河岸の女たちも
被災地の応援に動き出しています

 
 
文・福地享子
ふくち・きょうこ●かつて女性誌の編集者、その後、鮮魚仲卸「濱長」の看板ネエサンとして大活躍。現在、築地の書庫「銀鱗文庫」役員。被災地支援の物資を調達したり、築地を訪ねてきた被災者をもてなしたりと、大忙しの日々。
 
 

 被災地の応援をしたい、と築地市場で働く女性たちが「チーム・Tsukiji Women」をたちあげた。築地市場は、肉体的にも時間的にも厳しい仕事場という面があってか、完璧な男社会。なにごとも男主導で進む、というのが私の正直な感想だ。しかし、今度だけは女たちでやってみようよ、と、声をかけ合ったら、とんとん拍子でチーム誕生となったのだ。
 積極的にチームづくりに動いたのには理由がある。長いあいだ、フリーランスで仕事してきた私は、集団でなにかをする、というのは苦手だし、グループの必要性を感じることもなく過ごしてきた。しかし、今度の大震災で、それだけではない、と知ってしまったのである。

 大震災直後から、炊き出しの材料調達を手伝ってきた私は、たちまち欲が出てきて「海鮮丼とか食べてもらえたら」と、口に出してしまった。とはいえライフラインもまだ手つかずの時期、実現してもずっと先のこと、と思っていた。ところが早々にある料理人さんが「行きます」と手をあげてくれたのだ。それでも半信半疑──。しかし、それからがすごかった。車の手配、燃料の準備、機材の用意、そのほかあらゆる細かな課題に、さまざまなひとの手が差し伸べられたのである。そして町の大半が津波で流された岩手県大槌町で700人のひとへ向け、現地でご飯を炊いて酢飯をつくり、づけのマグロにイクラ、煮アナゴ、卵をのっけた海鮮丼がふるまわれたのである。
 つくづく思った、大勢のひとが寄り集まれば、どんなことでも可能になると。

 さて、「チーム・Tsukiji Women」がめざすのは、大震災で失われた「わが家の食卓」、その再生へのお手伝いである。
 飯茶碗から湯飲み、コップ、皿、箸にスプーンと食べるための道具すべて。そして鍋やフライパン、杓子類、できれば電子レンジや炊飯ジャーなど電化製品も含む調理器具。それらを集め、被災地へ運ぶ。そして現地で「生活雑貨・お好きにどうぞ市」を開催。名前のとおり、お好きなものを無料で持ち帰っていただき、「わが家の食卓」づくりに役立ててもらおう、という計画である。
 こうして青写真は簡単にできたが、実行に移すとなるとストック場所の確保に仕分け、広報や渉外、情報収集と、猫の手を借りても足りぬほど。だが、ひとつの町ほどのコミュニティーである築地市場。ここぞとばかり潜在能力発揮、というか思わぬ力が続々と集まったのである。築地の女力? で着々とことを運んでいる真っ最中である。

 あるのが当たり前の「わが家の食卓」。代わりばえしないおかずを、見飽きた顔で囲み、交わす会話もときめきなどさらさらなくて。そんな憎まれ口をきいてはみるが、もしも「わが家の食卓」が失われたとしたら。
 食べることはどこでもできる。しかし「わが家の食卓」は空腹を満たすだけの場ではない。いっしょに食べた時間を合算すれば、いったいどのぐらいになるだろうか。その時間を通して、ほっとするなにか、信頼とか安心、活力、愛情、さまざまなものを生み、育くんできた場所でもある。こんなすてきな場所、世界中探しても、おそらく見つからないだろう。
「わが家の食卓」再生へのお手伝い。築地で食を支える女性ならではの発想であるが、またそれぞれ家に戻れば「わが家の食卓」に気を配る毎日。そこが世界一すてきな場所であることを、この大震災で痛切に感じたからである。

 
 
dancyu 2011年7月号
dancyu 2011年7月号
税込価格 860 円
 
dancyu.comへ
dancyu公式twitterアカウント

メールマガジン <dancyu通信>

 
 

「dancyu」編集部員が、取材現場でのこぼれ話やオリジナルコンテンツなどをお送りします。 [主な内容] 編集部員のマイブーム/今月のスローフード/今月の日本酒/dancyu先取り情報……等々を、毎月2回配信します。

メールマガジン申込・登録変更