築地直送
今月の旬&市場の日常おかずレシピ
今や生でも楽しめる。
目黒の殿様にも食べさせたい
「どうだ、ウマは残ってるか」
近所のえび屋の番頭さんが、今宵の酒の肴を物色に。ウマ! 馬ではない。さんま・んま・うま。河岸で年季がいった御仁は、さんまのことをそう呼ぶことがある。
夏目漱石の『吾輩は猫である』では、さんまを「三馬」と記しており、「うま」と広く呼ぶ時代があったのでしょうか。
今は漢字で書くと、秋の刀の魚。
とはいえ、河岸がさんま初入荷にわくのは、七夕が明けてすぐ。北海道から航空便で到着。仲卸の店頭には「初さんま」と記した小さな旗がゆれ、お客の目を誘う。
こうして7月、秋の刀というには早い時期、さんまのシーズンは幕を開けるが、やはり本格的となるのは、大型船が出漁する9月に入って。10月までがピークとなる。この時期に入荷するさんまを見ると、嘴の先はポッチリ黄色く染まり、顔はあくまで小顔で、肩から先はまんまるこんもり。北海道の沖で餌を食べこみ、背や腹にたっぷり脂がのった印である。
そんなさんまを刺し身で食べられるのは、かつては漁師の特権といわれたものだ。流通が発達し、それが遠い消費地でも可能になったのは、2000年にさしかかるころ。あれよあれよでしたよねぇ。刺し身はもちろん、サラダにカルパッチョ、たたき、なめろう。今のさんま人気を後押ししているのは、こうした生食への広がりだ。
私のウマシーズンも、生食から始まる。しかし、なにせ素人包丁でして、刺し身にはチト躊躇。刺し身ってのは、切りつけた角がピッと立ってなきゃ、と、門前の小僧よろしく聞かされており、ハードルが高いってわけ。そこで、よくやるのはサラダ。みょうがとあえてスダチをギュッと絞れば、冷酒によし。たまねぎとあえ、オリーブ油をタラ~リ、黒こしょうをバチッと効かせたら、ギンギンに冷やした白ワイン。旬の、脂がのった青魚には、香りの野菜やスパイスを使ったメリハリがめっぽう効く。
夏バテに元気が注入されていく感じ。
しかし不思議なもので、生がいいと食べ続けるうち、やっぱりと恋しくなるのが塩焼き。とはいえ、都会暮らしの悲哀といいますか、わが家で塩焼きは、長い間、ご法度モノだった。換気扇からのすごい煙で、ご近所に火事と間違われたのだ。でも居酒屋であらかじめ電子レンジを使うという方法を知ってから、煙の量は大幅に減ることになった。火事騒動解消のための「なんちゃって塩焼き」だけど、ほどほどにらしく仕上がり、けっこう満足している。
そして新米が手に入るころになると有馬煮。青山椒の水煮といっしょに煮る常備菜で、さんまの脂っけを山椒の香りで美味なるものに昇華させるって手法。冷えると煮凝りができ、その煮凝りにくるまれたまま、炊きたてご飯にのっけて食べる。
季節のうつろいとともに変わるさんまメニュー。塩焼きだけだった「目黒のさんま」の殿様を今の世に招待したいものだ。

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