小山薫堂の一食入魂 [95]

映画『おくりびと』がアカデミー賞を受賞!
友人やスタッフと人生最高のディナーを味わった

 
 

人生の食卓を無駄にしたくないと願う男の食の軌跡



男が脚本を担当した映画『おくりびと』が、
見事、第81回アカデミー賞の外国語賞を受賞した。
ロサンゼルスの友人宅でその瞬間を迎えた男は、
「人生最高のディナー」を味わったのであった。



 
 
文・撮影 小山薫堂
題字・山本彩香
 
 


×月××日

オスカー像を手にする薫堂さん。映画の脚本を初めて手掛け、見事、最高の栄誉に輝いた。

 脚本を担当した『おくりびと』がアカデミー賞外国語映画賞を受賞。その受賞の瞬間、僕はビバリーヒルズの友人の家にいた。

(前にも何度か紹介しましたが)銀座の寿司屋でたまたま知り合い、食友達になったアメリカ人のランディさんが、自宅でパーティーを開いてくれたのである。
 ロサンゼルスの人気和食店「TAKAO」の店主、孝男さんが駆けつけてくれてのグルメパーティー。和と洋が融合した料理はどれも抜群。次々と出てくる料理に舌鼓を打ち、ランディさんが開けてくれた最高のカリフォルニアワインを飲みながら、発表の瞬間を待つ……。「うまい」と「ドキドキ」が自分の中で複雑に絡み合い、不思議な気分になった。

ロサンゼルスの友人宅で、カリフォルニアワインと和洋融合料理に舌鼓を打ちながらアカデミー賞の発表を待った。発表まではかなりドキドキだったらしい。

 そしてついにオスカー像の行方が発表! 『Departures』(『おくりびと』の英語版タイトル)とコールされた次の瞬間、僕は号泣しながら、なぜか孝男さんと抱き合っていた。
「食べる」ことがつながって行き着いた最高の結末。44歳の冬、僕は「人生最高のディナー」を味わった。

 

×月××日

  食いしん坊の男4人が気の向いた時に集まり、ただうまいものを食すだけの会を3年ほど前から開いている。それぞれの名前の頭文字をとって「くまのあなの会」と命名。毎回、幹事になった者は「ここはどうだ! うまいだろ」と他のメンバーを唸らせる店に案内しなければいけない。うまいものを食べながら、別のうまいものの話に花が咲く……全く困ったおじさんたちなのである。
 今回、幹事を担当することになった僕が選んだ店は代々木のしゃぶしゃぶ屋「I」。すき焼きの残り汁で作った裏メニューの卵丼が抜群にうまいのだが、店を広く知らしめると常連のOさんに叱られるので詳しくは書けない(ごめんなさい)。

 さて、本題はここから。牛タンのしゃぶしゃぶを食べながらポツリと「明日から沖縄に出張なんですよ」と言ったところ、メンバーの一人であるさとなおさんの表情が変わった。
「沖縄のどこですか?」
「那覇ですけど」
「それなら山本彩香に行かないと!」
『胃袋で感じた沖縄』や『沖縄上手な旅ごはん』の著者が思わず箸を止めて推薦するのだから、これはもう行くしかない。

 偶然の「うまいもの連鎖」によって、翌日、僕は「琉球料理乃山本彩香」に行き、山本彩香さんに会った。彩香さんの顔を見た瞬間に「この店はすごい」と直感。何しろ、彩香さんご自身が、いいものを食べている顔をしていらっしゃる。
 つるつるの肌と、生き生きとした表情。いい食べ物を摂取し、尊い文化や素敵な暮らしの思想で自分を磨くことによって健康を維持する……そんな匂いがするのだ。そしてそれが、店全体に充満している。
 一軒家を改造した店内に、洒落た派手さはない。素朴で温もりのある雰囲気。その個室には、さらに「おばあちゃんちに来たような生活感」が漂っていた。

「琉球料理乃山本彩香」の“ゆし豆腐”と“豆腐よう”。下の写真、左が山本彩香さん。今回の題字は、豆腐ように使う紅麹で書いていただいた。

 まずは、泡盛の「春雨」で乾杯し、自家製豆腐ようをチビチビつつく。生まれて初めて、豆腐ようという食べ物を心の底からうまいと思った。出てくる料理は、ほとんど一口サイズ。琉球の宮廷料理をベースにした彩香さんの創作料理らしいが、どれも味付けの加減が素晴らしい。見た目には地味なのだが、体の内側から「うまい」という声が出てくる。
 アオサと梅肉が絶妙のアクセントになっているゆし豆腐、沖縄名産の田芋を使ったどぅるわかしー、カステラのようなふわふわのカマボコ……こういう優しくて、穏やかなうまさを、そう言えば最近忘れていた。手間暇を惜しまず、時間をかけて作られた料理だから、こういう味がするのだろう。

 彩香さんの昔話に耳を傾け、時には隣に居合わせたお客さんと話をしながら、楽しい時間を過ごす。その接着剤のような役割を料理が演じているのだ。
 彩香さんの料理を食べるために、また沖縄に来たい……そう思った瞬間、自分の故郷が、一つ増えた気がした。

 

×月××日

 久しぶりに銀座の「アルジェントASO」で夕食。挨拶に出てきた阿曽シェフを見て驚いた。以前とは見違えるほど、スマートな体型になっていらっしゃる。聞けば何と、50キロの減量に成功したのだとか。その方法を尋ねると、阿曽さんは余裕の笑みを浮かべながらこう言った。
「特別な運動をしたわけではありません。料理だけで、ここまで痩せたんです。食べてみます?」
 もちろん、食べますとも。ただ食べるだけで痩せる料理。こんなにおいしい話が本当にあるのだろうか?……と、少々疑いながら、数週間後、阿曽さんが同じく総料理長をつとめるミッドタウンのイタリアン「ボタニカ」に足を運んだ。

 ワクワクしながら待っていると、まずメニューを見せられた。フレッシュキャビア、鴨フォアグラのソテー、ボタン海老と帆立貝のタルタル、ホロホロ鳥のサルシッチャと新牛蒡のソースで和えた手打ちタリオリーニ、鰈のキャベツ包み、天草豚と山形牛の備長炭焼きなど。しかも驚くことに、デザートまで含めると1662キロカロリーもある。一体、これのどこが「痩せる料理」なのか? 阿曽さんがその秘密を明かしてくれた。
「実はこれ、低糖質イタリアンなんです」

なんと50kgの減量に成功したという阿曽達治シェフと。その秘密は「ボタニカ」の低糖質イタリアンにあった。ただし、継続して食べることが必要……。

 糖質の低い甘味料を使い、パスタやパン、バターまでをもオリジナルで開発。日々の糖質摂取量を減らしていくと、脂質でエネルギー代謝を行うような体に変化するのだという。もちろん一回の食事で痩せることはないが、継続すれば確実に結果が出る。糖尿病の予備軍だった「ボタニカ」の新井田シェフも、3カ月で30キロの減量に成功したのだとか。

 カロリー制限がないため、空腹からくるストレスを感じないことも低糖質ダイエットの長所。ただうまいだけではなく、健康な体に導いてくれる料理人こそ、本当のスターシェフだと思う。

 
 

 

小山薫堂さんのオフィシャルサイト「N35」はこちら!▼
 http://www.n35.co.jp

 
 

「琉球料理乃山本彩香」

   沖縄県那覇市久米1-16-13
   TEL.098-868-3456

「ボタニカ」

   東京都港区赤坂9-7-4
   東京ミッドタウン ガレリア内ガーデンテラス4階
   TEL.03-5413-3282

 
 
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