小山薫堂の一食入魂 [Special]
親子が楽しそうに料理をつくる。
そんな店の肉団子が印象的だった
- 人生の食事を無駄にしたくないと願う男の食の軌跡

2005年も、男は和洋中からスイーツまで、
さまざまな場所でいろいろなものを食べ歩いた。
そんな男が“最も印象に残った5皿”とは何か?
1年の総括として聞いてみた――。

- 上/「萬来園」の“肉団子”。ふんわりとした肉団子が、ねぎや白菜、椎茸、春雨などとともに、土鍋に入って出てくる。
下/右から中野昭吾さん、カヲルさん、息子の勇人さん。
――「一食入魂」の1年を総括して、2005年で“最も印象に残った5皿”を教えてください。
うーん、「一食入魂」を読み返していると、今年もいろいろなものを食べた、という感じですね。
でも、印象に残った5皿といえば、大井町にある中華料理「萬来園」の“肉団子”、南麻布のイタリアン「カーザ ヴィニタリア」の“バーニャカウダ”、月島の「焼肉酒家 傳々」の“ホルモン”、銀座のステーキ「かわむら」の“牡蠣フライ”、そして京都の「嵐山吉兆」の“卵かけご飯”です。
――「萬来園」は、2005年7月号で「とにかく不思議な店だ」と書いていますね。
実はおいしさよりも、楽しさの印象が強いんです。メニューはなく、ご主人がその日の材料を客に伝え、客と相談しながら料理を決めていくスタイルなんですが、とにかく客においしいものを食べさせよう、というオーラがあふれ出ている。共同作業で料理をつくる息子さんとの阿吽の呼吸も見事。サービス担当の奥さんと、3人の雰囲気が実に楽しそうなんです。見ているこちらも一緒に遊んで楽しんでいる感覚になりました。
これは“食の劇場”だと思いましたね。ちょっと高いけど、食べ終えたときには、まるでとてもいいお芝居を観たような感じ。

- 「カーザ ヴィニタリア」の“バーニャカウダ”。セロリ、蕪、水茄子、ういきょう、チコリなど、12〜13種類の野菜を、にんにく、アンチョビ、タイム、ローズマリー、オリーブオイルの熱いソースにつけて食べる。ゴルゴンゾーラソースも選べる。
料理はその時々の素材によりますが、特に“肉団子”の印象が強いですね。豚肉を使った実に柔らかな肉団子が、野菜や春雨とともに土鍋に入って熱々で出てくる。とても手間がかかっていて、繊細なおいしさに満ちあふれている。この家族のようにやさしくて楽しい味でした。
――「カーザ ヴィニタリア」もお気に入りのようですが。
今、一番行っている店かもしれない。この店はコストパフォーマンスが抜群によくて、スタッフのホスピタリティが実に素晴らしい。全員が謙虚で空間づくりのセンスがいい。テーブルに案内するタイミングや気配りの仕方、あるいは勘定書きに「ありがとうございました」と手書きしたり、ささやかな演出も上手なんです。
サービスに、ある意味で女性的な繊細さがあり、でも線が細いわけではないから適度に心地いい。こうしたコンセプトは、もちろん料理にも表れていて、素材の選び方にもつながっている。
その象徴が、コースの最初に出てくる“バーニャカウダ”なんです。季節のきれいな味の野菜をふんだんに盛り込んでいて、心地よく食事をスタートさせることができる。こんな“前菜”はなかなかないですよ。ワインにも合うし。
バーニャカウダに始まり、パスタや軽いメイン料理などの後に温かい野菜料理、そして締めにパスタを好みの量で食べてデザートへ。客のツボを心得ていますよね。料理人がつくりたいものを出すのではなくて、食べ手の立場で考えてつくられている。
しかも安い。このコースで5500円ですからね。先日、長崎の友人を連れて行ったら「長崎より安かばい! この内容なら長崎では1万円はする」と驚いていましたよ。

- 左/「焼肉酒家 傳々」の“ホルモン”。たっぷりねぎをのせたままじっくり片面だけ焼く。脂がこんがりするまで焼いて食べると、柔らかな食感と澄んだ味に驚く。
上/牛肉やホルモンは神戸から取り寄せる。手前がホルモン、右奥が黒タン、左奥がハラミ。鮮度のよさがわかる、きれいな色だ。
――ホルモンも入っているのは、肉好きの薫堂さんらしいですね。
「傳々」は、「一食入魂」では書いていないのですが、この店は素材がものすごくいいし、味つけがうまい。神戸から直接仕入れている牛肉も旨いのですが、特にホルモンが凄い。上品な味つけがされた、きれいな薄いピンクのホルモンにねぎがたっぷりのっていて、片面だけ焼いて食べるんです。
脂が焼けてもうもうと煙が出て凄い状態になります。でも、食べるとマシュマロのように柔らかくて、まるでデザートを食べている食感なんです。普通のホルモンのような荒々しさがまったくない。これは、一度食べるとやみつきになりますよ。僕はここ1〜2カ月で3回行きました。
ねぎを胡麻油と胡麻で味つけした“ネギムンチ”も頼んで、ホルモンと一緒に食べるのが好きですね。夜遅くまでやっているし、貴重な店です。

- 左/「かわむら」の“牡蠣フライ”。上質な素材をシンプルに揚げることで、ストレートなおいしさを演出。
右上/「水のようなステーキを焼く」(薫堂氏談)河村さんは、客からの注文に応じて料理をつくることも多い。ミートソーススパゲッティも薫堂さん大絶賛。
――そして、今年も「かわむら」が登場しました。
やっぱりこの店は好きですね。なかなか予約が取れないのが難点ですが。
“牡蠣フライ”は、以前行ったときに生牡蠣があって、「生じゃなくて何かつくってください」と頼んだら、「じゃあフライにしましょう」と。これが絶品! いい牡蠣を使っていることがわかる、見事なものでした。
本当は、“松茸のフライ”や、注文が入ってから肉を刻んでつくる、すごくおいしい“ミートソース”にしようか迷ったのですが、やっぱり“牡蠣フライ”がよかった。
「かわむら」はステーキ屋ですが、頼めば何でもやってくれる。いわばその象徴ですね、牡蠣フライは。客のわがままに柔軟に対応してくれる、懐の深い店です。
――最後は「卵かけご飯」ですか。
「嵐山吉兆」で食事をしたときに、最後に出してくれたものです。毎年コンペをして決めているというお米を竈で炊き、特別に取り寄せた卵をかけ、特別な醤油、海苔、そして削りたての鰹節をかけていただく。人生最高の卵かけご飯でした。

- 「嵐山吉兆」の“卵かけご飯”。炊きたてご飯に厳選された卵。薫堂さんはこれを食べた瞬間、「世の中にこんなご馳走があったのか!」と驚いたという。(撮影・小山薫堂)
もちろん、それ自体がおいしいのですが、「嵐山吉兆」の料理は自分の味覚を確かめながら、緊張感を持って戦いながら食べていくような料理です。その最後にホッとするような卵かけご飯が出る。この安らぎが、感動的ともいえる味わいにしてくれたのでしょう。こうしたシチュエーションや演出も重要ですよ。
――2005年の「一食入魂」を振り返ってみると、いかがでしたか?
“印象に残った5皿”を挙げているうちに自分でも気づいたのですが、2005年はこれまで以上に、「客のわがままに応えてくれる店」に通ったような気がします。
「カーザ ヴィニタリア」にしても「かわむら」にしてもそうですが、店が出してくれるものを食べるのではなく、自分が食べたいものを出してくれる、融通が利く店がいいという思いが強くなりました。知らず知らずのうちに、料理人のレールに乗るのが嫌になってきたんでしょうね。
こうした要望は僕だけじゃないと思いますよ。これからは食べ手の時代。オーナーシェフが自分のやりたいことをやる店より、食べ手がレストランプロデューサーとなる店が流行るようになるのではないでしょうか。
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萬来園(ばんらいえん)
東京都品川区東大井5-6-8
TEL03-3450-5667
営/12:00〜12:30(入店。平日のみ)、18:00〜21:30(L.O.) 休/水曜 カード/不可
●昼はチャーハンと麺類のみ。夜はその日の素材によってコースの内容を決める。カウンター13席。肉団子は、夜のコース料理に入るときもある。カーザ ヴィニタリア
東京都港区南麻布1-7-31 Mタワー1・2階
TEL03-5439-4110
営/17:30〜翌1:00(L.O.)、日祝は14:30〜20:30(L.O.) 休/月曜 カード/ほぼすべて可
●コースは、菜園風季節野菜のカーザヴィニタリアスタイル(バーニャカウダ)、ピアティーニ(小皿の前菜)、パスタ、軽いセコンド、温かい野菜料理、シンプルパスタ、ドルチェ、カフェで5500円。単品もある。ワインも充実。焼肉酒家 傳々(でんでん)
東京都中央区月島1-5-6
TEL03-3536-0003
営/17:00〜24:00(L.O.) 休/無休 カード/ほぼすべて可
●ホルモン750円、ハラミ1200円、タン1000円、上ミノ850円、ハチノス750円、カルビ、ロース各1200円。2006年1月か2月に近くに移転予定。かわむら
東京都中央区銀座7-3-16 東五ビル1階
TEL03-3289-8222
営/18:00〜22:00(L.O.) 休/日曜、祝日 カード/ほぼすべて可
●前菜、ステーキなどのおまかせで2万円〜(予算に応じて料理の内容が決まる)。牡蠣フライは入荷があればつくってもらえることもある。要予約。嵐山吉兆
京都府京都市右京区嵯峨天竜寺芒の馬場町58
TEL075-881-1101
営/11:30〜13:00(L.O.)、16:30〜21:00(L.O.) 休/水曜 カード/ほぼすべて可
●昼は3万6750円〜、夜は4万2000円〜。

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