巻頭エッセイ
白洲家の厄介な流儀
白洲次郎とその妻正子
そして母方の祖父である小林秀雄とその妻。
四人の祖父母から
初孫だった僕は随分可愛がってもらった。
僕にとっては優しいおじいさん、
おばあさんというだけで
世間的に知られている“社会的な顔”を知ったのは
後年になってからだ。
祖父、次郎は僕に昔話を一切しなかったし
昔の写真を見せてもらったこともない。
祖母の正子も僕の両親も
祖父の話をすることはほとんどなかった。
我が家の人々は過去というものに
とんと興味がないらしい。
「葬式無用、戒名不用」は次郎の遺言だが
小林の祖父も余命が尽きる前に
私信などはすべて燃やしていた。
没後、家を記念館などにされることを嫌って
「やったら化けて出てやる」と言い残した。
そんな四人の祖父母や両親から僕は
教え諭すようなことを言われた覚えがない。
躾がましいことも一切言われなかった。
勉強しなさいとか習い事をしなさい、もない。
何事にも自分の「基準」を持ち
世間の尺度に自分を合わせようとしない
自分勝手な人たちだから
ああしろ、こうしろと他人にも言わないのだ。
我が家には家族写真というものがない。
カメラを向けて「こっち向いて」と言っても
そっぽを向くような人たちばかりで
祖父母と一緒に撮った記念写真が一枚もない。
それでも祖父母と接した日々から
自然に学び、受け継いだ「流儀」がある。
見たいものは一刻も早く見たいし
食べたいものはすぐ味わいたい
後先を考えない僕のせっかちは、クルマや酒の趣味
同様、間違いなく祖父次郎譲りだ。
骨董趣味は祖母正子の影響が大きいし
小林の祖父と引き比べるのはおこがましいが
僕は今、日本の自然や伝統文化を見て回って
文章を綴る仕事をしている。
そして祖父母や僕に明確に共通しているのは
好き嫌いがハッキリしていることだろう。
好きなものを好きと言うのは簡単だが
嫌いなものを嫌いと言うのは難しい。
しかし、そこをハッキリさせないと
自分の見方、「基準」というのができてこない。
この辺りは息子にも受け継がれているらしく
たとえば食べるものにはすこぶるうるさい。
小さい頃、友達の家でご馳走になっても
平気で「まずい」と言って周囲を慌てさせた。
時に厄介な流儀でもある。
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