「環境」の現場を行く[15]キリンビール

ビオトープのあるビール工場

 
 
環境文明研究所所長
加藤三郎 = 文
text by Saburo Kato
かとう・さぶろう●
1939年、東京都生まれ。東京大学工学系大学院修士課程修了後、厚生省に入省。90年、環境庁地球環境部初代部長に就任。地球温暖化防止行動計画の策定、地球サミットの準備などに携わる。93年、退官後、環境文明研究所を設立。NPO環境文明21主宰。
→加藤三郎氏主宰のNPO「環境文明21」
 
 

「うれしいを、つぎつぎと」に込められた思い

「うれしいを、つぎつぎと」。これがキリングループのスローガンだ。親しみやすくて、ビールを中心とした会社としてのビジョンを体現するのにふさわしい言葉だと思う。このスローガンは商品だけに向けられたものではない。キリングループとして、地球環境の保全を最重要課題の一つと認識し、持続可能な社会の構築に向けて取り組むという姿勢も、この言葉に込められているのだという。

「3R(Reduce,Reuse,Recycle)と2A(Assessment,Audit)を基本方針として活動しています。環境を考えることは、コストを考えることにも繋がってきます。こうした環境理念を、社員一人ひとりが常に頭の片隅において行動していくことが大切ですね」と、小野元司社会環境部長は語る。

 エンジニア出身の小野さんが環境を強く意識し始めたのは、震災後、同社の神戸工場建設に関わってからだという。工場建設に当たって、神戸市から水道水の使用が条件として出された。

 ビール工場で最も使用量が大きい資源は水。製品そのものにも、ビールタンクや配管の洗浄など生産プロセスにも大量の水を使用する。ちなみに、350mlの缶ビール1本をつくるためにおよそ3リットルの水を使っているそうだ。工場では、水道水と一部地下水から使用する水をまかなってきたが、外から得る水をいかに減らすかが課題であった。

 そうして考え出された新機軸が「中水」のリサイクルだ。中水とは、最後のすすぎなどに使っていた比較的きれいな水である。これを生産プロセスに関係ない所での雑用水として、また工場内のビオトープ(野生生物が移動生息できる空間)などで利用した。

「ビール工場の公害問題は、大半が排水から起こります。こうして水について考えたおかげで、節水技術の向上はもとより、環境負荷のかからない生産ラインの配置など、環境にも優しい工夫を随所に盛り込むことができました」と小野さんは胸を張る。今では、神戸工場は同社工場のトップランナーとしてベンチマークされている存在である。

工場の廃棄物は宝の山

 水だけではない。

 同社は工場からゴミを出さない。ビールの製造過程で出てくる仕込みカスは脱水、乾燥して飼料に。余剰酵母はキノコの菌床や健康食品などに。さらにバイオマスの利用として、嫌気処理された原排水からできるグラニュールという物質は、良質の肥料として再利用されている。このように、出てきたものは全工場で100%の再資源化を達成しているのだ。

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神戸工場のビオトープ。国内11工場のうち5工場にビオトープが設けられている。

 生産過程で発生するメタンガスなどのバイオガスは、ガスエンジンで発電に利用。神戸工場では使用電力全体の20%を占める。取手工場にはバイオガス利用の新型燃料電池を導入し、全体のおよそ4%の電力をまかなっているという。また、麦汁煮沸釜の蒸気も千歳、神戸、岡山の各工場で再圧縮利用されている。

 長年、環境対策に取り組んできた企業がCO2の排出量を1年間で1%減らすのは至難の業といっていい。それを、キリンでは1年間で4%も減らすことに成功している。

 中水を利用した神戸工場のビオトープでは、絶滅危惧種のカワバタモロコが大繁殖をしていると地元新聞に取り上げられていた。岡山工場のビオトープでは、ホタルが舞い飛ぶという。全国に11ある工場のうち、5工場がこうしたビオトープを持つ。また、ビールに欠かせない美しい水を守るために「水源の森」をつくり地域の人たちとの植林活動も行っている。

 食品会社としての持続可能性を、果敢に探る同社の取り組みは、環境にとってもまさしく「うれしいを、つぎつぎと」期待させてくれる。

 
 
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