築地、魚河岸、旬ばなし [69]
アジの脂を測る機械が登場。
マグロの体脂肪もわかる!?
ヘルスメーターに乗れば、ビビッと体脂肪率とやらが。わが身のうちの脂肪のつき具合が、こうも簡単に示されるとは。隠れ肥満にメタボ。数値はさまざまな言葉で人間サマに警鐘を鳴らし、食べたいモノもときにはぐっとガマンの子、つらいなぁ。
そこいくと、魚は幸せ。もてはやされるのは、いっぱい食べたメチャ太りのタイプ。
「このアジ、脂、のってる?」
「昨日のカツオ、だめだよ、脂なくって」
店頭での会話は、脂、この一点に集約されるといっていい。脂ののりは、魚のうまさを決める大きなポイントだ。
されば、大物のせり場では、腰をかがめてマグロの腹のなかを懐中電灯で照らし、脂の量を推しはかる。小物屋では、イワシの皮をペリッとはいで、背にいかほど脂がのっているかをお客さまに示してみたり。
見て、そして最終的には食べてみなくちゃわからぬ脂ののり。もしも、体脂肪計みたいな道具があるとし「たら」。魚の脂ののりが仕入れ以前に提示可能とな「れば」……。
「タラ・レバは、河岸にゃねえよ」
不確定なことは言いっこなしと、河岸にはそんなおどけ文句があるが、魚の体脂肪計、「タラ・レバ」ではなくなりつつある。
初夏に入荷の島根県浜田漁港のアジ。これには地元で伝統芸能・石見神楽(いわみかぐら)を呼ぶ「どんちっち」というブランド名がついているが、この「どんちっち」君こそ、脂質含有量の測定をクリアしたアジなのである。
脂質含有量を測る機械の名称は「近赤外線分光分析技術を利用した『脂質含有量測定装置』」。長いので、「ファット(FAT)坊や」と呼ばせてもらいましょうか。
ファット坊やの開発者は清川智之さん。
「島根県浜田沖のアジは、昔から脂がのっていると評判でした。でも、単に脂がのっている、という言葉だけでは説得力に欠けます」
当時、県水産技術センターの研究員だった清川さんは、その脂ののりを数値化しようと考えたのだった。
「近赤外線分光分析の技術は、宇宙開発から食品の分野にまで広く利用されており、われわれの装置は、果物の酸味や甘味を測定する機器を応用したものなんです」
さてその脂質含有量測定装置とやら、見た目は大きなヘアドライヤー。ファット坊やと呼びたくなるのも道理のハンディな道具だ。熱風ならぬ近赤外線を当て、光のはねっかえりの度合いで脂質の量が測定される。
私、大物のせり場を思い出しながら叫んだ。
「マグロでこれ、できないんですかぁ?」
なにしろ1尾あたりのお値段ダントツ。慎重に目利きしても、ハズレなことも。丁か半かの大バクチ的世界に、このファット坊やを導入するのだ。それでね、システムは携帯電話の端末に搭載。大物のせり場のあちこちでは、携帯でビビッと近赤外線が飛びまくる。せり場、いや、流通そのものに大きな風穴があきそうな光景ではないか。
すると清川さんが苦笑しながら言った。
「実はソフトの開発がたいへんなんですよ」
魚のどの部位を測定すればいいのか。測定値と旧来どおりの化学分析の結果が一致する部位を見つけることがむずかしいというのだ。
「アジでいうと、背側の尾に近い部分が測定場所ですが、それを見つけるまで500尾のアジを化学分析して、データをとりました」
最近、ブリにもファット坊やが出動したが、分析のために30尾がミンチ状態に。
「もったいなくて、涙がでました」
お宝魚マグロを、何尾もミンチ状態か。水産業界はそこまで儲かってないもんなぁ。
「それに……」と、清川さんはちょっと謙遜するようにして言葉を添えた。
「脂はうまみの決め手ですが、やはりひとの好みとなると、それぞれですからねぇ」
おおせのとおりだ。とはいえ、人間の味覚というおおいなるロマンの前に登場のファット坊や、成長が気になりますよね。
[今月の魚]東京の初夏の味わいの一つがタカベ。青みをおびた黒の背に走る黄色の帯が印象的な魚だ。産卵を前にした初夏から夏にかけてが旬。築地には八丈島や伊豆方面からの入荷が多い。塩焼きにすれば、ジュージューと脂がしたたるほど。旨味のある実力派の魚といえる。かつては大衆魚とされたそうだが、今はちょっとした高級魚。 |
各地で水産物のブランド化が盛ん。島根県の魚の脂質含有量の数値化もそんなプロジェクトの一環だ。4月~8月出荷の「どんちっち」アジの脂質含有量は10%以上、アジの脂としては屈指の量だ。
おすすめコンテンツ
-
- プレジデント
- 不慣れな技術交渉で しくじらない三つの戦略
- 複雑性、不確実性の伴う技術関連の交渉には、特殊な難しさがある
-
- dancyu
- 「かっぱ橋」で鉄鍋を買おう
- 鍋の季節到来。とっておきの鍋をプロの道具街で探索










