築地直送

旬の魚と野菜の日常おかずレシピ

 
 

真っ赤でどんくさいお人好し顔。
でも、味にすっかり惚れている!


 
 

仲卸「濱長」
福地享子さん

かつては女性誌のスゴ腕編集者。今は築地市場の仲卸「濱長」の売り場で、イケメン魚と戯れる日々。文筆業もやっています。今回のきんめだいとごぼうのあら煮は、特に好きな一品。

イラスト・坂木浩子

 
 

 

 人形は顔が命。魚へも、ついそんな目で。颯爽とした男前はぶり。百万石の殿様顔はまだい。挑むような目をしたほうぼうは、歌舞伎役者の市川海老蔵さん。
 そこいくと、きんめだいは……。名前のとおり、目の大きさが特徴だが、どう見てもバランスに欠けるデカサで、おまけに表情に乏しい。全身これ真っ赤で、控えめということを知らぬ。赤いばっかりに、タイ呼ばわりされても、「そうでっか」と甘んじてる、どんくさいお人好し顔である。

  地球上の何万という魚は、学者さんの手で、「目(もく)」とか「科」といった単位で分類されている。まだいは「スズキ目」。きんめだいは「キンメダイ目」。分類学の世界で「目」の単位は、ヒトとウサギほどの差があると、愛用の魚図鑑にあった。
 そのとおり、アヤカリタイに甘んじてるこたないの。もちっとキリッとせい!
 あぁ、こうもくさしてしまうのは、要するに、私、この魚に惚れているのである。その味にすっかりまいってるのだ。
 肉質は白身、プリプリッとか表現する食感には欠けるものの、旬となる冬場なぞ、脂がのり、うまみ濃く、余韻にはほのかな甘味すら。近ごろは、この味のよさが知れ渡り、高値となったのは、きんめのために喜ぶべきだが、私にはシャクの種。

 さて、台所で向かいあえば、とたんに私は、混乱のきわみと化す。煮つけ、刺し身、昆布締め、蒸し物、あら煮、ムニエル、しゃぶしゃぶ、ちり鍋、アクアパッツァ。たまの逢瀬に、きんめ似合いのあらゆる料理が頭にチカチカ点滅しだす。ゆうに2キロ近くもあるりっぱなきんめだ。夫婦二人で3日は楽しんでやれ、楽しむべきだ。あれをこうして、なにをどうして。考えるうちに、もはや頭がはち割れそうになる。
 そして、結局は、いつものパターン。
 つまりです、3枚におろし、さらに背と腹に分け、欲張りなメニューとなる。

 初日。2品食べる。背側の一つを刺し身にする。そして、尾っぽ近くの身を酒蒸しに。これは香港で魚好きのマダムに習った味で、皿にのっけたきんめにお酒をふって電子レンジでチン。そのまま食卓へ運び、ラップをはずせば、フワリ漂う湯気もごちそう、という楽チン料理である。
 2日目。背側のもう一方で昆布締め。初日に仕込んでおいたもので、昆布の風味が染み、身も締まって、刺し身とはまた違う「きんめ力」が味わえる。
 3日目。ごぼうとのあら煮。これも、初日に煮てしまう。冷蔵庫に入れっぱなしにしておいたそれは、味がなじみ、ことにごぼうはこのために存在しているのだ、と涙するほど。煮汁はプリンプリンの煮凝りと化し、これを熱い白飯にかけ、締めとなる。

 甘辛の醤油色ににじんだ白飯をかきこみ、渋茶をすすって、ハッと気づいた。面食いなぞと言い散らかしてきたわが人生、思えば心を許した男たちは、みんなどんくさかった。やっぱ、きんめは一等賞魚。


 
 
 本誌で好評連載中の“築地レシピ”が、ついに本になりました!
 本連載でもおなじみ、河岸で働く物書きネエサン、福地享子さんをはじめ、魚河岸のプロたちが実際に自宅でつくっている、驚くほどカンタンで、ビックリするほどおいしい春夏秋冬の魚料理68レシピ、そして、旬な話がたっぷり詰まった魚河岸エッセイが満載です。
 
 

おすすめコンテンツ

 
 
 
 
dancyu 2009年12月号
dancyu 2009年12月号
税込価格 860 円
売り切れ
 
dancyu.comへ
dancyu公式twitterアカウント

メールマガジン <dancyu通信>

 
 

「dancyu」編集部員が、取材現場でのこぼれ話やオリジナルコンテンツなどをお送りします。 [主な内容] 編集部員のマイブーム/今月のスローフード/今月の日本酒/dancyu先取り情報……等々を、毎月2回配信します。

メールマガジン申込・登録変更