小山薫堂の一食入魂 [69]
日本でただ一軒。カレーラーメンのような
マレーシアのヘルシー麺「ラクサ」にハマった
- 人生の食卓を無駄にしたくないと願う男の食の軌跡

カナダでトナカイのパスタに感動し、
中国のエスカルゴに感嘆した。そして、
カレーラボプロジェクトも着々と進行しているのであった。
×月××日
日本一グルメな獣医、Aさんの結婚披露パーティーが銀座の「資生堂パーラー」で開かれる。食いしん坊の夫婦は資生堂パーラーのコロッケやカレーを惜しげもなく振る舞い、おそらく出席者全員が極度の満腹状態で家路に着いた。

- ラクサはビーフンを使ったカレーラーメン的麺料理。甘辛スパイシーで、とってもヘルシー。下は主人の勘川恵市さん。
翌日のランチは、満腹リハビリの意味も込めて、新橋にある「月島ら・く・さ」へ。最近、ここ“ラクサ”という料理にハマっている。ラクサとは、そもそもマレーシアの麺料理で、カレーラーメンのようなものだ。ただし麺は中華麺ではなく、ビーフン。香辛料をふんだんに使い、ココナッツミルクを隠し味にした甘くて辛いスープは病み付きになる。ベーシックな具は厚揚げともやしとチンゲンサイ。チキンや海老も選択できる。そして何より、一食当たり344カロリーというヘルシーさがうれしい。スパイシーで発汗作用もあるため、食べ過ぎた翌日にはピッタリなのだ。
おそらくラクサの専門店は、まだ日本でもここだけだろう。
「まさか自分でも、こんな店を始めるとは思っていませんでした」
実は去年まで、店主の勘川恵市さんは月島で居酒屋をやっていた。常連客の一人に、とにかくよく飲み、とにかくよく食べるラガーマンがいた。酔うと必ず彼は「ラクサを出せ」と言う。オーストラリアのシドニーへ遠征した際に出合ったラクサという食べ物がとにかくうまい、といつも聞かされた。聞かされるだけならまだ良かったが、最後はとうとうシドニーまで連れて行かれた。
「どうだ、うまいだろ! 次からお前の居酒屋でもこれを作ってくれ」
酔っ払い客のワガママが、勘川さんの人生を変えた。勘川さんはラクサのスープを魔法瓶に入れてこっそり持ち帰り、何度も研究を重ねた。そして自分なりのラクサが完成し、ついに専門店まで開いてしまった。新橋にあるのに、店名にあえて月島とつけたのは、そんな物語からだ。
2007年2月現在、ラクサの専門店は日本に一軒のみ。10年後には、いったい何軒に増えているだろうか?
×月××日
仕事でカナダへ行く。カナダは初めてで、大自然のイメージばかりが先行していたが、意外にうまいものが多いことに驚いた。例えば、子持ち昆布。ニシンが昆布に卵を産みつけて出来る天然の子持ち昆布は、ほとんどがカナダ産らしい。4センチほどの分厚い子持ち昆布がこんなにうまいとは思わなかった。

- 一抹の罪悪感を持って口をつけたが、それが吹っ飛んでしまうほど美味しかったトナカイのパスタ。未知なる美味であった。
しかしそれ以上に驚いたのが、レイク・ルイーズの「ポスト・ホテル」で出合ったトナカイのパスタである。
「え、トナカイさんを食べるの?」
ジビエというジャンルで括っては失礼なように思えてしまう。が、一口食べた途端、その罪悪感は吹き飛んだ。高級ブランド牛のフィレ肉よりも柔らかく、蝦夷鹿に似た味の奥行きを感じられる。ジビエ特有の臭みは、ブラウンソースによっていい具合に風味に変化していた。まさかトナカイがこれほどうまいとは!
それにしても……果たして、この国にサンタクロースはやってくるのだろうか? と思った。
×月××日
有馬温泉の「陶泉 御所坊」に宿泊。本当に上質な温泉にゆっくり浸かったあと、夕食をいただく。神戸牛を食べたいとリクエストしたら、この宿オリジナルの“かわりすき焼き”が出てきた。

- 有馬温泉「陶泉 御所坊」の“かわりすき焼き”は、すき焼きとしゃぶしゃぶを両方味わった贅沢な気分になった。
鉄鍋には最初からロース肉が敷きつめられていて、傍らに山盛りの葱が添えてある。そのまま火にかけると、底に隠れていた特製の胡麻スープがぐつぐつと音をたて、みるみるうちに肉をピンク色に変えていった。よきタイミングで口に運ぶ。
う、うまいじゃないか!
葱は煮えすぎないうちに食べたほうがいい。シャキシャキとした食感がこれまた肉の脂と素晴らしい相性だ。すき焼きほどのしつこさはなく、しゃぶしゃぶほどあっさりしていない。すき焼きとしゃぶしゃぶを両方味わった贅沢な気分になった。
×月××日
あるイベントの準備のため、北京へ出張。中国政府の関係者から会食に誘われる。案内されたのは「釣魚台国賓館」……そう、中国の迎賓館である。最近では「六カ国協議」がここで開催された。
厳重に警備されている門をくぐると、広大な敷地の中に20あまりの建物が点在していて、それぞれがレストランや宿泊施設になっている。テレビのニュースでしか見たことのないような部屋に通されると、広いテーブルに華やかな食器がセットされていた。中国産のカベルネ・ソーヴィニヨンで乾杯して食事がスタート。当然、中国料理を中心にした献立だったが、一番おいしかったのはエスカルゴだった。パン皿に、厚揚げとレンコンとパンを一緒に乗せていたのが不思議だった。

- 北京の「釣魚台国賓館」で華やかなディナーをいただいてVIP気分に浸る。後日、誰でも簡単に予約ができることを知った。
VIP気分を味わい、ホテルに戻ってふと考えた。日本の迎賓館ではどんな料理が振舞われているのだろう?と。料理はその国の文化の顔でもある。うまければ「おぉ、さすが日本!」となるが、その逆の可能性もある。毎日使用しているわけではないのだろうから、時々、一般に開放し舌の肥えているグルメな人々の反応を調査したほうが良いと思うのである。
自宅に戻り、「釣魚台」のことを調べてみた。何と……誰でも簡単にネット予約できることを知った。
×月××日

- 3月にオープンするカレーラボプロジェクトが着々進行中。器も決まり、いよいよ最終段階のカレーソース決定が迫ってきた。
3月に東京タワーの中にオープンする「東京カレーラボ」プロジェクトが着々と進行中。今日は食器の打ち合わせである。ごはんの最後の一粒まですくいやすいカレー皿の形状を考え、最も手になじむスプーンを探している。カレー皿は型をおこして、理想のものをオリジナルで製作する予定だ。グッドデザインカンパニーの水野さんが提案してきたランチョンマットがこれまたカッコいい。
オープンまであと1カ月あまり。カレーソースの最終決定をする日が近づいている。
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「月島ら・く・さ」 東京都港区西新橋3-8-2 萬楽園ビル1階 TEL.03-3431-1250 「陶泉 御所坊」 兵庫県神戸市北区有馬町858 TEL.078-904-0551
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