巻頭エッセイ
夫婦喧嘩ゼロのルール
結婚して45年になる。
でも夫婦喧嘩をした記憶がない。
もちろん意見がいつも一致するわけではない。
それでも喧嘩をせずにすんでいるのは、夫婦の間で決定権をはっきりと分けているからだ。
言い出したのは妻だった。
「大きなことはあなたが決めてください。小さなことは私が決めますから」
結婚する際、彼女はそう提案したのだ。
私ももろ手を挙げて賛成した。
日常生活の家事や財務管理は私の得意分野ではない。
全部彼女が決めてくれるならそれにこしたことはない、と思った。
以後、その取り決めを守りながら私たち夫婦は過ごしてきた。
ちなみに45年間の結婚生活で私が決めたのは、
アメリカ勤務のため家族で渡米することと、検事を辞めることだけ。
その2回だけは私が決めて妻は黙って従った。
それ以外のことは全部妻が決め、私は何も言わずに彼女に合わせている。
たとえ掃除がおろそかになっていても文句を言ったりはしない。
掃除をするかしないかの決定権は彼女にあるのだ。
時折、私も庭の芝刈りをするが、それは彼女から要請があってのことだ。
私からはいっさい口は出さず、ただ黙って従っている。
無論、意見や嗜好が合わないこともある。
たとえば旅行の行き先や、音楽会の演目で、私と妻の好みはいつも対極だ。
そんな些細なことが原因で、夫婦喧嘩に発展しても不思議ではなかったと思う。
それでも喧嘩をせずにすんだのは、妻が、私の意見を採用してくれることが多かったからだ。
決して私が無理強いをしたわけではない。
あくまでも決定権は彼女が握っているのだ。
決定権を持っている彼女が自分の意見ではなく、夫の希望を取り入れた決定を下すのだ。
だから夫婦喧嘩など起きるはずもない。
はっきり言って、私は丸儲けである。
好きなことばかりやってくることができた。
妻のおかげだ。
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