巻頭エッセイ

結婚式での娘の手紙

 
 

あさのあつこ 作家

 
 

子育ての真ん中では
しんどいことがいっぱいある。
それを楽にしてくれるのは子供ではない。
子供がどうにかなれば子育てが楽になる
と考えるから袋小路に迷い込む。
変えるのは子供ではなくて自分。
何でもかんでも背負い込むのではなくて
どの荷物を下ろせるかな、と考える。

たとえば「学校に行かない子を行かせる」
という荷物をまず下ろしてみる。
「あんな子にしたい」「こんな子にしたい」
理想や願望という荷物を
一つでも二つでも下ろしてみる。
自分で自分を楽にするしかないのだ。
子供のことで悩んだり、苦しんだり。

人生の中でそういう時期は実はとても短い。
無責任な言い方かもしれないけれど
それを楽しまない手はない。
学校に行かない子供との時間を大切にする。
何を考えているのかわからなくなった
子供と過ごす時間を愛おしむ。
そう思えたら随分楽になる。
荷物を下ろして考えられるようになったのは
一番下の娘の子育てのとき。
三度目の正直で
やっと生身の自分で向き合えたように思う。

娘は勉強が大嫌いで奔放な性格。
中学の時から化粧に興味を覚えたり 髪を染めたりしていた。
学校から呼び出されたこともある。
でも彼女が学校の価値観から外れても
親として別段オタオタすることはなかった。
他愛のない話を毎日のようにして
「子供ってこんなこと考えるんだ」と
物語のネタにする余裕があった。

一度だけ警察のお世話になったことがある。
空き地で友達の原付バイクで遊んでいて
補導されたのだ。
「お母さん、ごめんなんだけど……」
沈んだ声で当人から電話がかかってきて
近所の警察署に迎えに行った。
「警察のお世話になったのは初めてだよ」
そう言って娘の頭をパカンとはたいた。
それでおしまい。

 24歳の結婚式。
エンディングで彼女は手紙を読んでくれた。
「服装検査や頭髪検査に引っ掛かって
よく家に帰された私を
お母さんはいつも笑って見ていてくれた。
私はずっと笑って生きてこられた」
バカ正直な手紙に涙の場面で苦笑い。
「添削しとけよ」と小声で夫に叱られた。

 
 
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