築地、魚河岸、旬ばなし [61]

文・福地享子

春は宮崎、秋は静岡。ジャコの旨さは心にしみる

 
 
文・福地享子
イラスト・坂木浩子
 
 

「そう、宮崎ですか。あそこの海はいい。若いころ、ちりめんじゃこの担当、やっとりましたが、いいモンが出てくるんです。砂がいいっていうかね。海が透き通って、砂が白い。科学的にはわかりませんよ、だけど、ジャコは砂の色に同化するらしいんです。だから白っぽくて、値もよくってねぇ」
 いつだったか、出身は宮崎だと言うと、卸会社のひとがそんなことを話してくれた。
 入荷する魚種も量も少ないために、築地ではめったに聞かれぬ故郷の海への賛辞。不覚にも涙ぐみそうになった。田舎がイヤと、大学を東京に選んだのを機に、ずっと東京にしがみついてるクセして、故郷への褒め言葉を聞くと、つい胸がザワザワ。困ったもんだ。
 子供のころ、日南海岸へ遊びに行くと、海辺に敷いたシートにちりめんじゃこが広がっていた。まるで白い絨毯(じゅうたん)。そうやって、おてんとさまに干していた。東京にあるのは、ジャコでもしらす干しであり、それを知った母は、せっせとちりめんじゃこを送ってくれた。セピア色の思い出カードに、ちりめんじゃこは愛らしくも大切なメンバーだ。
 今、東京でもちりめんじゃこは簡単に手に入るようになり、醤油や塩と同じぐらい、私にとっては欠かせない。菜っ葉の炒め、野菜の煮つけ、チャーハンやパスタ。食欲がない日は、冷ややっこにごま油でカリッカリに炒めたそれを山とのっければ、なんとかなる。このカリッカリは、お浸しにかけてもいい。ひとりご飯をそそくさ食べるおりは、カリッカリと刻んだ高菜漬けと合わせ、お茶漬けにしてもいいしなぁ。
 ちりめんじゃこは、カタクチイワシの稚魚。釜茹でして、カラリと干す。軽く干したのがしらす干し。煮干しは、さしずめちりめんじゃこのアニキ分。お正月に使うごまめは、煮干しと似ているが、生を干したもの。そうそう稚魚を板状に干せば、たたみいわし。カタクチイワシは、ちっこいうちから、お役立ちのアッパレなヤツである。
 さて、ちりめんじゃこ。築地市場でよく買うが、私の目はどうしても宮崎産へといってしまう。しかし、ジャコを扱うプロによれば、シーズンにより微妙な違いがあるようだ。
「季節的にいうと、ジャコ類の生産が盛んなのは3月から12月まで。春と秋口がハイシーズンで、だから、旬は2回。宮崎など九州モノがいいのは、一般的に春。秋に入ると、静岡や愛知です。遠州灘の天日干しといって、静岡県の舞阪や福田(ふくで)とか有名ですよ。魚質がいい。味が濃いっていうか」
 市場だから、選択肢はめったやたらに多い。値段もピンキリ。キロにして1000円以上の差はゆうにある。この差は、ひとことで言ってしまうと、見た目。ピンとなるのは、サイズがそろい、妙に大きくなく小さくもなく。そして黒っぽいものより色白で、まざりものがないこと。
 しかしですねぇ、耳元で囁(ささや)かれた。
「味と見た目は、そんなに関係ない」と。
 しみったれやのこの私、飛びついた、この言葉に。以来、それが私のジャコ買いの指針。サイズバラバラ、色黒オッケイ。赤腹と呼ばれるモノも狙い目だ。甲殻類系のプランクトンを餌にしたため、腹が赤い。それゆえお安め。でも、なんたってエビカニ食いのヤツだから、味はいい。
 まざりものだってねぇ。子供のころから、イカやタコが見つかると歓声あげた。ごくまれにタツノオトシゴが紛れ込んでることもあるそうだが、ぜひとも出会ってみたい。なんかいいことありそうじゃないですか。

 東京は、このちりめんじゃこより、圧倒的にしらす干しが好まれる。築地での取り扱い量も、ちりめんじゃこ2・しらす干し8の割合だとか。関西になると、その逆。ことに京都は、じゃこ山椒用に小さめで形のそろったきれいなものが好まれる。圧倒的に西が優勢なちりめんじゃこだけど、東京でも需要はのびている。私的には、タノモシイ。

 
 

[今月の魚]

メヒカリという小魚がある。青緑色に鈍く光る大きな目玉。体色は、黒っぽいオリーブ色。色で表現していくと、なにやら美しく思えるが、およそ地味。河岸でも、注意しなければ、見過ごされるような存在。ところが、塩焼き、から揚げなどにしてみれば、うまいのなんの。まったく味は見た目だけじゃわからぬもの。ちなみにメヒカリというのは、俗称。アオメエソが標準和名。こちらも目の特徴から付いた名前。


ジャコ類は、1週間で使い切るほどの量なら、冷蔵保存でもいいが、多めに買った場合は小分けし、保存袋などに入れて冷凍庫へ。といっても長期保存は味が落ちるので、1カ月ぐらいを目安に。
 
 
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