特集/「和食」虎の巻
先付や向付、八寸とは?
その順番は?
懐石入門の基礎知識
献立の流れがわかればコワくない
料理の順序や言葉の意味を知ることで、もっと和食を楽しめるようになります。
訪れた日本料理店で白木のカウンターに座り、お茶やお酒が運ばれた後、最初に出てくるのが“先付”である。和食を食べる際に耳にする“先付”や“炊き合わせ”という言葉に戸惑ったことはないだろうか。大まかな和食のコースの流れは、先付に始まり、お凌ぎ、お椀、向付、八寸、焼き物、炊き合わせ、ご飯、果物(水物)で終わる構成になっている。それぞれの言葉の意味を知ることで、和食の世界をより楽しめるようになる上、「あと、どれぐらい料理が出てくるのだろう」と不安になることもなくなる。ここでは、東京・銀座にある「銀座 とよだ」のコースを例に、和食の流れや基本的な知識をおさえてみよう。

カウンターでもテーブルでも、席に着くとすでに折敷(おしき)が置かれ、気分は盛り上がる。店によってはここで、「なにかお嫌いなものはございませんか」と聞かれることも。 








まずお通しや突き出し、フレンチのアミューズに相当するのが、さきほどの1品目・先付である。内容に決まりはなく店それぞれ。季節の香りあふれる素材を盛りつけることもあれば、このわたや酒盗のような珍味を出す店もある。
「最初に召し上がっていただくものですから、うちではその季節に一番おいしい旬のものをお出しするようにしています」
と言うのは、料理長の岡本圭一さん。まさに今が旬という勢いのある素材で、客の心をぐっと惹きつける。
2品目の“お凌ぎ”は、客の空腹を凌ぐもの。一口サイズの寿司や飯蒸しなどが出る。よく寿司屋でも、ちょいと握ってもらってから、刺身で一杯という人がいるが、お酒を飲む人にはこれが結構うれしかったりする。店によっては後で説明する“八寸”に出されるような山海の珍味と合わせて盛りつけ、前菜として最初に供するところもあるようだ。
ほっと一息ついたところで登場するのが3品目の“お椀”。先付やお凌ぎをいただいた後の箸洗いにもなる。だしのひき方や味加減、盛りつけのセンスまで問われるのが椀物だと料理人は口を揃える。
「食べ慣れている方は香りを楽しむために、蓋の裏をそっと嗅がれます」
と岡本さん。上級者を気取るなら、あくまでさり気なく上品に。
と、ここまでがコースの前半。フレンチやイタリアンでいえばアミューズを食べ終わり、冷前菜と温前菜を平らげたところ。飲み物もシャンパンが終わって、メイン料理に移る前にワインでも選ぼうかという頃である。和食ならビールを飲み終わって日本酒を、といったところだろう。中盤・主菜の部にさしかかり登場するのが4品目の“向付”である。
向付とはお造りのこと。もともと、茶懐石の中で、ご飯とお椀の奥(向こう)にお造りが置かれたことから、このような呼び方が生まれた。ところで、なぜ刺身のことをお造りというのかといえば、刺身はただ魚を切っただけ。お造りとは、昆布〆にした鯛や隠し包丁が入ったイカのように、そこにひと手間かけるという意味合いがあるとか。
5品目の“八寸”は「これで酒でも召し上がっていてください」という心を込めて、山海の味覚を盛り合わせることが多い。ここで料理人にもちょっとした余裕ができ、メインディッシュに相当する次なる6品目の“焼き物”や、7品目の“炊き合わせ”の準備にかかることができるのだ。先に述べたように、店によっては最初に供される皿盛りにされた酒肴“口取”の中に、八寸で出されるような珍味などを盛りつけることもある。
また、食べ進むうちに舌が疲れてくるため、店によっては焼き物と炊き合わせの間に“進肴”が出ることも。和え物や酢の物などが多く、箸休めとしての役割ももつ。フレンチのフルコースにおける魚料理と肉料理の間の、お口直しのシャーベットを思い出してもらえば、わかりやすいかもしれない。
さてメインディッシュも終わり、お腹もだいぶ一杯になったと思う頃、店の人がこう声をかけてくるはずだ。
「そろそろご飯(食事)にしましょうか」
コースの後半、締めくくりは8品目の“ご飯(食事)”。どの店もそれぞれ季節の炊き込みご飯や小丼、麺類などを用意していて、見た目にもおいしく楽しい。最後は9品目のデザート“果物(水物)”。デザートといってもフレンチやイタリアンとは異なり、果物やアイスクリームなど、口中を爽やかにしてくれるシンプルなものが主流。最近はオリジナルの和のデザートを用意しているところもある。
店によって料理の出てくる順番など微妙な違いはあるが、「向付(お造り)が出てきたら、そろそろ中盤かな」とか、「ご飯の用意をしているから、締めも近い」というように考えれば、おおまかに流れをつかむ参考となるだろう。
素材の旬と味の流れを覚えれば、
和食の世界がさらに広がる
こうしたコースの組み立て方は、食材の旬や味の流れによると岡本さんは言う。せっかく言葉の意味を把握できたなら、そこからさらに一歩進んで、和食は素材の“走り”“旬”“名残”から成り立っているということも、ぜひ覚えてほしい。つまりコースの流れは、それらを上手にとり入れて季節を楽しむことから考えられているのだ。
「春ですと目に鮮やかなもの、山菜や鮎のように香り高いもの。夏は鮑や鱧などのあっさりとした爽やかなもの。秋から冬にかけては、だんだんと食材も豊富になり味のあるものが出てきます。この頃が一番あれも使いたい、これも使いたいと思う時季ですね」
さらに、味の流れによってもコースの献立は変化する。醤油味や味噌味の料理が続けば、客が食べ飽きてしまうからだ。そのため、味つけは“五味五感”を巧く取り合わせることが肝心。五味とは甘、酸、鹹、苦、辛のこと。五感は見た目の美しさ、香り、歯ざわり、感触、熱い冷たいといった感覚をいう。
「たとえば炊き合わせのほうに飛龍頭ですとか、あっさりしたものをもってくるときには、焼き物の代わりに揚げ物や肉などをお出しすることもあります。それと野菜や魚のバランスも考えますね。春にはどうしても山菜や筍など香りのいい野菜に偏ってしまいがちですから」
和食とは、海、山、里の幸をバランスよくとり入れ、十分に計算されて組み立てられているのだ。
細かい違いはあれど、なに、これだけ覚えておけば大丈夫。今度は出された先付に「もうこんな季節になりましたか」なんて会話ができればしめたものである。
「懐石」と「会席」。今の和食との関係は?
向付の由来が茶懐石にあると本文で触れたように、現代の和食は懐石料理と会席料理の流れを汲んでいる。同じ“かいせき”と読むこの二つの料理は、どのように違うのだろうか。
懐石料理とは茶懐石から発達したもので、一汁三菜が基本。安土桃山時代に茶の湯とともに発達した。もともとはお茶事の前にお腹を満たすために出される軽い食事のことで、禅の修行僧が空腹と寒さを凌ぐために懐に温石を入れたという故事から懐石と呼ばれるようになった。本来、茶懐石は濃茶(こいちゃ)をおいしくいただくため、胃を温める役割をもつ。
これに対して会席料理は、食事とお酒を楽しむ接待のための饗応料理がその始まりとされる。“衣の元禄、食の文化・文政”といわれるように江戸時代中期、主に料理茶屋に登場し、やがて高級料亭の主流となっていった。基本は、一品ずつ出来たての料理を配膳する、喰切(くいきり)料理の形式をとる。
現在の和食は、店によって茶懐石の流れを汲むもの、会席料理の影響を受けているものなどさまざまあるが、二つの料理の形式がそれぞれ時代の変化に柔軟に対応し、互いに影響を与え合っている。
- 銀座 とよだ
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- 東京都中央区銀座7-5-4 ラヴィアーレ銀座ビル2階
TEL.03-5568-5822
[営]11:30〜14:00、土日は12:00〜15:00、17:30〜20:30(L.O.)
[休]不定休 [カード]ほぼすべて可
●昼の懐石は5250円。夜は1万500円〜。写真のコースは1万5750円。岡本料理長の確かな技が光る充実の関西料理が味わえる。サービス料は昼はなし、夜は10%。
●地下鉄銀座駅より徒歩5分。
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