人はなぜ“半熟”に歓声を上げるのか!?

「たまごめし」が愛される理由

 
 

 ある日の昼下がり。
 ランチ営業が間もなく終わろうとする街角の洋食屋に、40代であろうサラリーマンの一人客が入ってきた。
「ハンバーグ、とライスください」
 メニューをちらりと見ただけで、すぐに注文する。手帳を開き、仕事の予定か何かを難しい顔でじっと見つめている。
「お待ちどおさま、ハンバーグです」
 10分ほど経った頃、ウエイトレスが皿をテーブルに置く。
 やっと手帳から目を離したサラリーマンは、皿をちらりと見る。と、そこにはデミグラスソースがたっぷりかかったハンバーグ、その上には黄色と白のコントラストが鮮やかな目玉焼き。
 サラリーマンの顔がほんの一瞬、ほころんだような気がする。
 そして、フォークを刺して押さえつけながら、目玉焼きの真ん中からナイフを一気に入れる。半熟の黄身がトロリと流れ落ち、ハンバーグの断面に絡みつく。
 その瞬間、サラリーマンは「おっ」と小さな歓声を上げ、濃厚な黄身をまとったハンバーグをうれしそうに口の中に入れた……。
 トロリと流れ出る半熟の黄身を見ると、人はつい歓声を上げる(一人で食べている場合は心の中で叫ぶことが多いだろうが)。初めて出会った光景でもないのに、思わず歓声を上げてしまうのだ。
 なぜか。
「黄色は幸せの色だから」「現代人は顎が退化しており柔らかいモノが好きだから」など、理屈を言う人がいる。「軽く熱を通した半熟の状態が卵の味がもっともよくわかるから」という科学的(?)な根拠を挙げる人もいる。
 しかし、何よりその艶かしい食感を想像させることが、人の心を揺さぶるのだろう。
 たまご自身が主役を張ってその妖艶さを主張することもできるし、ハンバーグにのった目玉焼きのように、主役を引き立てる脇役として魅力を発揮することもできる。そのいずれにしても、官能的な食感を与えてくれる。
 その記憶があるからこそ、この光景を何度見ても、歓声を上げるのだ。人間という動物が、本能的に惹かれる食感、色、艶、味わい……これらを兼ね備えているのが半熟たまごなのだ。
 そして、この妖艶なる黄色をまとった「たまごめし」は、理屈抜きに魅力的で旨いのである。

 
 
※写真は「エドヤ」のハンバーグ 東京都港区麻布十番2-12-8 TEL.03-3452-2922
dancyu 2010年5月号
dancyu 2010年5月号
税込価格 860 円
売り切れ
 
dancyu.comへ
dancyu公式twitterアカウント

メールマガジン <dancyu通信>

 
 

「dancyu」編集部員が、取材現場でのこぼれ話やオリジナルコンテンツなどをお送りします。 [主な内容] 編集部員のマイブーム/今月のスローフード/今月の日本酒/dancyu先取り情報……等々を、毎月2回配信します。

メールマガジン申込・登録変更