一食入魂スペシャル

人生の食卓を無駄にしたくないと願う男の食の軌跡 第91回

発表! 2008年印象に残った5皿

 
 


日々、一食入魂の精神で食と向き合っている小山薫堂さんに、
その年で最も印象に残った5皿を挙げていただく、
年末恒例の「一食入魂スペシャル」。
さて、2008年はどんな料理が登場するのか!?

 
 
題字・小山薫堂
 
 

──今回は、年末恒例の一食入魂スペシャルです。日々さまざまなものを食べ回っている薫堂さんに「2008年、最も印象に残った5皿」を挙げていただきましょう。

薫堂 どれにしようか、いつも本当に迷うんですよね……。でも、2008年はまず西麻布「HOUSE」の“ロールキャベツ”、山形のイタリアン「アル・ケッチァーノ」の地の食材を使った料理、京都「末廣」の“いなり寿司”、それから店の料理ではないのですが、愛媛の“貴賓(きひん)”というみかん、そしてスタッフがプレゼントしてくれた“徳岡さんのハンバーグ”が最も印象に残っています。




──「HOUSE」は10月号の「一食入魂」で登場した店ですね。

薫堂 そのときも書きましたが、この店はほとんどの料理をココットで出すレストランで、すごく気に入っているんです。料理が先端を行っているとか、鋭い美味しさがある、ということではなく、全体のバランスや空気感がとってもいい。安心して食べられる店。お洒落だけど気取った雰囲気ではなくて、まるでセンスのいい奥さんがいる友達の家に遊びに行ったような感じ。みんなで行って料理を取り分けてワイワイ楽しむ。料理が会話の邪魔をしない。いろいろな店や料理を食べ込んでいる人ほど、お連れしたときに喜んでもらえると思います。もしかしたら、今の時代に最もふさわしいレストランかもしれませんね。
 メインの料理はもちろん、デザートのスフレもココットで出てくるし、とにかく楽しいメニューが並んでいるのですが、一皿選ぶなら“熊本産 走る豚のロールキャベツ”です。本当に走り回っていたような元気が感じられる豚肉、それもいろいろな部位が入っていてキャベツの甘味と相まってすごく深い味になる。しかも、残ったスープを使ってリゾットをつくってくれるのがいい。鍋の締めに雑炊を食べるような感覚ですね。食材から出たおいしいスープを残らず食べられるのがうれしい。

──山形の「アル・ケッチァーノ」は3月号で登場しています。最近人気の“地方イタリアン”の代表的存在ですね。薫堂さんは、2009年度に新設される山形の東北芸術工科大学デザイン工学部企画構想学科の学科長に就任されたり、脚本を手掛けられた映画『おくりびと』の舞台が庄内であったりと、最近、山形に縁がありますね。

薫堂 そうなんです。2008年は山形によく行きまして、「アル・ケッチァーノ」にも5回くらいは訪れています。ここは美味しいというより、体が喜ぶような感動があります。食材の命がそのまま体に入ってくるような気がするんです。素材が媒介となって、大地のパワーを伝えてくれるような……。
「食材は地球の声の翻訳者です。それをさらに人間に伝えるのが料理人の役目です」という、シェフの奥田政行さんの言葉も印象的ですね。
 おまかせのコースは、庄内湾で獲れた魚や地元でとれた野菜などを、塩とオリーブオイルでシンプルに仕上げたものがほとんど。この一皿、というより、料理全体が印象に残っています。




──京都の「末廣」は“蒸し寿司”で有名な老舗ですね。「一食入魂」には登場していませんが……。

薫堂 7月号で京都の洋食店「にしおか」を紹介しましたよね。カウンターだけの小さな店ですが、たとえばハンバーグを注文すると肉を切り始め、マカロニグラタンを頼むとベシャメルソースをつくり始める。白ワインをお願いすると、ワイングラスに氷を入れて冷やしてくれたり……。とにかく丁寧な仕事をしていて、本当に気持ちがいい店なんです。最近で最もハマった洋食店ですね。

──では「にしおか」のハンバーグが印象に残った5皿ではないのですか?

薫堂 このハンバーグは確かに5皿に入れたい。入れたいのですが、実はこの店に行ったとき、その前に寺町通りをぶらぶら歩いていたら、「末廣」があった。蒸し寿司が有名ですが、お品書に“いなり寿司”の文字を見つけたんです。僕はいなり寿司が大好きなので、食事前でしたがちょっとつまみたくなり、店に入って「すみません、いなり寿司を一つください」と頼みました。そうしたら、ご主人がお揚げにご飯を詰めて丁寧に握ってくれたんです。これを歩きながら食べたのですが、心のこもった味は感動的でした。こんなにおいしいいなり寿司は食べたことがなかった。まさに印象に残った味でした。

──みかんの“貴賓”は、発売中の別冊『もてなしdancyu』でも紹介していただいていますね。

貴賓のホームページ: http://www.kihin.jp/

薫堂 これは愛媛の真穴(まあな)という地域でとれる温州みかんなのですが、すごく旨い! 瀬戸内海に反射した太陽の光がみかん畑に当たるから、などとも言われているようですが、甘味と酸味のバランスがすばらしい。それに、みかんって袋の周りに付いている白い筋に栄養があると言われているけど、やっぱり口に残るじゃないですか。でも、“貴賓”は筋が付いたまま食べてもあまり気にならない。
 もちろん、このまま食べるのがおいしいのですが、『もてなしdancyu』でも紹介しているように、これを搾ってジュースにすると、驚くほど旨いんです。これも感動的で印象に残る味でした。

──最後の“徳岡さんのハンバーグ”というのは?

薫堂 これも店の料理ではありませんが、実は僕の誕生日にスタッフたちが海辺でバーベキューパーティーを開いてくれたんです。その最中に、急にビデオを見せられました。その内容は、僕の誕生日プレゼントに、「京都嵐山吉兆」の徳岡邦夫さんにハンバーグをつくってもらう、というものでした。
 実は、以前、ある雑誌のハンバーグ特集のインタビューで「徳岡さんがつくったハンバーグを食べてみたい」と答えていたんです。これを覚えていたスタッフたちが、本当に徳岡さんに頼み込んでハンバーグを仕込んでもらい、その様子をビデオに収めていたのでした。そして、「はい、これです」と手渡してくれた生ハンバーグを鉄板で焼いて食べました。本当に旨かった。
 いい牛肉を包丁で丹念に叩いて、椎茸をたっぷり入れたシンプルなものですが、だからこそ肉の味がしっかり噛みしめられて、素晴らしい味。さすが、徳岡さんのハンバーグはレベルが違う。でも、その素晴らしい味もさることながら、それを用意してくれたみんなの気持ちがうれしかった。サプライズなプレゼントでした。2008年で最も印象に残った一皿ですね。




──こうして見ると、2008年は美味なる料理、というより、薫堂さんの心に響いた味という感じですね。

薫堂 もちろん美味しいものはうれしいし食べたいと思うのですが、皿の上の味だけでなく、雰囲気や空気感を含めた全体の印象、あるいはその料理に込められたつくり手の思いなどで感動させてくれる料理が好きですね。以前からそうなのですが、その思いが強くなっているような気がします。これは僕だけでなく、今の時代、こうした感動を伴う料理が求められているのではないでしょうか。2009年もこうした感動の一皿、印象に残る一皿に少しでもたくさん出会いたいですね。

 
 

 

小山薫堂さんのオフィシャルサイト「N35」はこちら!▼
 http://www.n35.co.jp

 
 
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