「子会社化」ブームに見る
グループ経営の死角

 
 
松下電器は、グループ再編の一環として九州松下電器、松下寿電子、松下通信工業を
100%子会社化したのに続き、「兄弟会社」の松下電工の発行済み株式の保有比率を
31.8%から51%にまで引き上げる。この例に見られるように、
グループ経営における「子会社化」は日本企業においてブームになっている。
はたして、このような動きは理にかなったものなのだろうか。
筆者は「子会社化」を分権化だけでなく外部化という概念で捉えるべきだと言う。
 
 
神戸大学大学院経営学研究科教授
加護野忠男 = 文
text by Tadao Kagono
かごの・ただお●
1947年、大阪府生まれ。70年、神戸大学経営学部卒業。75年、同大学大学院博士課程修了。79年から80年までハーバード・ビジネス・スクール留学。専攻は、経営戦略論、経営組織論。
著書に、『日本型経営の復権』『競争優位のシステム』などがある。
尾黒ケンジ = 図版作成
 
 

二つの概念で理解する「子会社化」の論理

 子会社、関係会社をも含めた企業グループ経営は日本独特のコンセプトである。アメリカでは、子会社の多くは100%子会社であり、子会社であるか、社内の事業部であるかはあまり問題とならない。連携戦略のための合弁会社はありうるが、子会社が親会社との紐帯を保ったまま上場されるということはほとんどない。アメリカの場合、子会社が上場されるというのは、子会社が親会社から独立するということを意味していることが圧倒的に多い。最近では、ヒューレット・パッカードが会社を二つに分け、一方のアジレント・テクノロジーを傘下から切り離し上場させた。同社は、ヒューレット・パッカードとは別の独立した会社として扱われている。これに対して、日本では親会社との紐帯を維持したまま同時に上場企業でもあるという子会社、関係会社が少なくない。

 しばらく前まで、このような上場子会社が多かったのは、松下電器、トヨタ自動車、日立製作所などの企業グループである。ところが最近になって、この上場子会社を本体に取り込もうとする動きが出ている。松下電器は、松下電器貿易だけでなく、九州松下電器、松下寿電子、松下通信工業を100%子会社化した。なぜこのような動きが出てくるのか。このような動きは理にかなったものだろうか。

 この疑問に答えるには、日本企業のグループ経営にどのようなロジックが隠されていたのか、つまり、ある事業単位を事業部ではなく子会社にするのはなぜかを考える必要がある。この問題は分権化という視点から捉えられることが多かった。子会社は事業部よりもより分権的な事業単位であるという視点からの議論が多い。確かに子会社は事業部より、より大きな権限を与えられている場合が多いが、子会社化はそれだけでは捉えきれない要素がある。子会社化の論理を理解するには、分権化という組織構造設計の概念ではなく、外部化という概念で捉えるべきであると私は考えている。

 外部化とは、事業単位の経営のよしあしを判断し、その経営者を評価し賞罰を与えるのが誰であるか(それがグループの本社なのか、それとも社外の機関なのか)に関わる概念である。その意味で、外部化は、ガバナンスに関わる概念であるといえよう。

 分権化にさまざまなレベルがあるように、外部化に関してもさまざまなレベルがある。最も外部化のレベルが低いのは、社内事業部あるいは社内カンパニーで、その次は100%子会社である。100%子会社になると、本社だけではなく、銀行も経営の評価をするようになる。子会社とはいえども、法的には独立した法人である。銀行は子会社の経営を財務的な健全性という視点から評価する。かつて日本の銀行が企業の評価力を持っていた時代には、この銀行による評価は重要な意味を持っていた。

 100%子会社であっても、子会社化によって、評価の主体として銀行が加わることによって評価主体が多元化するのである。合弁あるいは資本参加によって他の株主の資本を受け入れる場合にも評価の多元化が起こる。一つの典型は合弁子会社の場合である。合弁子会社の場合には、本社以外にパートナー会社によっても評価される。合弁子会社の外部化の程度は、他の株主の所有比率、自社の所有比率によって決まる。子会社が上場された場合も、評価の多元化が起こる。上場の場合のほうが、多元化の程度が高いと考えることができる。特定の株主でなく、多数の一般投資家による評価が行われるようになるからである。上場子会社の場合、親会社が持ち株をどの程度まで確保するか。親会社が過半数を支配している場合、親会社は、事業経営者の解任権を確保することができる。少数支配の場合は、他の株主に働きかけることによってしか解任できない。外部化の程度が高まるにつれて、本社の支配力は弱まる。

「外部化」に見るメリットとデメリット

 分権化と同様、外部化にもメリットとデメリットがある。

 まず外部化のメリットから考えよう。外部化の最大のメリットは、事業単位の経営評価に関して外部の評価を反映できることである。評価の多元化が起こるのである。評価の多元化は、事業単位にとっては、評価の客観性を高める、つまり本社の恣意的な評価に押し流されることがない、という効果がある。本社にとっては、他者の評価を参照できるというメリットがある。事業単位の財務的な健全性を継続的に評価するのは難しいが、子会社化することによって、銀行がその評価を行ってくれる。上場すれば、市場が毎日評価してくれる。

 外部化のもう一つのメリットで、事業単位の経営者に対する最も素朴なインセンティブは、事業経営者に、社長という、より高地位の名称を与えることができることである。カンパニープレジデントというよくわからない社内通称よりも、社長のほうがホンモノらしさがある。さらに外部化はたんに名目的なものだけではなく、評価の多元化に伴って、経営者としての自立性を高めることができるという効果もある。事業単位の経営者の側からすると、評価の多元化に伴って、本社の評価や命令に対して抗弁できるというメリットもある。多元的な評価が行われる場合には、外部化が行われると、本社の権限は絶対ではなくなるのである。

 組織階層の上司に絶対的な権限を与えないというのは、日本の組織の伝統でもある。明治20年に定められた紀律には、「官吏は、其の職務につき、本属長官の命令を遵守すべし。ただし、その命令に対し意見を述べることを得」という規定がある。この考え方は、上司から人事権を取り上げ、人事部に集約するという制度によって担保されている。一般社員や下層の管理職の発言権は人事部によって担保されているが、事業責任者の人事権は本社にあり、発言の余地は小さい。外部化は、このような事業責任者に上司への発言権を担保するための制度であるとも解することができる。

 このような側面は、外部化の欠点でもある。外部化の最大の問題は本社の意思が貫徹できないことである。外部化に伴って、他の評価主体の意向も尊重しなければならなくなる。外部化によって事業経営者の自立性が高まると、本社は絶対的な命令権を持てなくなる。

 外部化の第二の欠点は、戦略の実行の障害となることである。会社の枠組みを超えた事業の再編は難しい。また、事業の再編に際して外部の利害関係者の説得が必要となる場合がある。

 外部化の第三のリスクは、子会社のコントロールができなくなって子会社が独立してしまう可能性を否定できないことである。日本では子会社が成長し、子会社から兄弟会社になる例が少なくない。例えば、古河電気工業からの富士電機の独立、そこからの富士通の独立、さらにファナックの独立があるし、ダイセル化学からの富士写真フイルムの独立も日本型コーポレートスピンオフの例である。このようなスピンオフが本社の意図に反して起こる場合には、親会社は成長分野での事業を失ってしまう可能性がある。積水化学の場合、子会社である積水ハウスが自己資本金融を行っていくにつれて、親会社の持ち株比率が低下して、子会社としてのコントロールがきかなくなって、成長事業である住宅事業を失ってしまった。そのため積水化学は社内の事業部として住宅事業に再進出することになったという例はよく知られている。

 以上の長短の分析をもとに、なぜ一部の企業は、最近になってから上場子会社の100%子会社化を志向し始めたのか、を考えてみよう。

「100%子会社化」を志向する企業の本音

 第一の理由として挙げられるのは外部化のリスクが大きくなってきたことである。その中でも、最大のリスクは、一部の株主の機会主義的行動である。証券市場のグローバル化や株主主権尊重の風潮の中で、株主としての地位を利用して、自分だけの利益を得ようとする株主の危険が強まっている。そのリスクが顕在化した典型例は、小糸製作所をめぐるピケンズ問題である。アメリカの投資家、ピケンズがトヨタのグループ会社である小糸製作所の議決権を手に入れて、経営妨害をしようとした事件がある。ピケンズ側の狙いは、株主権をもとに経営妨害を行えば、それを避けるために親会社であるトヨタ自動車がピケンズ氏の持ち株を高く引き取ろうとするかもしれないという可能性である。

 証券市場のグローバル化によってこのような株主が出現する可能性が高まった。このような株主が存在すると、事業の再編成に時間がかかるという問題も発生する。日本ではこれまで持ち合いを通じて株主の機会主義的行動の弊害が抑えられてきた。しかし、銀行の体力の低下に伴って持ち合いが維持できなくなったため、機会主義的株主が出現するリスクが高くなってきたのである。

 もちろん、このような理由以外に、もっと単純な理由があるのかもしれない。本社の命令権を強化しようとする狙いである。本社は、事業単位を統治するガバナンス機能と、事業部門の戦略を調整する戦略調整機能、さらに資源配分機能の三つの基本機能を持っている。これまでのグループ経営の場合は、このうち、ガバナンス機能が中心であった。子会社の内部化への動きは、これらの機能のうち、戦略調整機能、資源配分機能を高めようとする動きであるといえるかもしれない。これらの機能を高めるには命令権を強化しなくてはならない。しかし、そのことによって、事業部門の経営者の抗弁の可能性が封じられてしまうと、現場情報が本社に届かなくなって誤った戦略調整や資源配分が行われてしまう危険があることを忘れてはならない。このことが深刻な問題につながらないようにするには事業部門の情報をくみ上げるシステムの構築が不可欠である。

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