マネーの新常識[2]

「60歳までに老後資金を貯める」は危険思想

 
 
60歳までに老後資金を貯めなきゃ、と必死になっていませんか?
借りるのが得か、買って資産にするのが賢いか、あれこれ調べていませんか?
でも実は、その思い込みがかえって“貯まりにくく”していることも。
荻原先生がマネーの新常識を教えてくれました。
 
 
上島寿子=文
 
 

 新聞や雑誌などでよく目にするのは「老後の資金には1億円必要」「退職までに5千万円の貯蓄を」といった文言。「うわぁ、全然足りない!」と早速、老後の積み立てに精を出したくなるが、荻原さんは「その必要はありません」と言い切る。一体、なぜ?

経済ジャーナリスト 萩原博子
1954年、長野県生まれ。明治大学卒業後、経済評論家の亀岡大郎氏に師事。83年に独立。雑誌、テレビ、ラジオなどのメディアを通し、保険、住宅、ローンなどの複雑なお金のしくみや経済について、わかりやすく解説。『くらし安心! お金の大事典』(中公新書ラクレ)など著書多数。

「人生には越えるべき3つのお金のハードルがあるんですね。それは住宅購入費、教育費、そして老後の資金。住宅については買わない選択もありますが、いずれにしろ、手前から順番に飛び越えていくのが鉄則。たとえば、結婚したらまずは住宅のための貯蓄をして、それを頭金にマイホームを買う。このとき、頭金が多く用意できるほどローンの負担は軽くなって、次のハードルである教育資金も調達しやすくなる。そして、教育資金がスムーズに飛び越えられれば、その余裕から老後の資金も貯めやすくなるというわけです」

 住宅ローンを抱え、なおかつ教育費の捻出もしなければいけない時期に老後の資金を貯めようとするのは、3つのハードルを一度に飛ぼうとするのと同じ。当然、前の2つに引っかかり、すべてがうまくクリアできなくなるという。だからといって、老後のことに無関心でいいというわけではない。
「老後に備えるなら、当面の目標にしたいのは50歳でプラスマイナスゼロ。50歳の時点で住宅ローンなどの借金がゼロになっていれば、貯蓄がゼロであっても老後の資金に困ることはまずありません。仮に、年収600万円の人が60歳で定年を迎えるとしましょう。50歳の時点で子供が独り立ちして住宅ローンも完済できていると、年間200万~300万円ぐらいはラクに貯金できますよね。定年までは10年あるわけですから、2千万~3千万円は貯蓄できる。そこに退職金を加えれば、たとえ収入がなくても夫婦2人で生活していけるでしょう」

 そう聞くと、「50歳で住宅ローンの完済なんてとても無理」と及び腰になる家庭も少なくないだろう。もちろん、この“ゼロゼロ目標”はあくまでも理想。これを目標として、できるだけ住宅ローンを減らすよう努力をしておくと後がとてもラクになると荻原さんは言う。
「老後の資金というと、60歳までにいくら貯めようとつい考えがち。でも、30代や40代の人からすると60歳になるまでにはあまりにも目的地が遠すぎる。登山でも初心者はいきなりエベレストを目指すなんて無謀なことはしないですよね。まず太郎山に登って、次に富士山に登頂して……と段階を踏む。そのステップに当たるのが、50歳でいったん家庭の財政をリセットするという目標なんです」

 もちろん、余裕があるなら貯蓄をするのは無駄なことではないが、それを運用して少しでも増やそうとするのは考えものだと荻原さんは言う。
「今の日本経済はデフレの時代。デフレとは物の値段が下がり続けることで、物の値段が下がった分、貨幣の価値は上昇します。簡単に説明すると、今1万円の物が翌年には9500円で買えるということ。つまり、1万円を1年間、温存させるだけで、品物に加えて500円のおつりまでくるわけです。これは1万円をただ持っているだけで5%の利子がついたのと同じことになるんですね」

 それに比べて、超低金利のこの時代に、5%で運用できる金融商品は、大抵、リスクも高く、ヘタをすると損をする可能性も。
「バブル期には多くの人たちが株を買い、不動産に投資をしましたが、最終的に得をしたのは何にも手を出さなかった人たち。不況下にある今の時代でも、現金で地道に蓄えたほうが、最終的には得をするのです」