小山薫堂の一食入魂 [90]
鉄板創作料理の店で接待して相手に
感謝される。心の中でガッツポーズ!
人生の食卓を無駄にしたくないと願う男の食の軌跡

男は、大韓航空の機内食でビビンパを食べて
その旨さに驚き、思うのであった。
日本の航空会社も機内食の定番を究極の牛丼や
究極のいなり寿司にしたらいいのに……。
×月××日
![]() |
| 「か波羅」の料理は旨いものが少しずつ出てくるのがうれしい。写真は旬魚のカルパッチョ。 |
長年お世話になっているS氏を接待することになり、どこの料理店にするか迷う。(S氏はきさくな人なので)あまり堅苦しくなく、(情報通なので)目新しさがあって、(健康が気になる40代半ばゆえに)重たくない料理で、もちろんうまいこと。そして接待においてはここが大切だと思うのだが、相手に気を遣わせない程度にリーズナブルであること。接待だからと言って無闇矢鱈と高い店に連れて行くのは不粋だと思う。「こんな店を教えてくれてありがとう。次からここを使わせてもらうよ」と相手に言わしめてこそ、店選びは合格なのだ。
色々と迷い悩んだ末、西麻布にある「ぎをん か波羅」にしてみた。この夏にオープンした鉄板創作料理の店。店主の着物をインテリアのアクセントにしたきらびやかな店内は、高級感が漂っていて接待にも向いている。
今回は個室感覚で使える4席だけのカウンター席に陣取り、最も安い“か波羅コース”を頼んでみた。店名をコース名にしているのだから、自信があるに違いない。
まずは豆乳のすり流し、ちりめんざんしょのポンデケージョなど、アミューズからいい感じである。続く、バーニャカウダ、三種の薬味で味わうおぼろ豆腐、旬魚のカルパッチョ、よもぎ麩と栗の味噌田楽は健康的ながら、しっかりと味付けされている。ここで黒酢のグラニテが間に入り、メインは牛ロースのピンチョス。これはいわゆる鉄板で焼く一口ステーキで、霜降りの極上京都牛を使うのだが、一人あたり3つだけなので胃にもたれることはない。うまいものを少しずつ、という絶妙の量が嬉しい。そして最後は、九条ねぎ焼きかちりめん山椒のおにぎりを選ぶことができる。僕はワガママを言って、ねぎ焼きとおにぎりのハーフ&ハーフにしてもらった。
![]() |
| 京都の人気店の出店だけあって、京都の食材を豊富に使った鉄板創作料理が次々に繰り出される。 |
この店の特徴の一つが、京都出身の店主の人脈を生かし、京都の食材にこだわっているという点。「南禅寺の前にある服部豆腐店で特別に作ってもらったものです」「半兵衛さんの田楽です」「黒酢は林孝太郎さんが作りました」「京都牛は佐野屋さんから仕入れました」と一皿ごとに京都の風が吹く。
黒蜜のジェラートを添えた豆乳のクリームブリュレを食べ終えたところで、S氏に「これでいくらだと思いますか?」と尋ねてみた。すると「1万5000円くらい?」とS氏。正解は……7000円!
翌日、S氏からメールが届いた。「お店の選択センスに感心すると同時に、おいしいお店をご紹介いただいてありがとうございました」
「よっしゃっ!」と心の中でガッツポーズを作った。
×月××日
食通の友人から、上海にいい中国料理店を見つけたという情報を得て、早速食べに出かける。飛行機に乗ってでも食べに行く価値のあるレストランがあるとするなら、この時代、タイヤメーカーよりも航空会社がレストランのガイドブックを出せばいいのに、と思ってしまう(スターアライアンスのレストランガイドなんてあったらいいなぁ)。
さて、わざわざ飛行機で出かけた上海の店……ここで店名を挙げるほどうまい店ではない、と個人的には思った。食の好みは人それぞれなので友人を責めるつもりはないが、期待していただけに残念だ。しかし、思わぬ収穫もあった。ランチで入った「ジャン・ジョルジュ」は大正解。ニューヨークのトップシェフが海外の第一号店を東京ではなく上海に開いた、と聞いた時には少なからずショックを受けた。上海という都市の将来性に嫉妬して「中国でフレンチなんて……」と思ったのだが、上海の歴史的建物とインテリアの相性もよく、食べてみると悔しいことにうまい。そして東京で食べるよりも明らかにリーズナブルだ。アジア人の舌に合う味付けなので、日本への出店が待ち望まれるレストランだと思った。
×月××日
![]() |
| 釜山で食べたカルビは抜群に旨くて、安い! 東京から飛行機で行ってもいいと思った。 |
上海で一夜を過ごした翌日、『おくりびと』が釜山国際映画祭で上映されるため、釜山へ移動。舞台挨拶をしたのち、夜はもちろん、焼肉へ繰り出した。
そもそも釜山はカルビ発祥の地らしく、焼肉と言えばカルビ。これまた抜群にうまくて安い。東京から飛行機で2時間足らずで行けるので、年に一度くらいは釜山カルビツアーも悪くないと思った。
![]() |
| 大韓航空の機内食で出てきたビビンパ。普通に旨いのが素晴らしい。理想の機内食だ。 |
そしてこの旅で見直したのが、大韓航空の機内食のビビンパ。付属の焼きコチジャンとごま油を混ぜ合わせて食べると、普通にうまい。無理してフルコースにしたり、懐石料理にする必要はない。これが理想の機内食なのだ。
日本の航空会社の機内食の定番が、(ファーストクラスだけではなく)究極の牛丼になったり、究極のおいなりさんになったりする日を僕は待ち望んでいる。
×月××日
神宮前にオープンしたイタリアンレストラン「ブーカ・ジュンタ」へ。この一風変わった店名を日本語にすると「ジュンタの穴ぐら」となる。青山の路地裏に出現したまさに穴ぐらのような店。ジュンタとはオーナーシェフ、石川淳太さんの名前である。
![]() |
| 「ブーカ・ジュンタ」はトスカーナの食堂のようないい雰囲気。写真はイチボのタリアータ。 |
店に入った瞬間、この店はうまいに違いないと直感した。不思議なことに、うまい店にはうまいオーラが漂っているものだ。シェフの雰囲気もいい。小手先ではなく、イタリアの文化を体にしみ込ませた上で料理を作ってきたような顔つき。聞けば、父親はあの石川次郎さんだと言う。
僕の読みは正しかった。トスカーナの片田舎にありそうな店。ガイドブックには載っていないが、長年にわたって地元の人たちに愛されてきた骨太の食堂で出される料理……そんな味がした。
![]() |
| 骨太の旨い料理をつくる石川淳太シェフ。今回の題字はシェフに書いていただいた。 |
オリーブオイルとパンとハムだけで、白ワインが一本空いてしまうという幸せ! 茄子のラビオリも素晴らしい。そしてこの日の大当たりは、イチボのタリアータ。「うまい」と同じくらい「楽しい」と思えたところも、イタリアっぽい。
東京に久しぶりに出現した、文化の生まれるレストランである。
おすすめコンテンツ
-
- プレジデント
- 岩瀬大輔さん(ライフネット生命副社長)
- 「素泊まりの旅館、のような保険を目指しています」
-
- 書籍
- つぶれない会社を簡単に作る方法
- 新会社法対応! 勝ち組になる起業術
-
- プレジデント
- 常軌を逸した相手の 本音を見抜く技術
- 一見つじつまが合わない選択の裏に隠された動機があるかもしれない
















