小山薫堂の一食入魂 [109]
コーンの甘さとクリームが絶妙で驚くほど軽い。
箱根で人生最高のコーンスープに出会った
人生の食卓を無駄にしたくないと願う男の食の軌跡

男は、箱根と軽井沢で素晴しい料理に出会い、
感動のひとときを過ごしたのであった。
そしてアメリカの友人にサプライズをするためにつくった
ビストロで、ついにその計画を実行した……。
×月××日
久しぶりに休みがとれたので、箱根のハイアット リージェンシーで週末を過ごす。ここは、別荘代わりに使うには最適のリゾートホテルである。いつ行っても我が家に戻ったような錯覚を覚えるのは、落ち着いたインテリアとアットホームなスタッフのもてなしのせいだろう。
そして何より食事が自分の好みに合っている。
最初の晩は、寿司カウンターを予約した。箱根と聞くと山の中の印象が強いが、実は小田原や沼津の港が意外に近い。港にあがった質のいい魚を毎朝直接入れているのだ。
江戸前スタイルで握る職人の川江雄一さんは、愛すべきキャラクターの持ち主。どんなにワガママな注文をしても、笑顔で可能な限り応えてくれる。のんびりと温泉に浸かったあと、浴衣姿でシャンパンを飲みながら極上の寿司をつまむ。ホテル内の寿司屋だからこそできる贅沢である。
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| 箱根で出会った人生最高のコーンスープは、一見なんの変哲もないが、驚くほど軽く、美味なのであった。今回の題字は豊田シェフに書いていただいた。 |
2日目のディナーは、「ダイニングルーム」という名のレストランへ。ホテルのメインダイニングでありながら、気取らないフランスの田舎料理を目指しているところがいい。その夜、最も感動したのが、何気なく頼んだコーンスープだった。一見どこにでもありそうな本当に普通のコーンスープ。しかしそれが抜群にうまいのである。コーンの甘さとクリームの加減が絶妙で、それでいて驚くほど軽い。思わず総料理長の豊田昌紀さんにレシピを尋ねたところ、家庭でも簡単につくれる方法を教えてくれた。
まず塩をひとつまみ振った玉葱を透明になるまでバターで炒める。そこにフレッシュコーン(あるいはコーンの缶詰)とチキンブイヨンを加えて煮る。よく煮えたら生クリームと牛乳で濃さを調整しながらのばし、ミキサーにかける。そして最後に塩で味を調え、バーミックスで軽く泡立てて完成。
ポイントは玉葱を焦げつかせないことと、最後に泡立てること。スープに空気を含ませることで、軽い仕上がりになるらしい。
それにしても、まさか箱根で人生最高のコーンスープに出会うとは思わなかった。あるいはワインに酔ったせいでうまく感じたのだろうか? 翌朝、ワガママを言ってもう一度つくってもらったら、やっぱりそれは人生最高のコーンスープだった。
×月××日
軽井沢をドライブ中、「オーベルジュ・ド・スズキ」という看板を見つける。東京の成城にあった同名の名店が数年前に閉店したので、まさかと思い入ってみると、やはり成城から移転した鈴木喜代司シェフの店だった。
軽井沢の地で開業したのは2007年12月。その前年に、夫婦で軽井沢を旅行中、旧知の仲である田村良雄シェフの店「エルミタージュ・ドゥ・タムラ」で食事をして大感激。店を出たその足で不動産屋に駆け込み、物件を探して軽井沢への移住を決意したのだと言う。
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| 成城の名店は軽井沢に移転し、地元の食材を使ったうまい料理と、心地よい雰囲気が楽しめる素敵な空間になっていた。 |
ゴルフ場の林に隣接した瀟洒な一軒家。スタッフは、シェフとマダムと支配人の3人だけ。よってランチもディナーも、最大で二組までしか予約をとれない。
料理はもちろん、パンからデザートまで、鈴木さんが全部一人でつくる。フレンチの大御所を独り占めできるなんて、こんなに贅沢なことはない。しかも一人の料理人が全てをこなすそのペースが、軽井沢の時間の流れに合っていて実に心地良いのである。その合間に繰り広げられるマダムや支配人との会話で、これまた心がホッコリする。
成城の頃はトラディショナルなフレンチだったが、軽井沢の環境がシェフの料理をガラリと変えていた。極端に言うなら、地元の食材を使ったうまいもの料理。フレンチにこだわらず、中華やイタリアン、和食の要素も必要ならば取り入れる。そして驚くことに、ディナーの最後に出てきたのはフレンチの大御所が打った蕎麦だった。困ったことに、これがうまい。フレンチの締めくくりには最高の逸品である。
しかも帰り際、レジ脇で「ドライカレー、テイクアウトできます」と書かれたチラシを発見。これもまた見るからにうまそうである。迷わず購入した。
料理好きのお父さんに変身したフレンチシェフは、軽井沢の地でさらに輝きを増した気がした。
×月××日
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| ついにサプライズを実行。ランディは自分の名がついた店にビックリ! さらにランディ・カッツ・サンドに感激! |
赤坂アークヒルズのビストロ「ランディ」に、ついに友人のランディ・カッツを連れて行く。ロサンゼルス在住のランディをサプライズするため、本人には内緒でつくった「ランディ」という名のレストラン(店の詳細は前号に!)。
その看板を見た瞬間、彼は「オー・マイ・ガッー!」と小声でつぶやいた後、言葉を失った。
次の瞬間、店にいた全ての客とスタッフが立ち上がり、ランディに向かって「Welcome to the RANDY, RANDY!!」と叫ぶ。ランディの目がたちまち潤んでいくのが分かった。
店内に入ると自分と家族の記念写真がある。メニューを開けば、子供たちの名前のついた料理がある。中でも彼が特に感激したのは、“ランディ・カッツ・サンド”という自分の名前のついたサンドイッチだった。
実は彼の祖父は、ミッキー・カッツという有名なコメディアンで、当時アメリカ全土のカフェやダイナーに“ミッキー・カッツ・サンド”というライ麦パンにビーフパストラミをはさんだサンドイッチがあったらしい。
「祖父と同じように、自分の名前のついたサンドイッチができるなんて……しかも東京に!」と大感動のランディ。エビカツとアボカド、トマトを挟んだ“ランディ・カッツ・サンド”は本当においしいので、これが日本中に広まるといいのですが……飲食店経営者のみなさん、ぜひ、メニューに加えてください。
「ハイアット リージェンシー 箱根 リゾート&スパ」
神奈川県足柄下郡箱根町強羅1320TEL.0460-82-2000
「オーベルジュ・ド・スズキ」
長野県北佐久郡軽井沢町発地1-7TEL.0267-48-2112
「RANDY」
東京都港区六本木1-3-37 ARKHILLS ANNEXTEL.03-3568-2888













