「一食入魂」連載100回記念
小山薫堂スペシャルインタビユー

男は、2001年6月号にdancyu誌上で「一食入魂」という連載を開始した。
あれから8年余り、連載はついに100回を迎え、
この間、約600軒の店が登場した。
男は、何を思って食べ続け、そして
今後どのように“一食入魂”していくのだろうか――。
――「一食入魂」が連載100回を迎えました。振り返ってみて、いかがですか?
薫堂 もう100回ですか。早いですね。読み返してみると、自分のことながら、本当にいろいろ食べていますねぇ……。この連載を始めた頃は、まだブログもあまり普及していませんでした。だから、僕が自分で食べた店のことを書くと、それが“情報”として読まれていたと思います。特にあまりマスコミに露出していない穴場的な店は、希少な情報として価値がついたのでしょう。僕自身、それを意識していたところもありました。
でも、ブログが普及して、さまざまな人たちが、マスコミに出ないような店も含めて、あらゆるレストランの情報をアップするようになった。多くの人が自分のメディアを持ち、それをまた多くの人が見るようになったんですね。ブログでは、情報が即日アップされますから、雑誌より1カ月くらい早く露出します。僕が「一食入魂」に書くより1カ月前にその店の情報が世に知れ渡るようになったのです。
――えーと、一般的には1カ月程度の時差ですが、「一食入魂」はいつも締め切り過ぎてからしか原稿が来ないので実際は2週間程度の時差です。
薫堂 あ、そうでしたね。ごめんなさい。とにかく、ブログの普及によって、「一食入魂」に求められる情報の価値が変わってきたと思うのです。
――具体的にはどう変わったのですか?
薫堂 単なる店情報ではなく、その店をどう使いこなすか、といったことでしょうか。だから振り返ってみると、当初は店や料理の内容を書くことが多かったのですが、次第に「この店をこんなサプライズで使ったら面白かった」とか、「あの店にはこんな裏技や裏メニューがあるから、このように利用すると楽しい」といった内容が主体になりました。
――さらに最近では、店や料理人だけでなく、生産者と料理人のつながりなどについて触れることが多くなっていますね。
薫堂 そうですね。もともとおいしいかまずいかよりも、食事を楽しみたい、という思いが基本にあります。それを突き詰めていくと、いい食材といい料理人の出会いがとても重要だと思うようになりました。さらには、そこに食べる人がつながることによって、すばらしい関係が出来上がる。この理想の形を求めると自然と地方に目が向くようになった。だから、最近は地方の生産者について書くことが多くなったと思います。もともと、地方を元気にしたいという気持ちもありましたから。
――過去99回の「一食入魂」にたくさん登場した店を調べてみました。一番多かったのは軽井沢のフレンチレストラン「エルミタージュ・ドゥ・タムラ」でした。
薫堂 やっぱり! 僕が最も好きなレストランの一つですからね。シェフの田村さんは東京から軽井沢へ移って、いろいろな呪縛から解き放たれてさらに開花されたんだと思います。料理人としての生き方の一つのお手本だと思いますね。まさに、生産者と料理人と食べ手のすばらしいリレーションが実現しています。この店もそうですが、「一食入魂」では“シェフの人生”を味わえる店をピックアップしてきたような気がします。皿の上の料理や店の空気感などに、料理人の人生やストーリーが込められていて、それをいただくことによって幸せになれる。そんな店が僕の理想ですね。
――「ロオジエ」「嵐山吉兆」「寿司幸本店」などの有名店に加え、「司亭」「吉野家」もよく登場していますね。
薫堂 「ロオジエ」や「嵐山吉兆」などはトップブランドのいい店ですよね。客への対応がすぐれているだけでなく、実に懐が深い。客を喜ばせるツボをきちんとわきまえている。
「司亭」は事務所の近くの弁当屋で、どれも安くて旨くてボリュームたっぷりなんです。時々僕が食べたい弁当の設計図を描いて渡すと、その通りにつくってくれるような遊び心もある。安くて旨いものを食べさせようという“オカン的心意気”にあふれています。寂しいときに行きたくなる“小さな心の広場”という感じです。「吉野家」はそんなに登場していますか!? 吉野家の牛丼は、何となく悔しいけど傑作です。肉とご飯のバランスがすばらしい。ついつい入ってしまいますよね。
――100回の間に薫堂さんの意識や視点にもだいぶ変化があったようですが、この先はどうなるのでしょうか?
薫堂 僕は、レストランに支払うお金は“拍手”だと思っています。楽しい食事で幸せな時間が過ごせたときは店や料理人、スタッフにたくさん拍手を贈りたいと思う。今後も拍手をしたくなるような店にできるだけ多く出会いたいですね。そのような店で食事をすると、元気になるし、あるいはその店に出会ったことで人生が変わるかもしれない。そのためにも、心の中で生産者と料理人と食べ手のいい関係、料理人の人生を味わえる店は「一食入魂」の永遠のテーマでしょう。
――8月号の「一食入魂」でも『料理人や職人の哲学や作品が、食べ手の人生の分岐点となる……その料理を食べることで、ある人は元気になり、ある人は謙虚になり、ある人は勇気をもらう……そんな店ばかりを集めて本にしたい』、と書いていますね。よし、「一食入魂」100回の集大成として、人生がハッピーになるような店をまとめて単行本にしましょう!
薫堂 そうしましょう!

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