なぜスピーチよりも会話に重点を置くことが重要なのか

新任マネジャーの「信頼を勝ち取る」対話術

 
 
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新任のマネジャーは、とにかく忙しい。
だが、部下との対話を後回しにすると
早晩後悔することになる。
成功するリーダーは、最初の数カ月の
間のコミュニケーションで、部下との
信頼関係を築くことに成功している。
その秘訣は?
 
 
セオドア・キニ = 文
text by Theodore Kinniディプロマット = 翻訳
 
 

 新任のマネジャーが成功できない場合、その大きな原因は主要な部下との建設的な関係を速やかに築けないことにあると、ハーバード・ビジネス・スクール教授のジョン・J・ガバロは指摘する。成功するリーダーは「ローンレンジャー症候群(独断専行)」に陥らないよう注意し、部下が安心してアイデアを共有したり、新しい視点から物事を考えたりできるよう、速やかに信頼関係を築こうとする、と彼は言う。

 しかし、時間に追われる新任マネジャーが、いったいどうすればそのような関係を築けるのだろう。第一歩として、リーダーシップとは自分の考えを一方的に述べることではなく、行ったり来たりの双方向の会話でなければならないことを理解する必要があると、ガバロや他の専門家は言う。

 あらゆる新任リーダーが新しいポジションで足場を固め、最初の数週間ないし数カ月の間に直面する課題をうまくこなすためには、マネジャーは次の三つを行う必要がある。

[1]組織のニーズと能力を包括的に把握する。

[2]自分の仕事のやり方と他の人々への期待を部下や同僚や上司に明確に伝える。

[3]この先、目標を達成していくために必要な信頼関係を築く。

会話の口火を切る

 新任のリーダーがなすべきことについては、大きな誤解がある。リーダーは初日からすべての答えを用意していなくてはいけない、という思い込みである。実際にはその正反対が正しいのであって、最初の数日間ないし数週間は、質問をし、話を聞き、学んでいく時期なのだ。

「ばかげた質問をしても大目に見てもらえる時期というのは、職業人生の中でめったにあるものではない」と、マッキンゼーのトロント支社取締役、スティーブン・ベアは言う。「新しいポジションに移って早々には、組織の実情を本当に把握するための質問、人々に胸襟を開かせる質問をするチャンスがある」。

 リーダーが新しい組織の中でうまく仕事をしていくためには、決定はどのようになされ、どのように伝えられているか、最も信頼できる情報はどこにあるか、アイデアはどのように流れていくか、非公式な権力中枢が存在しているか等々を把握することが必要だ。リーダーはこうした情報を、就任早々に直接、間接に質問をして、じっくり話を聞くことによって集めていくのである。

 新任のリーダーは、自分がこれから組織に提起していく検討課題をまとめるためにも、質問を使って必要な情報を集める。ベアはこのプロセスを、次の五つの質問の「バケツ」を満たす作業と考えている。

[1]この組織を取り巻くビジネス環境はどのようなものか。それはどのように変化しているか。

[2]自分はこの組織に何を期待するか。今から3年ないし5年後に、どのような組織になってほしいか。

[3]他の人々は私に何を期待しているか。それらの期待は現実的か。また、(組織に対する)私のやろうとしていることと一致しているか。

[4]この組織が取り組むべきビジネス上の主な課題は何か。優先課題は何か。

[5]自分のチームに必要な人間は誰か。誰を残すべきで、誰については様子を見る必要があり、誰を入れ替えなくてはいけないか。

中間路線を歩む

 新任マネジャーは、学ぶことと同時に教えることもやっていかなくてはいけない。具体的には、自分のマネジメント・スタイルや自分が部下や同僚や上司に期待することを伝えていく必要があるわけだ。この情報が、新しいポジションで成功するためにきわめて重要な建設的な人間関係の基盤になるのである。しかし、このような早い時期のコミュニケーションは、バランスのとり方が難しい。コミュニケーションが多すぎると危険な場合があるし、少なすぎても害になることがある。

「多くの人が就任後のコミュニケーションを急ぎすぎて、自分で自分の手足を縛ったり、とうてい果たせないような約束をしてしまったりする」と、ベアは言う。

 逆にコミュニケーションが少なすぎると、新リーダーに対する部下の認識をコントロールできないという問題が出てくる。

「最初の1カ月間に伝えるべきことは、なによりもまず、自分はどんな人間で、なぜここに来たのかということ、そして組織や部下に何を期待するかということだ」。こう語るのは、『Right from the Start: Taking Charge in a New Leadership Role(スタートのときから:新任のリーダーが成功するには)邦訳なし』の著者(マイケル・D・ワトキンスとの共著)で、多くのトップ・リーダーのアドバイザーを務めているダン・シアンパだ。

 新リーダーは中間地帯を歩むべきだと、彼は提言する。自分の仕事のやり方と自分が組織や部下に何を期待しているかは、最初の数週間のうちに伝える必要があるが、重要な課題についての約束は完全な情報がそろうまで先延ばしにすべきだというのである。

 ルー・ガースナーは、適度なコミュニケーションに成功した好例と言えるだろう。1993年にIBMのCEOに就任したとき、彼は会社の内外から、新CEOのIBM再建計画を明らかにせよという大きな圧力を受けた。しかし彼は、「それには時間がかかる」と言って、重要な決定を発表することを拒否した。

 その代わりに彼は、自分の仕事のやり方を伝えることに全力を傾けた。IBMの会議は昔から長いことで有名だったが、彼はただちに会議の時間を短縮した。また、各事業部門のマネジャーに各自の組織、顧客、市場、主な競争相手、自分たちの強みと弱みについて短い査定を作成せよと指示することで、情報収集に絡めて自分の仕事のやり方を伝えた。

 マネジャーたちは、ガースナーの頭にある「IBMはオープンかつ率直で、単刀直入な組織にほかならない」というメッセージを早々に受け取ったのである。

信頼を築く

 新リーダーにとって、より堅固な基盤になるのは信頼である。「まだ誰もあなたを知らない就任早々の時期に信頼を獲得することは、新しいポジションでの成功に欠かせないことだ」と、シアンパは言う。

「第一印象は、早々に信頼を築くためにきわめて重要だ。だから、落ち着いていること、自分のどの面を前面に出すかを厳選すること、できるだけ部下と接すること、話すときは相手の目を見ること、知らないことは知らないと言うこと、がなおさら重要になる」

『Right from the Start』でシアンパとワトキンスは、新リーダーの信頼を高める六つの特質を挙げている。

[1]厳しい要求をするが、満足することも知っている。

[2]積極的に人の話を聞くが、親しくなりすぎない。

[3]断固としているが、物わかりがよい。

[4]焦点を絞るが、柔軟性がある。

[5]積極的に行動するが、それによって混乱を招くことはない。

[6]厳しい決断を下すことも辞さないが、それでいて人間味がある。

 シアンパとワトキンスの言う、一つひとつの行動の中の「根本的な緊張」を維持していくのは簡単なことではない。何をするにしても、相対立する要件をうまく折り合わせなくてはいけないのだ。

就任早々の会話が在任期間にも影響

 ガースナーはIBMを凋落させないためにダウンサイジングを行ったが、必要な行動のすべてを迅速に、かつ人間味のあるやり方で行うことによって組織の心理的な傷を最小限に抑えた。

 新しいポジションでのコミュニケーションには、絶妙のバランスが必要だ。新任のリーダーは、いつ聞いて、いつ話せばよいか、いつ情報を集め、いつ指示を与えればよいかを見極めなくてはいけない。就任早々の時期に慎重に熟慮しながら会話を交わしていくことが、新リーダーの在任期間を定め、往々にして成否を決めるのである。

 
 
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