新 手仕事ニッポン11

高岡銅器の「おともりん」 (富山県・高岡市)

 

旅する音色。

 

両手のひらにすっぽりと収まる小さなおりんは、どこにでも〝お供〞として連れて行ける。傍らに置いて、りん棒代わりの天然石で奏でると、高めの澄んだ音色が響いた。目を閉じる。音は空気を震わせて余韻は思ったよりも長く、静かに続く。いつの間にか体はどっしりと落ち着き、振動が胸の奥の方に届いた。心は凪(な)いだ海のよう。美しい音は、心身を緩ませ、力をくれる。

 

 高岡では、江戸時代初期から、高い鋳造技術で日用品から仏像・仏具に至るまで、あらゆる銅製品がつくられ続けてきた。なかでも仏教が日本に伝来して以来、祈りのための道具として使われ、そしてつくられてきたおりんは、金属そのものの質が問われる道具だ。 

 

 久乗おりんは、打音の美しさに定評がある。銅を主成分とした合金の割合、形状や厚み、大きさなどを変えることで、音色は百にも千にも彩りを増す。営々と磨いてきた技術が奏でる音を、使い道にとらわれず、そしてもっと多くの人に知ってもらいたい。「山口久乗」が仏具ではないおりんをつくりだした理由はそこにある。

 

 玄関に置いて、「行ってきます」「ただいま」のタイミングで。あるいは、ヨガや瞑想(めいそう)の最中に鳴らしてみる。旅先のホテルの部屋で鳴らせば、散漫とした場の空気が整うような感覚を味わえるかもしれない。

 

 おりんの音は、行動や気持ちの切り替えスイッチ。形なき音色をお守りにして旅に出るのも悪くない。

 

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 「おともりん」 高岡銅器の起源は江戸時代にさかのぼり、高岡城下の発展のために鋳物師を呼び寄せたのがはじまりといわれる。日用品から仏像・仏具、美術品まで製造品は多岐にわたる。「山口久乗」は明治40年に創業。おりんをはじめ、現代の暮らしに寄り添う新仏具の開発に力を入れている。銅合金製の「おともりん(光彩)」は、5種類の天然石(ローズクオーツ、カーネリアン、アベンチュリン、ヘマタイト、タイガーアイ)の振り子(りん棒)と富山県八尾(やつお)の手すき和紙の小袋(りん座)とセットで各4752円。www.kyujo-orin.com

 

 

文、セレクト=つるやももこ 撮影=尾嶝 太

つるや・ももこ 旅・道具・暮らしと人をテーマに執筆を行なう。北九州市発行のフリーペーパー『雲のうえ』は今年で創刊10周年。11 月発行の25号は関門海峡を特集。海の仕事や海のそばの暮らしをレポートしています。