巻頭エッセイ

なぜ今、「平清盛」なのか

 
 

本郷和人 東京大学准教授

 
 

NHKの大河ドラマ「平清盛」で
時代考証のお手伝いをすることになりました。
大河ドラマといえば戦国時代や幕末期を
舞台にしたものが圧倒的に多く
ドラマ作りの伝統も積み重ねられてきました。
しかし平清盛が活躍した平安時代というのは
時代観がまったく異なるし、資料がはるかに少ない。
しかも主役が源氏ではなく平家となると、朝廷や
貴族社会との関係が色濃いから、朝廷の“儀式”と
いうものをきちんと描かなければなりません。

飢饉や病気で苦しむ人々の暮らしぶりも含めて
今回の大河ドラマは新しいものずくめですから
制作の現場も役者さんも
ほとんど手探りで撮影を進めています。
それだけに時代考証の問い合わせも頻繁で
忙しいときには毎日のように電話がかかってきて
現場の熱気がひしひしと伝わってきます。
では、なぜ今、「平清盛」なのでしょうか。

「奢る平家久しからず」で
源氏の敵役として描かれることが多いのですが
清盛=悪役という刷り込みは、『吾妻鏡』という
鎌倉幕府の歴史書の影響が大きいようです。しかし
権力者としての清盛は政治家であると同時に
現在の厳島神社を造営した宗教家であり
中国大陸への航路を整備した事業家であり
殖産興業や貿易に力を注いだ経済の人でもある。
武士でありながら貴族社会を破壊するのではなく
貴族社会に飛び込んで異例の出世を果たし
内側から社会を変革しようとした。
清盛に対する貴族の嫉妬が「奢る平家」という言葉には込められているように思います。

私が清盛に抱く印象は、明るさです。
権力者特有の血なまぐささというものがまるでない。
頼朝のように家族兄弟を殺していないし
ライバルである源氏の跡取りの命も奪わなかった。
この辺りが、権力者としてちょっと抜けていて
そこがまた、愛すべき上司という印象を与える。
一緒に寝ている部下を起こさないように気を使い
身分の卑しい人でも家族の前では一人前に扱った。
そんなエピソードが『十訓抄』に残されています。
一門の大黒柱である清盛は
家族や一族郎党をとにかく愛したのです。
まさにファミリーの大黒柱
「頼れる父ちゃん」だったのです。

東日本大震災以降
家族の絆が改めて問われているといいます。
政界でも経済界でも
真のリーダーが求められています。
今なぜ清盛か。
答えはその辺りにあるように思います。
そして、なにより、私の愛する清盛の明るさが
日本を元気づけてくれると信じています。

 
 
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