小山薫堂の一食入魂スペシャル
焼き肉格闘家「虎の穴」主人・辛永虎が案内する
ソウル二泊三日。驚愕の美味へ!

アカデミー賞で注目を集めた映画『おくりびと』の脚本を手がけた、
放送作家・小山薫堂さん。というより、本誌「一食入魂」で
おなじみの食の探求人が、焼き肉に命を懸ける炎の格闘家、
「虎の穴」主人・辛永虎さんの挑戦を受け、ソウルを食べまくった!
ある日のこと、小山薫堂さんに一通の手紙が届いた。「挑戦状」とある、その手紙にはこう書かれていた。
驚愕の美味によって貴殿を心底参らせるべく、
韓国・ソウルにて待つ。
辛 永虎
辛永虎(シンヨンホ)さんは東京・恵比寿、中目黒の焼き肉店「虎の穴」主人、焼き肉に命を懸ける炎の格闘家である。焼き肉、特にハラミ好きの薫堂さんは、過去に辛さんとの激闘(?)を繰り広げてきた。そして、毎月、月によっては数回、韓国を訪れている辛さんから「いつか韓国でぎゃふんと言わせたい」と挑まれ続けてきた。
ついにきたか……。薫堂さんは覚悟を決め、朝一番のソウル行きの飛行機に乗り込んだのであった。
挑戦状を手に空港に着くと、タクシーが迎えに来ていた。ソウル市街から離れ、少し心細くなったころに一軒の店に到着。そこで辛さんが待ち構えていた。
「ようこそ、驚愕の美味ツアーへ。まずは、この『マバンチップ』という店の“味噌汁”を召し上がっていただきましょう」
テーブルごと運ばれてきたのは、熱々のテンジャンチゲ、味噌味の鍋だ。キムチやナムルなどの小皿野菜料理もずらり。
「これは韓定食ですが、普通の韓定食ではテンジャンチゲはサブ的存在。しかし、ここでは自家製の味噌を使ったテンジャンチゲが主役なんです」
「この味噌汁、じゃなくてテンジャンチゲは濃くて旨い! 納豆のような発酵のコクと味噌の味が強い。強いけどやさしい。付け合わせに野菜料理がたくさんあるのもうれしいし、オンドルの温もりもいい。疲れた体が喜んでいる!」
「そう、まずは薫堂さんの疲れた体を癒してあげるのが目的ですから」
「ソウルに何度か来ていますが、明洞(ミョンドン)など繁華街の食堂しか行ったことがなくて。こんなに旨いチゲは食べたことがない」
「たっぷりの付け合わせ込みで、一人前9000ウォン、600円くらい」
「ええっー! こんなに旨くて、安いなんて、いやー、まいっ……」
「待った! まだ参ったとは言わせませんよ。まだまだこれから。今回のテーマの一つは“脱都心”。ソウルの繁華街のメシは高くてまずいものが多い。ちょっと郊外に出れば、こんなに旨くて安いものがあるということを知ってほしい。しかも、今は円高ウォン安で、ウォンが高いときに比べたら半額程度。タクシーを使っても十分安い。今回は日本で知られていない驚愕の店だけをご案内しますから、心してついてきてください」
お次は中部市場(チュンブシジャン)へ。地元の人しかいないこの市場には食材が所狭しと並んでいる。「食材のパワーを感じますね」と、屋台の揚げ餅を頬張りながら薫堂さん。
そして、辛さんが「キムチから牛の骨まで揃っていて面白い」と言うデパ地下で買い物し、夕食へ。やはり郊外の盆唐(ブンダン)という街へ向かう。
「ちょっと面白い店がありますから」という辛さんの後をついて、路地に入っていくと「ええっ! ナニコレッ!」。
そこには「虎の穴」という看板が。
「ここは、地元の韓国人が『虎の穴』の名でやっている店です。今まで誰にも言っていませんでしたが、実は5年前からあって、僕自身が、ここを韓国料理の可能性を探る実験の場にしようと思っているんです。今回は、この場所で薫堂さんと勝負したくて、日本の要素を加えた料理をプロデュースしてみました」
「こんなサプライズがあったんだ……」と笑いながら席に着くと、おまかせのコース料理が次々に運ばれてくる。
「韓国料理がベースだけど、すごく洗練されていますね。九節板(クジョルパン)風の前菜なんて、魚介と野菜の新しい出会いを感じる。干しサンマや塩辛と海苔、海藻、野菜の組み合わせで未知の美味が楽しめる」
「韓国には旨い塩辛はあるけど、これに何かをつけて食べるような習慣はない。おいしいねぎがあって生では食べるけど、ゆでたねぎの旨さは知らない。さらに、調味料ひとつで見違えるほど旨くなることもある。だから、僕は日本から来るときはポン酢やわさびを持ち込むんです。韓国の食材や料理に日本の知恵を加えることで新たな味になる。こうした料理は“フュージョン”と呼ばれて、少しずつ増えている。“脱韓国”ですね」
「なるほど。昼は伝統の料理、夜はフュージョンですか。やるなぁ……」
さらに、辛さんが「アジアで一番イケてる」というワインバー「トゥガホン」に案内され、一日目が終了。
翌日の昼、またタクシーで郊外に向かう。曲がりくねった道を上り、のどかな里山の風景が広がる中にポツンと佇む一軒の店に入る。
「ここは『ケミチョン』という店で、鶏鍋が最高に旨い。参鶏湯(サムゲタン)的な鍋だけど、明洞あたりの参鶏湯に比べたら圧倒的に旨い。本当は真冬に来て、窓を開け、積もった雪を眺めながら鍋とオンドルで温まるのがいいんだよなぁ」
運ばれてきた鍋は、大きな鶏一羽とともにハンギ、なつめ、じゃがいもなどが入り、ぐつぐつと煮えたぎっている。
「滋養がしみ込んだ柔らかな鶏が旨い! まろやかなコクのスープがしみ入る!」と、薫堂さん大喜び。
ソウル市街に戻り、スパへご案内。「旨いものをより旨く食べるにはそれなりのコンディションが必要。ここで体調を整えてもらいましょう」
そして、夕食は市内のワイン豚バーベキューが名物の人気店「眞眞(チンジン)」へ。ワインに漬け込まれた風味豊かな豚バラ肉に舌鼓を打ちつつ、「そういえば、今回は、焼き肉がありませんね」と薫堂さん。
「焼き肉は韓国より日本のほうが旨い。せっかく韓国に来たなら、焼き肉より今回ご案内したような本物の美味を堪能してほしい。“脱焼き肉”もテーマです」
その後、さらに屋台へ。チヂミとラーメンまでしっかり食べたのでありました。
翌日、薫堂さんは仕事のために朝一番の飛行機で東京に帰ることに。「韓国の凄さを堪能しました。本当に参りました!」と言う薫堂さんを、なぜか不敵な笑みを浮かべながら見送る辛さん。
薫堂さんを見送った後、「実はね、もっと凄い店があるんですよ」とわれわれスタッフを連れて行ってくれることに(薫堂さん、ごめんなさい!)。
その日の夜、ソウル近郊の清涼里(チェオンヤンギ)駅から電車で約50分、楊平(ヤンピョン)駅からさらに車で15分。たどり着いたのは、山林の中に光とともに浮かび上がる一軒家。
「この『山堂(サンダン)』という店は、韓国伝統の料理に自然の素材を用い、さらに独自の世界をつくっているのが凄い。こういう店もあるところが今の韓国の奥深さ。薫堂さんをここに案内しなかったのは、一度や二度で簡単に参ってもらっては困るから。まだまだあるんですよ、凄い店や驚愕の美味が。この記事を見たらきっと悔しがるでしょう。悔しかったらまた挑戦を受けてみろ、ということです」
薫堂さんと辛さんの激闘・韓国編はまだまだ続くのであった……。
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