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殻をパクンパクンと海中遊泳。
あたかも帆を立てた船のよう
海の泡から生まれた女神ヴィーナス。イタリア・ルネサンスの画家ボッティチェリは『ヴィーナスの誕生』というタイトルで、彼女の上陸のシーンを描いている。豊かな裸身を見せてたたずむヴィーナス。足元を見れば、オヤオヤ、ほたて貝の殻。ほたて貝を船に、彼女は海からやってきたのだ。
すべてはボッティチェリの想像の産物だけど、なにゆえほたて貝なのか。
さぁ、そこで皆さま、殻付きほたて貝をご用意あれ。謎の扉も開くってもんです。
食卓ナイフを使って、殻をまず開けよう。中央にあるのが貝柱。その回りの内臓もろもろをはずし、しばしご鑑賞を。
硬質な殻の中央にスクッと立つ貝柱。色は乳白色、海の雫をまとったごとくに濡れ濡れとして……。まさにヴィーナスの柔肌。そこに画家の創作意欲は刺激された!?
そしてこの貝柱、異様に大きい。それだけ力にもすぐれ、殻をパクンパクンと開閉させ、海中遊泳だって可能。あたかも帆を立て海をいく船のように。そこで「帆立て貝」の名がついた。船に見立てた大画家の想像力、おみごと! というほかはない。
エッ、鑑賞より早く食わせろ? ごもっとも。でしたら貝柱をナイフではずし、そのまま口に放り込んで。そう、ただの丸かじり。口に含めばヒンヤリツルリ、食感はあくまで柔らかく、噛めばほんのり甘い。初めて丸かじりしたとき、私、あまりのうまさにのけぞったものだ。
ベースがこのおいしさゆえ、料理法ときたら和洋中華、生、焼く、揚げる、煮るといかようにも。だから、河岸でも人気が高い。多くの貝が輸入に頼っている昨今、ほたて貝の供給は国内産だけで可能。産地は北海道、青森県、岩手県、宮城県だが、出荷時期をずらすことで四季を通じて入荷。相場もほぼ安定し、手堅い商材でもある。
しかし、この人気、実は近年になってのこと。昭和の後半、初めて北海道からやってきたころは、もう散々。当時、貝柱の王様といえばたいら貝で、その食感と比べると柔らかな点が嫌われ、売れなかった。
ブームに火がついたのは炉端焼き。殻焼きが大ヒットした。刺し身や寿司ダネへと生食が広がったのは、それからだ。
今では殻をむいて貝柱だけにしたものも入荷。殻つきは「カラホ」、貝柱は「ムキホ」と呼ぶのが市場的用語である。
東京上陸の転機となった殻焼きは、わが家でも定番の一つだ。焼くうちに殻は貝のジュースでいっぱいに。そこに醤油をタラリ。漂う香り。すでに始まる御馳走感。ほたて貝のうまみは焼くことでより濃厚となり、ヒットの理由も納得の味ってものだ。
ムキホを持ち帰れば、初日は刺し身やづけ丼で生を堪能。翌日はバター焼やフライ。
そして、もっかぞっこんなのは、味噌漬けだ。こんがり焼けば、冷めてもおいしく、弁当男子におすすめしたい。できれば女子へのお裾分けも。これぞ弁当男子の本懐をとげる味、というのは言い過ぎ?












