築地、魚河岸、旬ばなし
第53回

古き佳き河岸、そして
昭和の匂い漂う『お魚かるた』

 
 
福地享子 = 文坂木浩子 = イラスト
 
 

「チビでもきかん気 塩豆君」

 お正月、子供のころの遊びにカルタ取りがあった。なつかしいのは、あまから王国オールキャストの『あんみつ姫かるた』。こたつに広げたカルタの生ぬるい感触とともに、簪(かんざし)をピラピラさせた丸っこい顔のあんみつ姫や金髪で鼻の高いカステラ夫人の絵札が浮かんでくる。読み札では、なんといっても冒頭の塩豆君。妹そっくりのキャラクターで、塩豆君の札をだれかが取るたびに、妹を指さしてワイワイ騒いだものだった。

 昔の河岸の子たちも、カルタで遊んだ。その名も『お魚かるた』。発行は昭和12年で、その後絶版となったが平成11年に復刻。場内の本屋さんのロングセラーともなっている。

 絵札は、昭和の匂い漂うマンガタッチ。いろは48文字のほとんどは、魚が主人公だ。

「あんこう 大口なんでも喰べる」

 と、読まれたあんこうは、御馳走がてんこ盛りの皿を前に、ナイフとフォークを使って旺盛な食欲をみせている。皿の上には、イカ、エビ、カニに貝、ヒトデまでも。実際に、アンコウは呆れるぐらいの大食漢。メガサイズのお腹に入ってるあのアン肝は、いわばメタボ君ならではの脂肪肝!?

 そのほか、冬の場内を賑わす魚でいうと、「鎧兜(よろいかぶと)で身を固め」たイセエビ、「目玉が光る金目鯛」、「平目は左に目が二つ」等々。いずれもテンポのいいコピーとほのぼのイラストで、その特徴が表されている。

 オリジナル版発行の昭和12年という年は、築地市場が中央卸売市場となって間もないころで当時の様子もカルタからうかがえる。

「世界一の東京魚市場」という札の絵は、海をバックにした時計塔と機関車だ。今や時計塔ほ無用の長物となり、機関車は市場から消えたが、かつては市場のシンボル。時計塔の針が午前を告げると、全国からの荷を積んだ長い貨物列車が、汐留停車場から引き込んだ鉄路を使って、市場へ入ってきた。セリ場はプラットホームでもあり、ゴトリと黒い巨体が停まると、待ちかねた男たちの手で、続々と魚が運び出されたのだった。

 新市場を得てのイケイケムード。カルタはそんな状況を背に誕生。製作者は卸会社で宣伝係長を務めていた長谷川秀夫氏であった。その復刻に奔走したのは、元仲卸の石田謙司さん。復刻までには、長い時間がかかった。

 石田さんは、終戦直後にそのカルタで遊んだ一人。時を経て、そのことを思い出したのは、河岸の蒲鉾屋のダンナ業も板についたころだった。仲間に話すと、思い出話にわいた。しかし、現物はなし。方々に声をかけて探すが、反応なし。いつしか幻のカルタとなっていった。石田ダンナがエライのはそれからで、筆が立つひとなので、仲卸組合の出版物にカルタのことを書いた。さらにうろ覚えだったいくつかの文句は、長谷川氏の遺族を訪ね、48の読み札すべてを再生し、組合の出版物に紹介した。ここにいたり、現物を持つ仲卸の一人が登場。復刻へこぎつけたのだった。

「ハハハ、エライだって。商売だよ、商売。魚、食ってもらいたくってさ」

 久しぶりに石田ダンナと電話でカルタのことを話したら、急いた口調で照れっぱなし。甲冑(かっちゅう)研究家として第二の人生を歩みだして3年たつ石田ダンナだが、ぶっきらぼうな河岸の気風はそのままでおかしくなった。

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 石田ダンナが復刻に奔走したのは、郷愁だけではない。根っこにあったのは、スーパーの切り身しか知らない子供たちに、丸ごとの魚を見せたかったから。そうやって遊びながら、魚に親しんで欲しかったから。

 食育という言葉をよく耳にするが、大人のお膳立てで行われるのは、なんか寂しい。お魚カルタのように、無心に遊びながら、知っていくことがホントのように思えるのだが。

 なにせ子供時代の記憶は、一生モン。塩豆君とはやし立てた妹は、はちきれそうなそら豆オバサンとなったが、私にとっては、今も「チビでもきかん気 塩豆君」だもの。


[今月の魚]
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ホウボウという魚がある。胸ビレがまるで羽のようで、広げると孔雀のような模様までもっている。風貌もなかなかで、そんなところから、千葉の海沿い地方では、タイに代わる祝い魚に使われたという。締まった白身で、刺し身よし、煮てよし。ブイヤベースのようなお魚スープにも最適。今の時季、和洋にひっぱりだこのホウボウである。

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河岸の初荷は、1月5日。ご祝儀相場のつく初ゼリ。店頭では初荷のミニ幟にお年賀タオル。らしい雰囲気でスタートするものの、まだまだ正月休みの浜も多く、魚は少なめ。通常の入荷量となるのは、松の内を過ぎた10日以降ぐらいから。

 
 
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