特集/「立ち飲み」が断然、楽しい!

注文、お金の払い方、基本マナー……これでもっとスマートに

一目おかれる、カッコいい
「立ち飲み名人」になりたい!

 
 
立ち飲みは堅苦しくない雰囲気がいいのだが、ちょっとした“お作法”を
知ればもっと楽しく、スマートに飲める。目指せ、立ち飲み名人。
 
 
松尾隆志 = 文高瀬 斉 = イラスト
 
 

 立ち飲みは楽しい。なぜか?

 立って飲むという、非日常的な(日常の人もいるが)、ちょっとお行儀の悪いことをしているような快感があるから。バラエティー豊かな酒やつまみが揃っているから。そして何より安いから……。

 理由はいろいろあるが、そんな素敵な立ち飲みをもっと楽しむためには、立ち飲みのお作法を知っておくことが必要。いやいや、そんな堅苦しいことではありません。先輩たちの立ち振る舞いをちょっと見習うだけでOK。

 そう、立ち飲みはお行儀が悪いと書いたけど、立ち飲み屋に通う酒飲みたちは実にマナーがいい。酔っ払ってからむような人もいないし(そこまで酔うほど立っていられない)、だから立ち飲み屋の雰囲気は意外に(失礼!)清く正しく美しいのだ。なかでも、どんな店にも、惚れ惚れするような見事な立ち振る舞いで格好よく飲んでいる名人がいる。その所作を見習えばあなたも名人になれる、はず。

 まず、立ち飲みに行くときには、大きな荷物は避けること。狭いスペースで大勢の人が飲むのが立ち飲みのよさ。大きな荷物は邪魔になるのだ。それから小銭を用意しておくこともお忘れなく。立ち飲み屋は、値段が安いし、注文するたびにお金を払うCOD(キャッシュ・オン・デリバリー)システムが多い。カウンターで300円の酒を買うのに1万円札を出すのは野暮というもの。せめて千円札は用意しておこう。

店によってシステムが違う。
串が伝票代わりのことも

 僕がかつて遭遇した名人は、折った新聞紙を背広姿の小脇に挟み、右手で店のドアを開けながら左手をズボンのポケットに突っ込み、カウンターまでの5歩の間にポケットから小銭を取り出していた。カウンターで「ビールと煮込み」と言ったときには、左手でお勘定の630円をきっちり差し出しているのであった。

 ただ、お金の払い方は店によってさまざま。カウンターで酒やつまみを買ってテーブルで飲む店では、その都度支払うCODが基本。カウンターで飲む店では、CODのほか、最後にまとめて支払うパターンがある。CODシステムのカウンター店では、目の前にお金を置いておく人が多い。

 つまり、店に入るとカウンターに自分のスペースを確保し、たとえば千円札を1枚、自分の前に置くわけですよ。で、注文すると、店の人が酒や料理を運ぶたびに、そこから勝手にお金を徴収していくというシステム。いちいち財布を取り出さなくてもいいし、最近できた新しい店では灰皿のような小皿に、釣り銭を入れておいてくれたりする。何だかカッコいいでしょ。それに、なによりつい飲みすぎた! とか、金を使いすぎた! ということがない。最初に置いた予算分しか飲めないのだから。

 僕が時々行く店では、いつも見かける中年サラリーマンがいるのだが、彼はいつもカウンターの同じ場所で飲んでいる。しかも、いつも、まず千円札をカウンターの同じ場所に丁寧に置き、静かに飲む。その日によって違うつまみを頼んでいると思うのだが、常にきっちり1000円、つまりカウンター上の小銭がなくなるまで飲んでスッと帰る。彼もまた長年にわたって技を磨いたであろう名人の一人だ。

 最後にまとめて支払う店では、伝票に記入したり、注文のたびにプラスチックの札や串を伝票代わりに置くケースもある。目の前の札や串が増えていくのはちょっと不安になるが、だからといって、隣の酔っ払いのほうへ混ぜちゃったり、串をほかの客の皿にのせたりしないこと。

 こうした支払いシステムは、明記されていないケースが多いので、初めての店では戸惑う。しかし、先客の様子を見ていれば何となくわかるはずだ。

つまみは一皿か二皿にしておく
スペース有効活用が基本

 注文するときはカウンターの前で迷ったりしないで、さっさと決めてとっとと注文しよう。立ち飲みでは「えーと、とりあえずビールと……」なんて言う人いないからね。

「ビールと枝豆」「550円」。客も店の人も余計な言葉はほとんど発しない。外国人だって「サケ」「コレ」程度の単語さえ知っていれば十分。いずれは、立ち飲みはインターナショナルになるであろう。

 マニアックな店になると、もっと凄い。大阪でどて焼きの立ち飲みで飲んでいたら、常連客が入ってきて「大ビと3本」。なんのこっちゃと思ったら、大瓶のビールとどて焼き3本を注文したのでした。

 ただ、この立ち飲み会話も店と場所によってかなり違う。東京でも、オールドタイプの店は寡黙な感じ。新しい店は、若いスタッフが親切に話しかけてくれる。また、東京は単語だけの会話が多いが、大阪に行くと、「いらっしゃい。今日は何すんのん? タコおいしいで……」と愛想がいい。客も「昨日もタコタコ言うとったやないか。残りもんかぁ!?」と、それは見事な掛け合いが繰り広げられる。

 注文は少しずつが基本。繰り返すが、限られたスペースを共有するのが立ち飲み人の仁義である。ある店では、一人で来た客がつまみを一皿とって酒を飲み、皿が空になると自分でさっと片付けて次のつまみをとっていた。実に几帳面な名人であった。

 そこまではいかなくても、一皿かニ皿のつまみで飲むのが見た目も格好いい。たくさんとりすぎて、結局残している二人組を見たことがあるけれど、帰るときに実にばつが悪そうだった。自業自得。

 だいたい、カウンターで買ってテーブルに持っていくような店では、一度にたくさん持てないでしょ。つまみ二皿とビールとコップだけだって一度に持つのは大変。片手でつまみ二皿を、もう片方の手でコップをかぶせたビール瓶を持ち、口に割り箸くわえて器用に人混みをすり抜けていく名人を見たことはあるけれど、そこまでいくには熟練が必要だ。

 そして、空いた器はできれば自分で片付ける。なかには、飲み終えると皿もコップも片付けて、台布巾でテーブルを丹念に拭いてから帰るおじさんもいる。家でもやりましょうね、おとーさん。

 勢いにのって、空いた皿をどんどん片付けてしまったために、割り箸が取り残されてしまったらどうするか。いや、実はこんなケースが結構あるんですよ、特にグループ客で。気の利いたやつが空いた皿をどんどん片付けたために、箸を持っていたらいつの間にか皿がなくなっていた……。

 見ていると、こんなときには、(1)自分のコップの上に置く、(2)テーブルやカウンターの上に直接置く(ただし、口につける部分が直接触れないように割り箸の先端をはみ出させて置く)、(3)先端を上にしてワイシャツのポケットに挿す――などのパターンが見受けられる。ご参考に。

立ち飲み屋を接待に使った
サラリーマンもいた

 さて、飲んでいるうちに店が混み合ってくる。そんなときには譲り合いの精神が大事。立ち飲み人は“仲間”には親切だから、満員かなと思っても、「すみません、ここ入れますか?」と聞けば、快くスペースを空けてくれるはず。もちろん、あなたが先客でも後から来た客のために詰めてあげましょう。

 ただし、同席になった客となれなれしくしないのが基本ルール。もちろん、隣り合った客とたまたま話をして和気あいあいで飲むのはいいけれど、隣にかわいい女の子が立ったからといってスケベ心を出してはいけません。実際、僕の知り合いは、満員の店にいたら女の子の二人組が来たので無理やり隣にスペースを空けてあげて、それをいいことにナンパしようとして店の人に怒られましたとさ。

 そもそも、立ち飲みは一人でも仲間とでも安心して自分のペースで飲めるのがいいところ。先日、一人で飲みながら観察していたら、一人客と3人組が結構多いことに気づいた。3人で飲むとたとえばテーブル席だと一人が浮いてしまいがち、カウンターに並んで座ると真ん中の人の首が痛くなる。意外に会話が弾みにくいもの。その点、立ち飲みなら3人で向かい合って飲めるし、話も弾む。3人揃ったら立ち飲み屋へ。

 さらに、先日隣り合ったサラリーマンは、「接待に立ち飲み屋を使った」と言っていた。最初は静かな和食の店で食事をし、2軒目に立ち飲み屋にお連れしたのだとか。「相手は接待に慣れた人たちでしたが、立ち飲みは初めてで、すごく喜んでくれて、盛り上がりましたよ」

 立ち飲みは幅広い使い方ができるのだ。ただ、個人的に立ち飲み名人として憧れるのは一人で上手に飲んでいる人。

 背筋を伸ばし、凛とした姿勢で立って飲んでいた中年サラリーマン、ビールと黒ビールを同時に注文し、手元のコップでハーフ&ハーフにブレンドして飲んでいた初老の紳士、いつも決まって冷や奴とハムカツをつまみに、ビールと水割り焼酎2杯をスッと飲んで帰る老人……。

 そういえば、こうした憧れの名人たちは皆姿勢がいい。カウンターに寄りかかったり、壁にもたれていたりしない。手もカウンターについたりしていない人が多い。時々いるからね、カウンターに両手をついて飲んでいるような人が。

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 立ち飲みは酔いの程度がすぐわかる。最初は自立していても、酔いが回るにつれて、(1)カウンターや壁に寄りかかる、(2)カウンターやテーブルに手をつく、(3)両手をつく、(4)肘をつく、(5)頭が下がってくる――といった段階。渋谷の立ち飲み屋で、グラスを持って立ったまま寝ている人を見かけたことがあるが、そんな器用な技は身につける必要はない。

 カウンターに手をつくぐらいならいいけれど、肘をつくようになったら黄色信号。そろそろお帰りになったほうがいいのでは? もちろん、その前にさっと帰るのが粋な立ち飲み人。

 きちんと立っていられるからといって、長居するのはできれば避けたほうがいい。「立ち飲み屋に8時間いた」というツワモノもいたけれど、なかには「1時間まで」と明記してある店もある。狭いスペースを有効活用しているからこそ、安い値段で飲めることをお忘れなく。脚力を鍛えるのもいいけれど、やはり譲り合いの精神で。最近の店は酒もつまみも充実しているから、ついつい長居してしまうけどね。

 また、一人だからといって、新聞や本を読みながら飲むのも好ましくない。一人で飲むときは、酒とつまみに集中するか、それとも店にテレビがあれば、プロ野球でも見ながら飲みましょう。

酔い加減がわかりやすいが
急に回ることもあるのでご注意

 観察していると、立ち方もいろいろだ。両足をしっかり踏ん張ってほとんど動かない「直立不動型」、両足で立っているが定期的に体重を左右の足に移動している「振り子型」、片足に重心をかけ、もう片方の足を曲げている「軸足型」、カウンターの下にあるバーなどに片足をのせている「バー型」などなど。

 個人的な体験からいえば、「軸足型」や「バー型」で時々軸足を替えるのが、最も疲れにくい(疲れたら帰ればいいのだが)。これならエコノミー症候群にもならないだろう。

 立ち飲みは酔い加減が実感できる(立っているのがあやしくなる)ので、飲みすぎずにすむというメリットがある。しかし、気持ちよく飲めるためか、時には気づかずに短時間でたくさん飲んでしまうこともあるのでご注意を。

 あまり時間がなかったのでサクサクッと飲んで店を出たら、少し歩いたところで急に酔いが回ってしまった、というのは僕の実体験。

 自分も周りの客もみんな気分よく飲めるように、清く正しく、礼儀よく飲みましょうね。

 
 
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