築地直送市場の日常おかず 第14回

 
 

かつての大衆魚が大復活。
今年のイワシは脂絶大!


 
 

料理・解説・コラム
築地「銀鱗文庫」役員
福地享子さん

福地さんは、かつては女性誌のスゴ腕編集者。築地市場の仲卸「濱長」勤務を経て、現在は築地の書庫「銀鱗文庫」役員として、市場の隅々までレポートしています。

 
 

 

 脂絶大!?
 なんのこっちゃ、とてつもなく大きな脂とは。なんて、頭で考えっこなし、このさいは。
 イワシの脂についてである。イワシは脂ののりがうまさの決め手。で、卸人さんからイワシの入荷状況の文字情報として、脂絶大というのが送られてきたのだ。通常は「脂アリ」の言葉ですますところを、それでは言いたりないとばかり脂絶大! 脂すごいぞ、と叫び、興奮しているのである。
 市場での魚の売り買いは、セリの様子を想像してもらえばわかるけど、提示されたら即反応という、動物的反射神経が求められる。そこで味の表現も瞬間的イメージでして、脂絶大。濃厚な脂ののり、なんていうより、ずっとリアルじゃありませんか。

 そんなイワシ。ペリリッと皮をはぐ。銀の色に輝く下には白い脂の層。こんだけ脂があると酢でしめようたって、てごわいんだから。塩もなかなか身に入っていかない、酢もはじき返す勢い。それをようよう手なずけて、たまねぎとサラダにする。スパイスには黒こしょう。包丁の柄の先でガツンガツンとたたいたやつ。それをたっぷりのせる。魚に白こしょうなんて大ウソのコンコンチキ、そのぐらいしなくちゃ、コイツの迫力に負けてしまう。
 まったくこのところイワシばかり食べてるなぁ。うちでももちろん、銀鱗文庫勤めとあいなり、お弁当を持っていくことに。みりん醤油でしあげた蒲焼き風、しょうが煮、南蛮漬け、フライとイワシはおかずの常連である。

 数年前は、こんなにイワシは食べなかった。そもそも安くておいしいものが大好物であり、数年前のイワシはその対象になりえなかったのだ。
 市場暮らしを始めて以来、大学ノートに店頭に並んだ魚の値段とちょっとしたメモを書きつけてきた。2005年のノートを見ると、イワシについてはなにやら深刻である。
 たとえば9月9日。「旬とはいえ銚子から魚影が消えて久しい。本日は大阪湾から小イワシ。そして石巻から大羽ながらトビウオみたいに痩せたやつ」。価格は、大阪湾の小イワシでキロ2500円、石巻でキロ1500円。
 産地は日によって変わるが、ずっとそんな調子だ。まれに脂ののったイワシが入荷しても、キロ3000円以上。おいしいとわかっていても、そんなお高いイワシ、おかずにはできない。

 それが今期はどうだろう。例の脂絶大にしてもキロ1000円前後。そこそこのものだと、日によって500円なんてことも。
 イワシは豊漁と不漁を数十年サイクルで繰り返す魚として知られている。最近でいうと1970~80年代は豊漁期。そして88年に約450万トンの大台にのせるが、それ以降は下降線をたどっていく。あのノートに記したころは、ピーク時の100分の1にまで落ちこんでいたのである。
 豊漁期突入のきざしか、今期のイワシ。2020年代に再び豊漁を迎えるという説をかつてある本で読んだことがある。市場に並ぶイワシを眺め、その手ごたえを感じているのは私ひとりではないと思う。


 
 
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