文・瀬川 慧 撮影・八木澤芳彦
 
 

 山口県・下関といえば、日本で水揚げされる天然とらふぐの8割近く、さらに長崎県や熊本県で生産された養殖ふぐが集まる、ふぐの一大拠点である。ご当地では“福”に通じることから、濁らずに「ふく」と呼ぶ。柔らかなこの響きがいかにも飴色に輝く極薄の美しい刺し身を思わせ、耳にするたび頬が緩む。
 早朝、南風泊(はえどまり)市場で生きたまま競り落とされたとらふぐは、加工場へと運ばれ、ふぐ職人の手で瞬時に皮をはがれ、毒のある内臓や棘(とげ)のある鮫肌などを除去する身欠き処理がなされる。それから再び、全国へと出荷されていくのだ。

 現在、料亭や旅館などでは丸のままでなく、こうした“みがき”で仕入れるところがほとんどだという。「ふぐにはときどき外見ではわからない打ち身や傷があります。その点、みがきなら身質の良し悪しは一目瞭然。さばく手間もかかりません」と言うのは、地元で80年以上とらふぐ専門店を営む、下関唐戸魚市場ふぐ仲卸「酒井商店」の酒井一さん。本場とはいえ、仕入れから加工、販売まで一貫して行っているところは少ない。何はともあれ、ふく刺しをいただこう。みがきを三枚におろして冷蔵庫で2日ほどねかせた、天然とらふぐ刺しは身が締まって旨味を増し、濃厚な味わい。清らかな甘さに圧倒される。そうか!このみがきを取り寄せれば、家で豪華天然とらふぐコースを楽しむのも夢ではないのだ。あとは、みがきが届くその日まで、包丁をぴかぴかに研いで待てばいいのである。

 
 
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