新 手仕事ニッポン12

玩具花火のどうぶつはなび (福岡県・みやま市)

 一瞬で終わらない。

 

花に大小はあれど、夜空に咲いては散る夏の風物詩に、思い出がない人はきっといない。 そして、大人になってからの方が、より花火という存在にノスタルジーを感じるようになった気がするのは私だけだろうか。「筒井時正玩具花火製造所」の玩具花火は、そんな〝かつての子供〟のための花火である。

 元々、福岡県みやま市は、花火の製造所が集まっている地域だった。だが近年、安価な輸入品に押され廃業する同業者が増える中で、店主は、日本古来の風物を新しい感覚で伝えたいと、職人の手技に特化した花火づくりに奮闘している。なかでも、背中から吹き上げる火花を潮吹きに見立てた「どうぶつはなび」の鯨は、長崎くんちの山車や高知(土佐)の郷土玩具を思わせ、愛嬌(あいきょう)たっぷり。火をつけるのがもったいなく、見えるところに飾っておきたい気持ちにさせる。

  ところで。花火は湿気(しけ)る前にすぐに使わなくては、という思い込みがあるけれど、「吹き上げる鯨花火」は 10年ほどは保存が可能という。線香花火に至っては、 20~30年は問題ないと聞き、驚いた。質のいい国産材料を使った線香花火は、吸湿と乾燥を繰り返すことで火薬が安定し、〝熟成〟することでより美しい火花を放つのだという。 

  玩具花火をゆっくり愛(め) で、思い立った節目に火を点(とも) す。儚(はかな) い火花は真夏だけの風物詩ではない。晩夏、初秋、冬のさなかのそれもまた、大人ならではの愉しみと言えようか。

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 「どうぶつはなび」 手持ち花火や小型の打ち上げ花火を総称した〝玩具花火〟。「筒井時正玩具花火製造所」は、昭和4年に現・三代目の祖父が福岡県三池郡高田町(現みやま市)で創業。愛らしいデザインの「どうぶつはなび」をはじめ、国産の松煙(松の煤〈すす〉)と八女の手すき和紙を使い、熟練の職人による手縒(よ)りで製造する「線香花火」、〝しとしと〟〝ぱちぱち〟など金属の種類や大きさによる火花の表情を楽しむ「金属花火」など、伝統と新しい風を融合したものづくりが注目されている。「どうぶつはなび」シリーズは「吹き上げる鯨花火」464円と「動く龍花火」410円の2種。http://tsutsuitokimasa.jp/

 

 

 

文、セレクト=つるやももこ 撮影=尾嶝 太

つるや・ももこ 旅・道具・暮らしと人をテーマに執筆を行なう。北九州市発行のフリーペーパー『雲のうえ』は今年で創刊10周年。11 月発行の25号は関門海峡を特集。海の仕事や海のそばの暮らしをレポートしています。