築地、魚河岸、旬ばなし [47]

6月のサワラに7月のサンマ。
地球温暖化で旬が変わる!?

 
 
福地享子 = 文坂木浩子 = イラスト
 
 

 セリ場で仕入れた魚の箱を店頭に並べ、仲卸の1日が始まる。アジはここ、イサキはあっち、今日のキスはめっぽういいので最前列。鮮魚担当マッチャンから、アラヨッと手渡された長箱は、今の時期ならメジマグロかカツオ。これも夏の売りの魚ゆえ、最前列だ。

 しかし、6月初旬某日。受け取った長箱は微妙に細長い。氷に埋まった魚の銀色の背を見て、思わずアレッ!

「サワラじゃない? ヘェー、どうして」

 サワラは、うちの店では春先をもって店頭から姿を消すのが通例である。

「けっこうよさそうでさぁ。青森から入ったんだってさ」とマッチャン。

 私のなかの一等賞サワラは、宮崎県は日南市から航空便で厳寒の時期にやってくるそれ。あとは三重県に瀬戸内等々。南方系の魚ゆえ、青森からというのはすごーく珍しい。

 こういうときは、産地に聞くのがいちばん。三沢市の漁協に電話を入れてみた。

「4、5年前からまとまった漁になって、6月は最盛期。今日もけっこう高値がついて、築地や関西へ出荷されてます」

 セリを終えたばかりの声がはずんでいる。

「福井や京都あたりから津軽海峡に入って、太平洋を下って三沢沖に来たようですね」

 南方系のサワラが、北の海へと旅した理由は、地球温暖化による海水温の上昇。魚にとって水温1度の上昇は、人間の感覚でいうと10度に相当すると聞いた。魚にとっちゃ、棲みよい海を求めての当然の行動である。

「われわれ、西京漬けしか知らなかったんですが、生でもうまいもんですねぇ」

 京阪や瀬戸内地方では、酢で締めたものは生(き)ずしと呼ぶ伝統の正月魚。青森では、それを梅雨のころに賞味できるわけだ。もしこのまま温暖化現象が続き、サワラの主要な棲息場所が変わるとしたら……。

 ウーン、旬が変わるかも。

 旬の変化。実は、このことは河岸の日々のなかで、気になる一つなのだ。

 たとえばサンマ。7月なかば、河岸には初サンマの旗がひらめき、シーズン到来がはや告げられる。もっとも初値は高く、量も少ないが、8月には怒濤のごとく入荷、9月に入れば、もはや売る側は見飽きた状態である。夏のギラッとした太陽に光る青い背。それをザックリ刺し身で食べる。あぁ、食欲がわく。それが今のサンマ。季節感を大切にする俳句の世界でサンマは仲秋の季語、一般的な感覚もそれに近いが、現状は晩夏といっていい。

 この旬の微妙なズレは、流通が発達し、北海道沖から脂ののった頂点の美味しさを持つサンマが広く行き渡るようになった結果。流通が旬を変えたのである。

 カツオも、なんだか複雑な状況だ。初ガツオをもって、カツオの旬としているのは、たぶんに江戸時代から続く食文化の影響が大きい。なにせフィーバーしましたからね。その余韻といいますか。しかし、味覚が変わった今、多くのひとが美味しいと感じているのは脂がのった戻リガツオだ。旬の定義にはいろいろあるが、魚でいえば産卵前の脂がのった時期。この定義からいっても、軍配があがるのは戻りガツオである。とはいえ、昇りガツオの味わいにも、捨てがたいよさがあるしなぁ。二つの旬があるとすべきではないか。

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 長いスパンで見ると、旬はもっとダイナミックに変化している場合もある。漁が未発達な時代は、沿岸近くで簡単にとることができる時期が旬だったのだから。旬とは、さまざまな要因で変化してきたものなのだ。

 しかし、地球温暖化によるものだけは……。先の三沢漁協の方がこぼしていらした。

「サワラはいいとして、エチゼンクラゲですよ、問題は。日本海からやってきて、ここらでは絨毯みたいにでかいヤツが定置網にかかる。こうなると漁はバッタリですよ」

 余計なものまで運んできた地球温暖化現象。さらに、もしも温暖化のせいで旬が変化したとしたら。それは地球へのレッドカードだ。

[今月の魚]
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5月から6月、出回るのが麦の季節にあたるところから、麦イカと呼ばれるスルメイカの赤ちゃん。7月中旬を過ぎた津軽海峡では、日本海を北上してきたスルメイカ漁の最盛期を迎える。漁火(いさりび)を灯したイカ船が沖に連なる函館の夜景でも思い浮かべながらイカ焼きってことでしょうかね。塩辛は、肝に脂がのってからがおすすめなので8月以降というとこか。

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国連食糧農業機関(FAO)による2005年版世界の水産物貿易高が発表された。輸出の量、金額ともにトップは中国。輸入面でも、金額こそトップは日本だが、量は日本を抜いて中国がトップ。さらに富裕層が増せば、輸入額でも日本を追い越すかもしれない。

 
 
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