築地、魚河岸、旬ばなし [70] 文・福地享子

世間からは理解されにくいけど、
仲卸はやっぱり必要

 
 
文・福地享子
イラスト/坂木浩子
 
 


 漁港を訪ね、築地市場の仲卸で働いていると言うと、漁師さんたちのカラカイ半分、でも中身はキツイ言葉がたまに飛んでくる。
「おれらのとった魚が詰まった箱、右から左に流しては儲けてるヤツ」
「中間マージンだけでやってるヤツ」
 傷つきますよねぇ、まるで悪徳業者みたいな言われ方。そんなおり、つくづく思う、仲卸って理解されにくい職業なんだと。

 昨年、大手のあるスーパーが、市場を通さずに、漁港から魚を買って直接販売することが、ニュースになっている。こうした場合、町を行きかう消費者の声が流されるのだが、「中間を省けば、それだけコストが安くなるわけで、大歓迎」というのが大半だ。
 テレビに向かってちょっと違う、と叫んだものの、あわてて反省。私も、市場で働いていなければ、同じこと言ってただろう。流通はシンプルなほど、経費は節減できる。
 築地に足を踏み入れた当初だって、市場内の魚の流れに二つのクッションがあることが不思議だった。水産でいえば、卸7社があって、数百軒の仲卸があって。どっちか一つでいいんじゃないかと。

 どちらも必要だと実感したのは、せり場を初めて回ったときだ。
 白い城壁のように連なる魚の入った発泡スチロール箱。活魚の集まる場には数百の水槽で魚が水音をたて、別の場では数百頭のマグロが整列し、2階の奥の部屋にはウニの小箱が重なりあう。さらに別棟では、塩干物が数と種類を競いあっている。世界の魚が集う迷宮。東京という巨大な胃袋は、日ごと2000トン以上もの魚を飲み込んでいる。
 このように産地からの委託を受けて、せり場へ魚を用意するのが卸会社の仕事である。もしこの場へ、寿司屋の親方がアジ2キロを買いにきたとしたら。そこに待つのはトン単位のアジだ。産地はざっと20カ所。価格は2000円ほどの値幅で十数段階。サイズは60~300グラムまで各種。あちこちに山積みされた無表情な箱から、一発命中で好みのアジを手に入れるのは、奇跡に近い。
 魚屋さん、スーパー、給食センターもろもろ、またしかり。それぞれが業種にあった必要な量と種類を、一日が始まる前の短い時間で得るには、さらに細分化された場が必要だ。
 それが仲卸の売り場。卸会社から、せりないしは相対で購入、販売している。多様な業種に対応できるように、各店舗の性格はさまざま。ここなら寿司屋の親方も使えそうな魚が容易に見つかるし、配達もあれば、魚をおろすといったサービスまで受けられる。
 巨大な消費地を背景にした築地には、集荷、分荷と二つのシステムが必要なのだ。

 そして、この過程で、実はもっと違う大きな作用が働いている。建値の形成である。
 工業製品と違って、魚に値段をつけるのはむずかしい。勝手につけていては、それこそ天井知らずの魚価になる恐れだってある。
 築地市場は、日本一の魚の品評会場、優劣を競う場といえる。魚は卸、仲卸間で、せりや相対で売り買いすることで、優劣が鮮明となり、相場が生まれる。この築地相場をなす魚の量は群を抜くだけに、魚価を考えるベースとなる。市場流通が崩壊すれば、魚価は混乱するだろう。仲卸は、こうして価格形成システムの一端をも担っているのだ。
 築地市場の表現として、「目利き」という言葉がよく使われるが、もっとも大切な目は、だれもが納得できる相場をつけられる眼力。これこそが築地市場の原動力だろう。
 平たく言えば、おいしい魚を見分ける目。だから、仲卸で働く者は、誰もが自分で選んだ魚を褒められるのが最上の喜び。シェフたちがよく言いますよね、「おいしかった、のひとことが明日への活力」と。同じように「あの魚、よかったよ」と、その言葉を聞きたくて、眠い目をこすりながら、夜明け前から働いているのだ。築地市場で12年、改めて仲間を見るとき、まっさきに思うのはそのことだ。


 
 

[今月の魚]

入梅イワシ、梅雨イサキと、梅雨の恵みを受けて、魚たちの味がよくなってくる。むっくりとしたアジの背が、皮の下に銀色の脂の層を隠していることを教えてくれる。コノシロの幼魚シンコもそろそろ登場だ。人間にとっては鬱陶しい梅雨どきも、小魚たちにとってはごちそうの季節。絶え間なく降る雨で川の水量は増し、川が流れ込む河口はプランクトンがわき、餌が豊富になる。地球の営みが、彼らをおいしく育てている。



次号からは、旬の魚の話に加え、簡単においしく食べられる築地流クッキングもご紹介します。また、旬の野菜とその料理法も併せてご紹介。築地からおいしい旬をお届けします。ご期待ください。

 
 
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