築地、魚河岸、旬ばなし [62] 文・福地享子

“チルチルミチル作戦”で魚の自給率をアップしよう

 
 
文・福地享子
イラスト・坂木浩子
 
 

 

 2ポイントもアップですって?
 水産庁が8月に発表した2007年度の食用魚介類自給率(重量ベース)は62%。2006年度より2ポイント上昇した、という。
 国の自給率を上げるほど豊漁にわいたという実感はまったくないしなぁ。
 今さらながら、自給率の計算方法って?
 水産庁に問い合わせてみた。恥ずかしや、オバサンの「こども電話相談室」である。
「率というから割り算です。分子は国内の生産量。分母は国内生産量と輸入量を足して、そこから輸出量をマイナスした数字です」
 答えをもらえば、なるほどなっとくである。
 しかしですねぇ、だからこそ問題、2ポイントアップの原因が。分子となる生産量は横ばい。輸入量が激減した結果だった。

 姿を消した魚たちを思い出した。
 たとえばニュージーランドからの天然マダイ。日本と季節は逆なため、夏に旬を迎えるそれは、ジェット機で飛んでくる夏のレストラン用白身として、売れに売れた。いかつい顔の大ダイを箱から取り出すときの感触は今も鮮明だけど、この夏も見ることはなかった。
 あるいはクリスマス用の中国からのヒラメ。国産より安いとあって人気の魚だったが、もはやクリスマス需要のあてにはできない。
 つい先だってまでおなじみの彼らもまた自給率アップ要因の一つとなっていたのだ。

 輸入が減って自給率アップ。夫は「そんな計算、まやかしだぁ」なんて怒ってますが。
 この傾向は、今後も続くだろう。なにしろ世界が魚のおいしさに目覚め、奪い合いとなっているのだから。ところがそんな世界のマーケットで、ニッポンは「金は渋いが、品質やサイズに超うるさい」お客として有名。商談は昔のようにトントン拍子とはいかない。しかし、ヘコンデいても、前へは進めない。「まやかしの自給率アップ」を、まっとうなモノに変えることはできるのだから。題して「チルチルミチル作戦」!?

 今年度の水産白書にこんな提案がある。
 国民全員が「春にはカツオの刺し身1皿、夏にはスルメイカ1杯、秋はサンマ2尾、冬はブリ1切れ」を毎月食べるとする。すべてが達成できれば、自給率4ポイントアップが実現可能、と。
 ラインナップを検証してみよう。どの魚も実は国内の資源量が豊富で、シーズン中には比較的安く手に入るモノたちだ。つまりニッポンの魚を食べることで、国内の生産性に活力が増し、分子の生産量があがる。自給率にまっとうな上昇が期待できる、ということだ。
 ラインナップの魚は、あくまでたとえ。今の季節で、そんな魚たちを探してみると……。
 まずは秋サケ。サケというとチリやノルウェーの養殖サーモンが人気だが、こちらは天然モノ、豊漁続きで価格もお手頃だ。脂がのってきたサバ。北の海に押し寄せてきたニシンやハタハタ。から揚げにしたいワカサギ、チカ、メヒカリ。鍋にいいアンコウやタラ。サワラもこのところとれているし。待ってましたのカキだって。地域限定で探せば、もっともっといるはずだ。こんなにも多彩な魚たちが待っている、私たちを。

 遠い国にないものねだりのチルチルミチル。でも、ホラ、目の前の海には「幸せの青い鳥」がいっぱい。もしかしたら、まやかしの自給率を、皮肉な目で眺めているのかも。
 統計で30年ほど前と今を比べると、マグロやサーモンのほか輸入依存度の高い魚たちの購入量は増えたが、お惣菜に人気だったはずのアジ、サバ、イカなどは半分以下に減っている。旬を問わずに手に入り、調理が楽で食べやすく、さらに低価格であること。そんな今の嗜好を海外からの魚は満たしてくれたともいえる。しかしいっぽうで四季の味わいや地の魚を知る楽しみは少なくなっている。ニッポンの魚食文化の根っこにあったはずのなにかが失われていこうとしている。「まやかしの自給率アップ」は、それをリセットするためのシグナルにも思える。

 
 

[今月の魚]

いたずらしないようにハサミをゴムバンドで留められ、水中にじっとしているのはワタリガニ。築地市場へ活けでの入荷が始まっている。だしがよく出るので、スープや鍋ものに最適。トマト味で煮て、パスタに仕上げても。オス、メスあり、卵を必要としないなら、オスのほうが安くお買い得。標準和名はガザミだが、オールみたいな5番目の脚を使ってあちこち泳ぎ渡ることから付いた「渡り蟹」のほうが一般的となった。


総合的な食料自給率は、カロリーベースで計算する。2007年度は40%。これに比べると、食用魚介類の62%というのは優秀だが、1965年のそれは100%。その前は100%を超えていた。
 
 
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 本連載でもおなじみ、河岸で働く物書きネエサン、福地享子さんをはじめ、魚河岸のプロたちが実際に自宅でつくっている、驚くほどカンタンで、ビックリするほどおいしい春夏秋冬の魚料理68レシピ、そして、旬な話がたっぷり詰まった魚河岸エッセイが満載です。
 
 
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