巻頭エッセイ

強い人間なんていない

 
 

原 辰徳 読売ジャイアンツ監督

 
 

強い人間なんていない。
そう子供たちに知っていてほしいと思う。
そして、強い人間じゃなくても、
決して恥じることはないと思っていてほしいと思う。
たとえば、腕立て伏せを毎日やる。
英単語をいくつ覚える。
そんな目標やノルマを守れずに
「僕はダメな人間だ」と、自分を蔑んだりしていないだろうか。
そんな必要はない。
誰だってみんなそうだからだ。
もちろん僕だってそうだ。
自分で決めたことを守れなかったり、続けられなくて三日坊主になったり
そんなことは何度もあった。
そのたびに「俺はなんて意志の弱い男なんだ」と落ち込んだりもした。
けれど人間なんてそんなに強くはないのだ。
できないことや守れないことがあっても当然なのだ。

恥じることなどない。
むしろ大切なのはその先だ。
また今回もできなかった。
やっぱり同じことの繰り返しだ。
なんて意志の弱い男だ。
そんなふうに落ち込んだ後で、僕はいつもこう呟いてきた。
「よし、今日からもう一回挑戦だ」
そして、もう一度スタートラインについて、もう一度チャレンジを始めた。
守れなかったり、続けられなかったことを、そのまま終わらせるのではなく
もう一度始めることができるかどうか、それこそが人生において大切なことなのだ。

子供たちに覚えていてほしいと思う。
強い人間なんていない。
うまくいかないことも続けられないこともいくらだってある。
けれど、三日坊主を、三日坊主のままで終わらせずに
弱い自分を、弱い自分のままで終わらせずに、もう一度挑戦してみようとする姿勢。
それさえ持ち続けられれば、人は前に進んでいけるし、
人生の勝負にも勝ち続けていけるのだ。
もちろん何度チャレンジしたっていい。
失敗したり、挫折したりするたびにリスタートを繰り返せばそれでいいのだ。
決して、弱い自分を諦めることはない。
そのことを忘れないでほしいと願う。

 
 
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