小山薫堂の「一食入魂」スペシャル

2007年、最も印象に残った5皿

 
 
人生の食卓を無駄にしたくないと願う男の食の軌跡
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小山薫堂(あら皮、茶茶の間)、古市和義(スープ、バナナ)、越田悟全(カンテサンス) = 撮影dancyu編集部 = 構成小山薫堂 = 題字
 
 

──年末恒例「一食入魂スペシャル」の時期がやってきました。薫堂さんが2007年に食べた料理の中から、「最も印象に残った5皿」を教えてください。

 2007年は「舌が旨い、より体が旨い」と感じる料理に惹かれた年だったですね。ただ健康にいいという意味ではなくて、体が欲するものを与えてくれる料理がマイブームでした。

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上/神戸「あら皮」のステーキ。手前がイチポ、奥がサーロイン。シンプルに焼き上げられ脂の強さを感じない旨さ。右下/肉を持つ二男の山田三也(みつや)さん。水の良い所で育った健康な牛のみを使う。
左下/主人、山田二郎さん(右)と薫堂さん(左)。薫堂さんはこのステーキを食べて元気をもらうため(自分が元気かどうか確認するため?)、月に一回は神戸に向かうという。

 そういう意味では、神戸にある「あら皮」のステーキは最も印象に残った一皿です。

 店の雰囲気もステーキも素晴らしい! 主人の山田二郎さんは77歳。かつてはニューヨークでレストランを開いていたなどユニークな経験の持ち主で、ステーキを焼いて50年という料理人。脂身の多い霜降り肉が人気なのに疑問をもち、三田の水の良い所で飼育された健康な牛のみを仕入れていて、それを丁寧に下ごしらえして炭火でじっくり焼くんです。

 そのステーキは、脂の強さを一切感じずきれいな旨味が感じられて、体中が感動しますね。最近、肉を食べると疲れることが多いのですが、このステーキは食べると元気になる。僕にとっては"力のカプセル"あるいは"体力のお守り"です。

 肉を食べたいからこの店に行くというより、パワーをもらいに行くという感じ。逆に、このステーキが旨いと思えるうちは「僕もまだ大丈夫!」と確認できる。

 二男が副料理長で、三男がソムリエをやっている家族的な温かさも、落ち着いた店の雰囲気もとてもよくて、ここを知ってから毎月通っています。大阪に仕事で行っても、ここに行くために神戸に泊まるようになりました。

 先日発行されたミシュランの日本版で東京・銀座の寿司屋、「すきやばし次郎」が星を取りましたが、西の二郎もすごいですよ。僕は"東の二郎"と"西の二郎"の二人が日本を代表する名ベテラン職人だと思います(編集部注:「すきやばし次郎」の主人の本名は小野二郎さん)。

体にやさしい、地球にやさしい
料理がマイブーム!?

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薫堂さんが田村シェフと共同開発した「スープupスリム」。一箱に3種類入っているが、薫堂さんのイチオシは写真の"キノコたっぷりピカントスープ"。胡椒をたっぷりかけて食べると旨い、とか。

──「体が欲するもの」ということでいえば、「一食入魂」でも度々登場しているように、最近、薫堂さんはスープを欲することが多いようですね。

 確かに最近スープを欲することが多くなりましたね。2007年も、東京・白金の中国料理「劉庵」の薬膳スープや有楽町のフレンチ「アピシウス」の海亀のスープなど、体と心にしみるおいしいスープをたくさん食べました。

 もともとスープ好きなんですけど、それが高じて2年ほど前から自分好みのスープをつくってみたい、という欲望にかられてしまったんです。

 それで……実はつくっちゃったんです、スープ。軽井沢のフレンチ「エルミタージユ・ドゥ・タムラ」の田村良雄シェフに「おいしくて体にいいスープをつくってください!」とお願いして、試作を重ね、ついにレトルト商品として完成したんです。

 商品としては、ダイエットに効果的な脂肪燃焼パウダーが付いた「スープupスリム」という名前で販売しています。3種類のスープが入っていて、なかでも自分としては、ちょっとピリ辛の"キノコたっぷりピカントスープ"が気に入っています。

 自分がプロデュースしたもので申し訳ありませんが、おいしくて体にいいスープはマイブームの最たるものでもあり、印象に残った料理に加えさせてください。

 あ、それから「やさしい」というキーワードでいえば、地球にやさしい"エコグルメ"もこれからブームになるかもしれません。

──どういうことですか?

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「茶茶の間」の"お茶殻のアイス"。黒糖アイスの上に茶殻をトッピングしたものだが、アミノ酸の旨さが凝縮されたような茶殻がメインで、アイスはソース。残念ながらこのときのお茶はもう入手不可能となった。

 たとえば、東京・表参道にあるお茶カフェ「茶茶の間」の日本茶ソムリエ、和多田喜さんがつくってくれた"お茶殻のアイス"は印象に残る一皿でした。お茶も素晴らしくおいしかったのですが、それを飲んだ後に、その茶殻を黒糖アイスの上にのせて出してくれたんです。茶殻を食べるなんて! と最初はビックリしたんですけど、「騙されたと思って」と言われて食べたら、もっと驚いた。

 本当に旨いんです。お茶の葉っぱってこんなにおいしいんだ、と感動しました。素晴らしくおいしいお茶を飲んだ後に、さらに旨いと感じさせるなんて、すごいですよね。茶殻がのったアイスだけれど、主役は茶殻でアイスがトッピング、いや茶殻をおいしくするためのソースなんです。

 茶殻なんて捨てるのが当たり前、と思っていたものがこんなに、感動的に旨い。でも実は、この素晴らしいお茶をつくっていた名人が亡くなってしまって、もうこのお茶は味わえないのが残念です。

 普段食べないもの、捨ててしまっているものでも素晴らしくおいしいものがある、ということに改めて気づきました。だしをとった昆布、魚の骨、肉の端切れ……ゴミを減らしておいしい思いができる"エコグルメ"がこれから流行するかもしれません。もちろん、すべてがおいしいわけではなく、本当に旨いものと、ただゴミにしかならないものがありますが。

──「一食入魂」でも毎回、多彩な店を紹介していただいていますが、2007年、レストランで印象に残った料理はありますか?

 最も印象に残ったのは、東京・白金のフレンチ「カンテサンス」の"タルト・ブーダン"ですね。僕はこの店を"アニバーサリー・レストラン"にしているんです。

 2006年、「オレンジ・アンド・パートナーズ」という企画会社をつくったのですが、その設立記念にスタッフ全員、「カンテサンス」で食事会をしたんです。岸田シェフに"オレンジ"というテーマで料理を頼んで。

 2007年も設立記念日にみんなで食事をしました。シェフに"2年目のオレンジ"というテーマで料理をつくってもらって。そのときに最もおいしくて、印象に残った料理がタルト・ブーダンだったんです。

 「カンテサンス」の料理はどれも素晴らしいのですが、このときのタルト・ブーダンの味は一生忘れないでしょうね。

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右/「カンテサンス」の"タルト・ブーダン"。りんごのタルトにペースト状のブーダン・ノワールを塗り、ソテーしたフォアグラをのせたもの。
左/岸田周三シェフ。パリの「アストランス」で副料理長を務めた後、2006年に帰国し「カンテサンス」を開いた。今、世界的に注目される料理人の一人だ。

 きっと2008年の設立記念日にも"3年目のオレンジ"というテーマで料理をつくってもらうことでしょう。

「カンテサンス」も新しい店だし、「オレンジ」も一緒に成長していけたらいいなぁと思ったし、同時にこういう風に使える店があるのは幸せだ、と思いました。

「カンテサンス」はミシュランの星を獲得して先に世界に認められましたが、「オレンジ」もいつかは世界に通用するような会社にしたいですね。

おいしいものがわかるより
旨いものに気づくことが大切

──最後の一皿は何でしょうか?

 料理ではないのですが、実は2007年一番旨いと思ったのはバナナなんです。

 あるダイエットをしていたとき、決められたメニューがあって、その日はバナナを食べていいことになっていた。朝から「バナナ、バナナ」とずっと考えていて、その日、パーソナリティーを務めるラジオ局の放送があったので、ADさんに「バナナを買っておいてね」と頼んでおいたんです。しかし、ADさんが果物屋やスーパーなどを探し回っても、その日に限ってなぜかどこもバナナが品切れ。

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何の変哲もない、フツーのバナナ。しかし、どうしても食べたいときに親切な人が持って来てくれたバナナのおいしさは格別のものであった。

 番組が始まって話をしていたらリスナーから「薫堂さん、今日は元気がないですね」とメールが来てしまって。そこで正直に「バナナが食べたいんですけど、この近辺で売っていないんです」と告白しました。

 そうしたら、何人かのリスナーが放送局まで本当にバナナを持って来てくれたんです! ありがたくて、涙が出そうになりました。2007年もいろいろなものを食べましたが、そのバナナが一番旨かった。特別なものではなく、ごく普通のバナナですが、感動的においしかった。

 そのときに思ったんです。バナナなんてありふれているけれど、こんなおいしいものに囲まれて生きている自分はものすごく幸せだ。それに気がつくことが大切だと。おいしいものがわかる能力よりも、おいしいものがあるということに気づく能力のほうが、人生にとって大切なことだと。

 一本のバナナで「一食入魂」の道を少し極められたような気がしました。

 
 

 

小山薫堂さんのオフィシャルサイト「N35」はこちら!▼
 http://www.n35.co.jp

 
 
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