三組の専門家の結論

結局、勉強場所は
リビングがいいか、子供部屋がいいか

 
 

お宅のお子さんはリビング派?
それとも子供部屋派?
子供にとってよいのはどちらなのか。
取材を進めていくと、
その悩み自体がおかしいと指摘され続けて……。

 
 
教育の専門家
藤原和博
東京大学経済学部卒業後、リクルートに入社。2003年、杉並区立和田中学校で民間人校長に就任。進学塾と連携した「夜スペ」など、さまざまな学校改革に取り組んだ。

子供部屋の専門家
北浦かほる
帝塚山大学教授、大阪市立大学名誉教授。専門は居住空間デザイン。子供の空間認知や、国内外の絵本における親子関係および子供部屋の意味について研究を続ける。

オフィス空間の専門家
オフィスデザイン
1999年設立。本社は東京都港区。コンサルティング・企画・設計から移転まで、オフィス空間に関するソリューション事業を営む。営業部長の前川氏(右)と太田氏。

尾関友詩=文
堀 隆弘、岡村智明=撮影
 
 

子供が勉強する場所を考えるよりも
大切なことがある


「リビングなら親の目が届くので安心できるけれど、本人が勉強に集中できるのはやっぱり子供部屋かしら」
 子供の勉強する場所について、誰しも一度はこのように考えたことがあるのではないだろうか。
 親世代が子供の頃、勉強は自分の部屋でやるものと決まっていた。多くの親の親は、「いつまでもテレビばかり見ていないで、自分の部屋で勉強しなさい」と口をすっぱくして言っていた。いま、同じセリフを子供に対して使っている親も少なくないだろう。
 ところがいつの頃からか、リビングで勉強する子供が目立つようになってきた。それもテレビを見ながら、だらだらやるわけではない。しっかりと目的を持ち、集中してドリルやノートに向かうのだ。そんな中で、有名中学に合格するなど結果を出した子供の話を耳にすれば、それならわが家でもと考えてしまうのも無理はない。
 今回おじゃました天才たちの勉強場所を整理してみよう。

・安永家(算数)=リビング
・遠藤家(化学)=子供部屋
・横田家(物理)=普段はリビング、集中時は子供部屋
・山崎家(気象)=子供部屋
・堤家(簿記)=リビング
・楠木家(百人一首)=子供部屋
・内村家(体操)=リビング

 ほぼ半々である。これといった傾向は見当たらない。
 結局、勉強場所はリビングと子供部屋のどちらがいいのか。われわれは教育の専門家と子供部屋の専門家を訪ね、意見を聞いてみることにした。

 結論的にわれわれの目論見は、もろくも崩れた。二人の専門家は異口同音に「子供の才能が伸びるかどうかは、場所の問題ではない。それよりもっと大切なことがある」と断言したからだ。
 場所の問題ではないとしたら、いったい何の問題なのだろう。本題に入る前にまず、子供部屋の存在意義とはそもそも何か、そこから考えていこう。


経済的に許すなら
なるべく早いうちに
個室を与えるべき


 子供部屋という空間を30年近く研究している帝塚山大学教授の北浦かほるさんは、経済的に許すならばなるべく早いうちに子供部屋を与えるべきだと言う。
「幼い頃からひとりになることは、人にとってとても大事なことなんです。子供部屋はそのための囲い。たとえば両親に叱られたときなど、そこに閉じこもっていろいろ考えるでしょう。寂しがったり悲しがったり、あるいは腹を立てたりしながらも、自分自身のことについて考えるようになるはずです。子供部屋とは、そういった時間を経験できるとりでなんです。そのとりでをうまく使いこなすためには、なるべく小さい頃から子供部屋を持ち、ひとりの時間をたくさん経験して会得していくしかない」

 日本をはじめ、アメリカ、ベルギー、ドイツ、ポーランド、中国など、さまざまな国で子供部屋を見て歩き、その家に住む親子の話を聞いてきた北浦さんは、調査をまとめた著書でこう書いている。
「日本ではまだ相変わらず建築家まで荷担して、気配の感じられる子ども部屋にすべきだとか、個室が閉じこもりを招くだとか言われていますが、悲しい時や腹が立った時に、ひとりで閉じこもれないような子ども部屋なら不要なのではないでしょうか。3歳までに築かれているはずの親子の信頼関係の不毛を、空間へ責任転嫁しているとしか言えません」(井上書院『世界の子ども部屋子どもの自立と空間の役割』より)
 つまり、子供部屋の第一の役割は勉強ではない。「勉強しないなら個室を与えた意味がない」と嘆く親がいるとしたら、それは的外れな考えということになる。


(続きは本誌をご覧ください)

 
 
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