巻頭エッセイ

スポーツクラブと地域の力

 
 

犬飼基昭

日本サッカー協会会長
 
 

 

僕は悪ガキだった。
隣家の柿の木に登って勝手に実を食べたり、友だちといたずらをしたり、
近所では有名な「イタズラ坊主」だった。
だから、おじさんやおばさんにいつも追いかけ回されていた。
追いかけられて叱られて、時にはひっぱたかれて
けれど、怒られるのも楽しみながら、飽きもせずイタズラに励んでいた。
いまにして思えば、そんなふうに近所の大人たちに叱られながら
でも同時に、僕は見守られていたのだと思う。
一人の悪ガキを、ゆったりと包んでくれる「地域」の中で
僕は育まれていたのだ。

しかし時は流れ、子供は外で遊ばなくなり、
彼らを見守る「地域」も消えようとしている。
日本だけではない。
先進国の多くで核家族化が進み、子供たちはテレビゲームに没頭している。
そんな中、ヨーロッパでは
「スポーツクラブ」で子供たちを育てようとしている。

スポーツクラブといっても、
日本のいわゆるフィットネスクラブとは違う。
グラウンドがあって、クラブハウスがあって、
いくつもの競技を行えるスポーツクラブが
ヨーロッパのほとんどの町にはあり
学校との両輪によって子供たちを育てているのである。
学校では知識を学ぶ。
ただし授業は同年代の子供たちで行われる、いわば横社会だ。
一方、スポーツクラブには、大人も年上のお兄さんも、年少の弟たちも集う。
まさしく「地域」のような縦社会である。

そんな環境の中で、子供たちは
スポーツを通してルールの遵守、礼儀やマナー、責任感や自立心、
思いやりや協調性といった、人間性や社会性を身につけていくのだ。
しかも、スポーツクラブは国や自治体のコンセンサスの下に運営されている。
現代社会の問題に対抗するツールとして、スポーツの可能性とクラブの価値を
ヨーロッパの人々は知っているからこそ、予算も組み、
大切に守っているのである。

日本でも子供たちのためにそんな環境を作りたいと思う。
Jリーグの「百年構想」はそんな挑戦でもある。

 

 

 
 

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