小山薫堂の一食入魂 [Special]

発表!2006年、印象に残った5皿

 
 
人生の食卓を無駄にしたくないと願う男の食の軌跡
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小山薫堂 = 題字八幡英文 = 撮影編集部 = 構成
 
 

――今回は、1月号恒例の「一食入魂スペシャル」です。薫堂さんが、2006年に食べた料理の中から、「最も印象に残った5皿」を教えてください。

 特に印象に残ったのは、「カンテサンス」の“塩とオリーブオイルが主役の山羊の乳のババロア”、「バロン オークラ」の“フカヒレの刺身”、「竹慈庵 なかだ」の“フォアグラの酒粕漬け”、「福竹」の“はんぺん”、そして「井雪」の朝食ですね。

――「カンテサンス」は、10月号と12月号の「一食入魂」で登場しています。最近のお気に入りのフレンチですね?

 岸田シェフは素晴らしい腕と感性を持っています。まだ32歳ですが、パリの二つ星レストラン「アストランス」のスーシェフ(副料理長)を務めただけのことはありますよ。今僕が最も気に入っている料理人の一人です。

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(右)山羊の乳のババロアで全体をまとめ、百合根とマカデミアナッツでアクセントをつけた、“塩とオリーブオイルが主役の山羊の乳のババロア”。コースの中の定番的一品。
(左)「塩とオリーブオイルを味わってもらう料理をつくってみたかったんです」と岸田周三シェフ。

 なかでも、この料理は、塩とオリーブオイルを食べさせるための不思議な一皿なんです。岸田シェフがフランスから取り寄せた塩とオリーブオイルを、山羊の乳のババロアに添えて出す、いや、主役はあくまでも塩とオリーブオイルなので、ババロアを添えて出す。不思議なことに、塩とオリーブオイルをそのまま舐めるより、それぞれの香りや味がくっきりと引き立ち、さらに奥深い味わいが口の中に広がるんです。

 初めて食べたときは驚きましたね。副食材を主役にした料理というテーマ自体面白いし、塩とオリーブオイルの偉大さを改めて感じさせられました。

 岸田さんの料理は繊細で複雑なので、それをきちんとサポートし、上手にプレゼンテーションするスタッフがいないと、成り立たないでしょうね。2006年5月にオープンしたばかりなので、今後、どのような店になっていくのか、楽しみです。

――「バロン オークラ」の“フカヒレの刺身”は、3月号で「シャンパーニュとの相性は完璧」と評しています。

 実は、僕はシャンパーニュのシュバリエ(騎士)に任命されているので、2006年もシャンパーニュをたくさん飲みました。いや、本当は、シュバリエはシャンパーニュを世に広めるのが役目なのですが……。でも、人にたくさん注いだから、多少は貢献したでしょう。

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(左)フカヒレを上質の上湯(シャンタン)を吸わせながら戻し、冷やしたものに、干し貝柱のエキスでとったゼリーやねぎ油を添えて食べる、“フカヒレの冷菜”6300円。プリッと心地よい歯ごたえにねぎ油の香りやコクが加わりシャンパーニュとの最強タッグに。
(右)「僕が考えたイメージに近づけるために20回ほど試作してもらいました」と、マネージャーでソムリの江川和彦さん。

 そんな僕にとって、シャンパーニュを飲む楽しみをさらに加速してくれたのが、この一皿です。

 フカヒレというと、普通は煮込みやスープなどの温かい料理ですよね。でも、これは冷菜、刺身なんです。あまり「マリアージュ」という言葉は使いたくないんですが、この料理はシャンパーニュと出会ってすばらしい結婚を果たしましたね。しかも、この料理は料理人が考えたのではなく、ソムリエの江川さんのアイデアで生まれたというところが面白い。

 ただ、メニューを開くと“フカヒレの冷菜”としか書いてないんですよ。新しい料理なんだから、それなりのネーミングが必要だと思うな。かつてヴェネツィアの画家、ビットーレ・カルパッチョの赤をイメージさせる料理が“カルパッチョ”と呼ばれるようになったみたいに。このフカヒレの刺身は透明感のある白のイメージだから……“白の画家”と呼ばれるユトリロがいいですね。初期の“白の時代”と呼ばれる頃はアルコールに溺れていた、というのもこの料理に合うような気がする。

 今度、江川さんに“ユトリロ”という料理名にするように提案しよう。

――6月号で登場した「竹慈庵 なかだ」の“フォアグラの酒粕漬け”は、これで日本酒を飲むと「至福の時間」と書いていますね。

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(左)フォアグラの濃厚な旨味と酒粕のコクが品よく融合した“フォアグラの酒粕漬け”。コースの中の定番の一品。口の中で溶かしながら満寿泉と合わせると、恍惚の幸福感に包まれる……。右奥は花巻。
(右)料理人の中田光星(こうせい)さんは、フレンチ出身。旬の食材と和洋の技を織り交ぜた皿を次々に繰り出してくるのだ。

 これは、フレッシュのフォアグラを酒粕に2週間漬け込んだもので、焙った包丁で切り分けてくれるのですが、包丁を入れるたびにジュッと音がして、フォアグラの香りが漂ってくる。食欲神経を刺激するんですよ。そして口の中でゆっくりと溶けながら、濃厚な味が広がっていく……。かつてないフォアグラの深い味わいですね。フォアグラを食べ尽くしたフランス人に、ぜひ食べてほしいくらい。

 この味の秘訣は、富山の満寿泉の“プラチナ”と呼ばれる純米大吟醸の酒粕を使っていることでしょうね。だから、これを食べるときは満寿泉の純米大吟醸を合わせます。素晴らしくよく合うんです。フォアグラを少しずつ食べながら、酒を飲むのは本当に幸せなひととき。こんなにも、日本酒とフォアグラは相性がいいのか、と驚きました。

 料理人の中田さんは富山でフレンチ料理店を営んでいたのですが、食通のオーナーたちが開いたこの店で腕を振るうことになったそうです。同じ客には同じ料理は出さないんですが、でも、一品だけ必ず出すのがこのフォアグラの酒粕漬けなんです。

 何より面白いのは、この店は千一夜だけの限定営業。2008年の春には閉店してしまう。実に不思議でおいしい店ですね。

――「福竹」は12月号でフワフワのお好み焼きが登場しましたが、“はんぺん”には触れていませんでしたよね?

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(上)薫堂さんが「従来のイメージが変わった」という“はんぺん”400円。マヨネーズと青海苔のソースをつけてもまた旨い。「焦がしちゃだめなのよ。ゆっくり丁寧に焼き目をつけて……はいッ! 今すぐ食べてッ!」と、お母さんのアドバイス付き。
(下)お母さんの永本初子さん(右)、秀男さん夫婦と娘の廣美さんの家族3人で賄う下町的アットホームな店。お母さんが各テーブルを見てくれるので、客は手出し無用。
左下のお好み焼きは、豚肉、海老、イカなどが入ったふくたけチーズ天1450円。

 ここのお好み焼きは凄いんですよ。20分くらいかけてじっくり焼いて、まわりは香ばしく、中はフワフワ。ケーキみたいな食感です。

 でも、僕ははんぺんのインパクトが大きかった。はんぺん自体がおいしいんですけど、それを丁寧にやさしく焼くことで、表面はカリッと、中はふんわり……まるで寿司の名店の玉子焼きのような繊細な印象でした。

 そのまま食べておいしいのですが、鉄板の上でマヨネーズと青海苔を混ぜるソースにつけるとまた違った味わいになるのも楽しい。

 家でも真似してみたんですよ。はんぺんに細かく隠し包丁を入れて、たっぷりのバターで焼いてみて。でも全然違う。「福竹」でないとダメですね。材料だけでなく、すべて焼いてくれるお母さんの腕も大きいと思います。

 そうそう、このお母さんが楽しいんですよ。客がそれぞれ鉄板つきのテーブルで食べるスタイルですが、焼いている間は客に一切触らせない。

 客がヘタにお好み焼きに触ろうものなら、すっ飛んで来て「まだ触っちゃダメ!」。完璧なお好み焼きに仕上げようとするから、自分ですべて管理する。その理論を説明しながらやるから、まさに口八丁手八丁の大活躍。

 僕は、その神々しい姿を見ながら、心の中で“鉄板の女神”と呼んでいました。言いすぎかな。

 僕はそれまではんぺんを軽視していましたが、「はんぺんは旨い」ということを初めて知りました。これを教えてくれた女神に感謝ですね。

――最後は、京都の旅館「井雪」の朝食。これは「一食入魂」には登場していませんが……。

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「純真無垢、清らかな美しさがある」と薫堂さんが唸った「井雪」の朝食。余分なものがなく、しかし満ち足りた気分になれる。特に、丁寧に焼かれた鮭のおいしさには目を見張ったとか。前日の酒もすっかり抜け、きれいに平らげ、背筋を伸ばして「ご馳走さま」。

 あまりにも清らかな食事で、普段の自分がダメに思えたので、なかなか書けなかったんです。

 知り合いと京都に遊びに行って、みんなで泊まったのがこの旅館。前夜は祇園でドンチャン騒ぎをして、旅館に戻ってからも酒飲んで、翌朝、この朝食を目にしたらハッとしました。

 時間をかけて焼いたことがひと目でわかる立派な鮭、さりげなくあしらわれたほうれん草の胡麻和え、お揚げと小松菜のおひたし、ひじき、そしてご飯と味噌汁。

 その数日前、ある人に「生け花は引き算の美」と言われたことがあったのですが、まさにこれだ!と思いました。普通、旅館の食事はいかに見映えをよくするか、足し算の論理ですよね。しかし、「井雪」の朝食はまさに引き算の美。余計なものがない、不足がない、野心がない。簡潔にしてキレがある。まさにニッポンの朝ご飯のお手本でした。

 ダメな自分に活を入れてくれるような静謐な汚れなき朝食、ああ、こんな朝食のような人生を送りたいと、背筋を伸ばしていただいて、食べ終えたときには思わずしっかり両手を合わせて「ご馳走さま」と言いました。

――2006年の「一食入魂」を振り返ってみていかがですか?

 日本がますますおいしくなっています。そんなに儲からなくてもいいから旨いものを追求したい、という店が増えましたよ。この流れは2007年も加速すると思います。食べ手にとってはおいしいものに出会えるチャンスが増えているということですよね。そのためにも、2007年も一食入魂の精神がより一層必要です。


カンテサンス 東京都港区白金台5-4-7 バルビゾン25 1階
TEL.03-5791-3715
営/12:00〜13:30(L.O.)、18:30〜21:00(L.O.) 休/水曜 カード/ほぼすべて可
●メニューはなく、その日の食材などによって料理内容が決まるおまかせコースのみ。“塩とオリーブオイルが主役の山羊の乳のババロア”は夜のコースの定番。昼でも予約時に注文すれば組み込める。コースは昼7350円、夜1万5780円。
バロン オークラ 東京都港区虎ノ門2-10-4 ホテルオークラ東京 別館12階
TEL.03-3224-7109
営/18:00〜翌1:00(L.O.) 日祝は〜22:30(L.O.) 休/無休 カード/ほぼすべて可
●500種1万本のワインを有するワインダイニング&シガーバー。“フカヒレの冷菜(フカヒレの刺身)”は通年の定番メニュー。男性はジャケット着用のこと。個室もある。
竹慈庵 なかだ 店の都合により、住所・電話番号は掲載できません。
 
営業時間は18:00〜
料理はおまかせで1万5000円(税、サービス料込み)。紹介制の店だが、メールで申し込む手段もあり(詳細は本誌をご参照ください)。
福竹 東京都大田区東矢口1-17-11
TEL.03-3739-4064
営/17:30〜23:00 休/月曜(祝日の場合は翌日) カード/不可
●人気のふくたけ天(豚肉、海老、イカ入りミックス天の1.5倍)は1350円。いかそば800円、すなぎも500円なども。
井雪 宿の都合により、住所・電話番号は掲載できません。
 
 
 

 

小山薫堂さんのオフィシャルサイト「N35」はこちら!▼
 http://www.n35.co.jp

 
 

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