信頼度が高い。リファレンスが自社の社員から取れなければ、直接本人に、「以前一緒に仕事をされていた方に、お話を伺いたいのですが……」と聞いてもいい。ただこの場合は、本人からその人に「問い合わせがいくかもしれないのでよろしく……」と事前に話がいくこともあるので、聞き取りの上手な人が行う必要がある。また、リファレンスは、本人が転職の経験が無い場合などは取れないことも多い上、個人情報保護の観点からも情報の集め方や扱い方には細心の注意が必要である。

 リファレンスは、聞き手によってその内容が大きく変わってしまうが、うまく利用できれば強力な武器になる。

 最後は「条件提示」だ。

 どの会社にも就業規則や評価基準をはじめとしてさまざまなルールがある。これらは、会社から社員に対して「こう働いて欲しい」というメッセージでもある。しかし、選考に合格した応募者に対して、採用担当者が条件を提示する際、社内のルールについてはごく簡単に話して終わってしまうことが多い。これは後に、「採用ミスマッチ」を起こす一因になってしまう。いろいろなルールや企業カルチャー、問題点などについては、できる限り正直に話をしておくべきである。仮に、話をすることで入社を断る人がいるのであれば、たとえ入社しても「採用ミスマッチ」で辞めていく可能性が高い人材だと言えるだろう。退職、転職に対する心理的抵抗はますます低くなっている。「悪い面を隠したまま入社させてしまおう」などと考えるべきではない。

「採用ミスマッチ」を完全に無くすことはできないかもしれない。しかし、それを分析し、少しずつでも改善していくことは、会社にとっても社員にとっても、大きなプラスとなる。ぜひ、積極的に取り組んで欲しい。

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