「活け締め」「野締め」は
魚好きの日本人が生んだ食の文化
河岸では、魚を殺す、とはいわない。シメル、という。漢字で書くと「締める」。辞書で引くと、(1)固く結ぶ。(2)(戸などを)閉じる。ほかに取り締まる、合計する、節約などの意味があり、最後に手打ちして祝うとある。はて、魚を「締める」とは、どの意味にあてはまるのか。
(1)(2)あたりが近い。でも、ふっと思い出したのは「魚河岸一本締め」。河岸じゃ、なにかことがすむと、「イヨオ」の声でシャシャシャのシャンで締める。レストランでやった河岸の会合に初めて出たときは、驚きましたねぇ。幹事さんが「それでは魚河岸一本締めで」と、やおら切り出し、一堂シャシャシャのシャンでお開きとなったのだ。周りのお客さんは、唖然呆然。このとき以来、一本締めは身近なものになったけどね。
それはさておき、手打ちして祝う、という意味が、河岸の気分には似合う。売る側にとっては、みごと売れました。お客さんは、その魚でご商売できる。客待ち顔の魚にしても、これでだれぞの舌を堪能させてお役にたてる。三者(?)丸く納まり、一本で締めたくなるってもんじゃありませんか。
さて、「締める」から生まれたのが「活け締め」「野締め」といった言葉。
「活けじゃなく、野締めで」と、活魚と締めた魚、ふたつの選択肢があると、そんな言い方をする。ま、河岸では日常的に使う言葉だ。
まず「活け締め」とは、活魚、つまり生きた魚を締めること。河岸での方法は、速攻で頭部、あるいはエラ下、そして尾に包丁で切り込みを入れ、針金を脊髄に刺して「神経抜き」し、瞬時に締める。慣れないと不用な時間がかかるため、疲労物質の乳酸が体内にたまり、味の劣化につながる。活け締めとは、魚を美味しく食べるための熟練の技なのだ。
活け締めは浜でも行うが、この場合、「浜締め」と呼ぶこともある。浜締めの高度なテクニックで有名になったのが、大分県佐賀関から出荷される関サバや関アジなどの通称「関物」たち。ほかの産地からやってくる野締めのサバやアジと違い、関物には首に包丁目が見えるが、これがポイント。佐賀関漁港では、一尾ずつ包丁で締め、出荷しているのだ。築地には翌日到着となるが、店に並んだものはプリンプリンの状態。しかも、この状態が1日では終わらない。アシが早いサバも、信じがたいほど鮮度を保っている。関物が、誇らしげなシールなぞ付け、ブランドとして確立している理由の一つは、この締め方にあるといってもいい。
そして「野締め」。これは浜で締める方法の一つ。その様子は、鹿児島県出水市のアジで実際に見た。前日に釣ったアジは、網に入れられ、海水に浸して活かしておく。そして、入札の直前に海から引き上げ、一気に氷をかけて締めるのだ。一尾ずつ、包丁で締めるには量が多い。そこで氷を使うことにより、鮮度保持と味の劣化を防ぐのだ。サバやイワシ、カツオ、ブリなど、河岸への入荷がもっとも多いのは、この野締めのタイプだ。
こうしてみていくと、「締める」とは、調理以前の美味しさへの追求ともいえようか。
パリでレストランを営む日本の方が、こぼしていたことを思い出す。
「フランスの漁師は、魚の締め方を知らない。せっかくいい魚が揚がっても、きちんと手当てしないので、ブヨブヨ。つくづく食文化の違いを感じますよ」と。
しかし、このところ、ちょっと複雑な気持ちになる光景を河岸で目にする。
「オレたち、ひと前で締めること、できなくなるんじゃねえか」と、活魚担当がもらしているが、活け締めの様子が一般のお客さまには残酷に見えるらしい。強張った顔の若い女性客。「オー、ノゥ」という外国人女性の悲鳴も、再三再四、耳にしている。
「締める」とは、魚食の民である日本人が編み出した食の文化。きちんと理解されていないようで、なんだか残念。
- [今月の魚]

- 日本海を北上したスルメイカ。津軽海峡では、夏から秋にかけてこのスルメイカ漁で賑わう。となれば、そろそろ作りたくなるのが塩辛。塩辛は、肝がポイントだが、北国育ちのスルメイカの肝はネットリ脂があって、塩辛作りには最高。もちろん刺し身になるような鮮度のいいものを使ってくださいね。
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魚を締める、とは、命あるものをいただいている、という畏敬の念にも繋がっている。波除神社には、殺生してきた活魚やアンコウなどの塚がある。また毎年、河岸では活魚、アナゴ、フグなどの供養祭もしめやかにとり行われている。
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