人生の食卓を無駄にしたくないと願う男の食の軌跡 第122回
一食入魂の精神を忘れず、
いろいろなものを食べまくった薫堂さんが選んだ
2011年の5皿とは――
今年は「ふくあじ」がひとつのテーマでした。熊本に出張したとき、昼食に「おふくろの味 みむろ」という食堂に連れて行ってもらいました。店に入ると、そこで生き生きと働いているのは全員女性。連れて行ってくれた熊本県庁の方のお薦めにしたがい“イワシフライ定食”を頼みました。
炊き立てのご飯、味噌汁、煮付けが入った小鉢、そして大きなイワシフライ。おまけに一口カツまでついていました。このイワシフライが旨い! かぶりつくとイワシの旨味がジュワッと口の中に広がって、さらに唐辛子が入った特製の酢をかけると旨味が増す。ご飯が進む。ああ、この幸せなおいしさを感じられるのは日本人の特権だなぁ、と思った瞬間に「ふくあじ」という言葉が浮かんだんです。おふくろの味、幸福の味で「ふくあじ」。自分が探し続けているのは「ふくあじ」の店だったんだと、気付いたんです。
それから、「感動的な味」にもたくさん出会いました。「LIBRE(リブレ)」もそのひとつです。僕の弟分のT君が開いたブリトー専門店なのですが、10年ほど前に相談されたときは「ブリトー専門店なんてやめたほうがいいよ」と言ったんです。ところが、僕のアドバイスを無視して開いたこの店のブリトーがおいしい。ブリトーってこんなに旨かったんだ、と感動しました。
「キャッチャーノ」熟成肉のステーキも感動しました。グリル料理の盛り合わせに入っていた池田牛のイチボのステーキが凄い。34日間熟成して真っ黒になっている牛肉は旨味が凝縮している。それに、この店は日替わりの前菜とパスタから好きなもの選んで、メインの肉をどれにするかで値段が決まるというユニークなシステム。これもいいですね。
そして「虎の穴」の“松茸牛丼”。焼肉店ですが、店主の辛さんが繰り出す料理はどれも独特のものです。その日は、贅沢に松茸を使ったすき焼きだったのですが、最後に、丼ご飯に松茸すき焼きをのせた超高級松茸牛丼にしてくれました。これば罪悪感を伴うような旨さ! もともと僕は「松茸は過大評価されている、椎茸のほうが偉い」と思っていたのですが、この牛丼を食べて「松茸もなかなかやるなぁ」と思いました。
そうそう、今年最も感動的だった料理がありました。俳優の渡辺謙さんにつくっていただいた朝ごはんです。ロサンゼルス出張の際に、ご自宅に泊めていただいていたのですが、朝食は手絞りのオレンジジュースに始まり、卵焼き、焼き鮭、納豆、自家製の浅漬け、豆腐となめこの味噌汁、ご飯。まるで母の手料理のような、そう「ふくあじ」でした(談)。
熊本「おふくろの味 みむろ」の“イワシフライ定食”
熊本県職員に絶大なる人気がある大ぶりのイワシフライは、最初はそのまま、次に唐辛子入りの酢で、そして醤油を少しかけて食べると実に旨い。お母さんたちがきびきびと働く姿を見ながら食べるのも幸せ。いわしのフライなど日替わり定食600円。
熊本県熊本市水前寺6-6-3
096-384-0812
東京・青山「LIBRE」の“ブリトー”
多彩な具がたっぷり詰まって、ボリューム大満足のブリトーはかぶりつくと肉の旨味や野菜の食感が口いっぱいに広がってハマる味。写真は人気の“ポークブリトー”のスーパーサイズ900円。ほかに、チキン、ポーク、ビーフ、ベジもある。
東京都港区南青山3-8-34
03-6459-2272
東京・赤坂「キッチャーノ」の“本日の特選グリリャータミスタ”
この日は、熟成した北海道・池田牛のイチボ、バスク豚の骨付きロースト、自家製サルシッチャの盛り合わせ。写真は2人分。熟成肉が炭火でじっくりと焼かれ、凝縮した旨味が押し寄せる。
東京都港区赤坂3-13-13 赤坂中村ビル地下1階
03-3568-1129
東京・恵比寿「虎の穴」の“松茸牛丼”
松茸を使った極上肉のすき焼きを丼にしてしまうという反則技のような牛丼。椎茸のほうが偉いと思っていた薫堂さんも、これを食べて松茸の価値を認めたとか。松茸は牛丼になることでやっと椎茸を越える!?
http://toranoana.com/
渡辺謙さんの朝ごはん
ロサンゼルスのご自宅でご馳走になったという謙さん手づくりの朝ごはん。翌朝はフルーツパンケーキ、目玉焼き、ベーコンサラダ。料理が上手いだけでなく、食材を一切無駄にしない姿勢にも感動したとか。











