質の高い教師や生徒のいる学校にわが子が合格できれば、刺激を受けてさらに成長するはず――。そんな願望をもつ親はつい偏差値至上主義となり、何が何でも難関校! と張り切ってしまいがち。しかしある科学的な調査の結果、「優秀な子の集団に放り込むとかえって成績下がる」事実が判明したのだ。

無理に「偏差値が高い学校」に合格させることの弊害

中学受験生を抱える家庭では、学校説明会や塾の夏期講習が本格化する夏に向けて、そろそろ志望校を考える時期だろう。

多くの親は、本人の希望も大切にしながら、わが子をもっとも伸ばしてくれる学校を選んでやりたいと考えている。その時、重要な判断材料のひとつになるのが偏差値だ。

偏差値が高い学校とは、一般的に教育内容に魅力があって人気がある学校だ。ゆえに優秀な生徒がたくさん集まる(=偏差値が高い)。「優秀な友達に恵まれる学校に合格すること」で、わが子をさらに飛躍させることができるから、「偏差値が1ポイントでも高い学校に入ってほしい」と考える親が多いのだろう。

しかし、教育経済学者の慶應義塾大学准教授・中室牧子氏や、医学博士でデータ分析を行う「Habitech」のイノベーションディレクターである石川善樹氏らが行った研究では、このような「より優秀な生徒がいる学校にわが子を放り込みたい」といった親の身勝手な願望で志望校を選ぶと、かえって子どもの成績が落ちてしまう危険性があることがわかった(参考資料:「負のピア効果 クラスメイトの学力が高くなると生徒の学力は下がるのか?」http://www.rieti.go.jp/jp/publications/dp/17j024.pdf

優秀な子の集団に我が子を放り込むと成績下がる

中室准教授はこう語る。

中室准教授らが調査した「負のピア効果 クラスメイトの学力が高くなると生徒の学力は下がるのか?」と題されたレポート(独立行政法人経済産業研究所)。

「友達から受ける影響(学習面や生活態度など)のことを、『ピア・エフェクト』と言います。これまでの海外のピア・エフェクト研究では優秀な友達がいると成績は上がるという報告が多い(※)のですが、日本ではデータが少ないこともあって、あまり研究がされていませんでした。そこで、埼玉県で実施された公立小学校・中学校の学力調査データを用いて分析したところ、真逆の結果が出たのです。ある生徒が、成績の良いクラス(試験の平均点が高い)に所属すると、翌年はその生徒の成績が下がってしまっていることがわかりました。国語、算数・数学のいずれの科目でも、どの学年でも同様のことが起きていました。ここから言えることは、日本の小中学生の学力に関しては、ピア・エフェクトはネガティブに働くということです」(中室准教授)

これを志望校選びに当てはめて考えると、「せっかく成績優秀な生徒が集まる上位校に入っても、子どもの成績が下がる」可能性があるということになる。一体、どうしてなのだろう。

※ 海外では学力についてピア・エフェクトはプラスの影響があるという論文が多い一方、分析方法を変えた近年の研究では、影響はゼロかほとんどないという結論も増えてきている。