巻頭エッセイ
子供に「子供だまし」は通じない
外食事業一筋に仕事をしてきた私が
「キッザニア」という新しい夢に出会ったのは
35年勤めた会社を60歳で退職した後のこと。
さてどうするか。これから何をしようか。
そう思っていた矢先に
アメリカ人の友人から、子供に職業体験をさせる
面白い施設がメキシコにあるという話を聞いた。
興味が湧いて本場のキッザニアを見学した。
現実社会の約3分の2という子供サイズの街並み。
実在する企業がスポンサーになった店舗型の
パビリオンがリアルな街のように立ち並んでいる。
そのなかで子供たちはさまざまな仕事に取り組み
「大人社会」を疑似体験していた。
生き生きとした子供の目の輝きを見ていると
「学び」と「楽しさ」を両立するという
コンセプトに合点がいった。
事業としても面白そうだと直感した。
一方で日本の子供たちに受け入れられるだろうか
という疑問も頭をかすめた。
当時、すでに日本ではニートやフリーターが
社会問題化していた。
日本の教育はあまりに勉強一辺倒で
「働くこと」への意識付けが薄いのではないか。
だからこそ、もっと子供の頃から「仕事」や
「社会」と向き合う仕組みが必要なのではないか。
考えるほどにキッザニアを持ち込んで
職業意識が揺らいでいる日本社会に
一石を投じてみたいという思いが強くなった。
6歳と3歳の孫2人をメキシコに連れていって
反応を試したこともある。
言葉はちんぷんかんぷんなのに、2日間、朝10時
から夕方6時まで帰りたがらないのだから
何か感じるものがあったのだろう。
「子供だまし」のつまらなさというのは
本当は子供が一番よくわかっているものだ。
事業化に走りだしてから、私の仕事の8割方は
スポンサー企業の開発だった。
しかし、全く新しいコンセプトの事業に
投資してくれる企業はそう易々とは見つからない。
「本家アメリカ」なら少しは食いついてもらえるが
「本家メキシコ」では当初は
箸にも棒にも引っ掛からなかった。
それでも東奔西走しながら、事業の社会的意義や
有用性を粘り強く訴えていくうちに
徐々に賛同していただける企業が増えてきて
2年の準備期間を経た2006年10月に
「キッザニア東京」を立ち上げることができた。
現在では協賛企業は80社を超え、09年3月には
「キッザニア甲子園」もオープンしている。
いずれ「キッザニアがきっかけ」という職業人が
社会に出てくる日がやってくるだろう。
それを今から心待ちにしている。
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