小山薫堂さんが"入魂"で選んだ2004年
最も印象に残った店ベスト5が今明らかに!

 
 
人生の食卓を無駄にしたくないと願う男の食の軌跡
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その男は、日々おいしいもの、感動する料理を求めて国内外をさまよい歩いている。
今回は2004年で最も印象に残った店を本人が語る、一年の総決算"スペシャル"をお届けする。
 
 
小山薫堂 = 題字古市和義 = 撮影編集部 = 構成
 
 

――小山さんは、日々、国内外の幅広いジャンルの店を食べ歩いて「一食入魂」で紹介してくださっていますが、ズバリ、2004年で最も印象に残った店はどこですか? たとえば"印象に残った店ベスト5"を挙げるとしたら……。

 うーん、難しいですね。「一食入魂」で書いた店はどれも印象深いし、感動を与えてくれた店なので。それでも、あえて5軒挙げるとすれば、2004年4月号で書いた六本木の寿司屋、6月号で紹介した中国料理の新宿「礼華」、12月号で紹介したステーキ屋の銀座「かわむら」かな。それから、東京以外では、9月号で触れた軽井沢の「無彩庵」、それから7月号で紹介した葉山の沖縄そばの「夏至南風」、といったところですね。

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「兼定」は六本木の小さな路地の目立たぬ佇まい。主人、中村三男さんは活魚などを仕入れ、絶妙の握りや押し寿司に仕上げる。この日はねっとりした旨味の肝がのった館山のカワハギ、大間のマグロ、横須賀の平目、松輪のサバ、天草のコハダ、三陸のアワビなどを握りで。

――六本木の寿司屋とは、"世界一旨い寿司屋"と言われて知人に連れていってもらったという店ですね!? 4月号では、取材拒否で店名は内緒、ということでした。

 教えちゃダメ、と言われていたんですよ。でも……今回はスペシャルということで、ご主人に特別にお許しをいただきました。六本木の「兼定」という寿司屋です。

 旧防衛庁跡近くの小さな路地にある、小さな店で、前を通ってもそんな凄い寿司屋だなんて全然わからない。オーラを発していないんですよ。

 でも、凄い。活きたまま仕入れる鮮度抜群の魚の握りはもちろん、鯵の押し寿司やその日の魚の皮を炙った握りなんて絶品。

 ただ、「兼定」の本当の凄さは、握りよりも独特の雰囲気かな。「丼のような旨さの寿司だ」と評した人がいたけど、まさにそんな感じ。いい意味で洗練されていないんです。オヤジは頑固そうで職人肌、でも腰が低くて笑うと優しい。一見、仕事は雑にも見えるし江戸前寿司のキリッとした感じもない。スキだらけですよ。

 でも、そのスキやゆるい感じがかえって食欲をそそるんだなあ。たとえば築地で海鮮丼とか食べると雑につくっているようだけどすごくおいしいでしょう? あんな感じ。まるで宴会しているような緊張感のない雰囲気の中で、いきなり一流の凄い寿司が出てくるような、そのギャップに驚いてしまう。極端にいえば、握り手と客が一対一の勝負をするような緊張感がある「すきやばし次郎」と対極の存在かもしれませんね。

 もっとも、寿司屋は合う合わないが大きいですからね。こうしたオヤジと客との間、息が合うかどうかは人によるから、好みは分かれるかもしれませんが。僕は感動しましたね。

――ワインも飲めるとか。

 そうそう、ワインを持ち込めるのも気に入った理由の一つなんですよ。しかも持ち込み料タダ。でもね、ワインを持ち込むとオヤジに一杯飲ませなければならないルールなんです。高いワインを持ち込むと、抜栓料を払ったほうが安かった、なんていうこともありますよ。

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「礼華」はシェフの新山重治さん、恵さんの夫婦を中心に家庭的な雰囲気。小山さんが必ず食べるというフカヒレの姿煮込み上海風(四川風もあり)3800円(上)は濃厚な旨味がたまらない。下の江南の黒酢のスブタ1500円も小山さんのお気に入り。豚肉だけのシンプルな構成だが、黒酢の香りをうまく生かした味の深さに唸ってしまう。

――「礼華」もお気に入りのお店になっているようですね。

「トゥーランドット」や「筑紫樓」で料理長を務めた新山シェフの料理は、上海料理を中心とした"いいとこ取り"の料理。どれもおいしくて安い。

 しかも、6月号でも書きましたけど、結局は店と客の"相性"がとても大切であることを、あらためて思い知らされた店です。夫婦二人を中心に切り盛りする小さな店ですが、その狭さがいい。おいしそうな匂いが漂い、出来たての料理がアツアツのうちに運ばれてくる、キッチンと客席の距離感が僕にはとてもいいんです。

 サービスも普通なんだけど、温かい雰囲気にあふれていて、実に居心地がいい。僕にとっては抜群の相性。プリフィクスでいろいろ選べるメニューもありがたい。"フカヒレの姿煮込み"はいつも必ず注文しますが……。これだけ相性バッチリの店を見つけるのは難しいかもしれない。

――6月号では最後に、「『予約の取れない店』になるのは時間の問題だろう」と書いていましたね。

 残念ながら、予想は当たってしまって、行こうと思って電話をすると一杯で入れないことが多いんですよ。うれしいような、悲しいような……。

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「京都ゆたか」出身、「かわむら」の河村太郎シェフが、「まずこれを食べてほしい」というヒレ肉は、肉の旨味が凝縮されているが、ふんわり軽い口当たり。何もつけずに食べても旨い。小山さん曰く「澄んだ水のごとき味」。旨味を上手に閉じ込めているため、カットしても一切肉汁が出てこない。

――12月号で「今年見つけた、一番好きな店かもしれない」と紹介していた「かわむら」は?

 カウンター8席の小さな店で、牛肉の産地や銘柄に一切こだわらず、その時々で最もいい状態の肉を仕入れている。知人は「日本一の牛肉プロデューサー」と呼んでいますよ。

 河村シェフがギリギリまで熟成させて、丁寧に丁寧に炭火で焼き上げたステーキは未知の旨さ。澄んだ水を飲むような瑞々しい感覚のステーキなんて初めてでしたよ。肉の質もさることながら、肉への思いを語りながら愛しそうにステーキを焼くシェフのピュアな人柄が出ている感じですね。

 常連さんがほとんどなので、コース内容はおまかせで、魚介の前菜やサラダなどの後にステーキが出てくるんですが、僕はサラダが好きなんです。一見ごくフツーのサラダなんですが、素材の野菜ごとに下処理やゆで方を変えるなど、とにかく仕事が丁寧できめ細かい。

 あ、それからここのハンバーグは感動ものの旨さ! 目の前で肉を叩いて、玉ねぎや食パンを刻んでつくってくれんです。焼きたてを塩だけで食べる幸福感といったら……。これをパンで挟んだハンバーグサンドがまた絶品! 実は僕、ハンバーグサンド好きなんですが、"人生のベスト・オブ・ハンバーグサンド"です。

 さらにここも、ワインの持ち込みがタダ。持ち込んだワインであっても、ボトルが変わるとグラスを変えてくれるなど、サービスもきめ細かい。ワインなどの飲み物で高い金を取るステーキ屋って結構多いじゃないですか。本当は当たり前のことだけど、あくまでもステーキでお金を取ろうという、実に良心的な店です。

 とにかく、この店は客を幸せにして帰そうという気持ちにあふれているんです。先日、あるフレンチでフルコースを食べた後、さらに、「かわむら」に行ってまたコースを食べてしまった。お腹も一杯でしたが、幸福感も一杯になりましたよ。

――2004年も東京以外の店が数多く登場しましたね。

 特に印象に残ったのは7月にオープンした軽井沢の「無彩庵」ですね。「エルミタージュ・ドゥ・タムラ」の田村良雄シェフがカジュアルラインで出した店です。ロブションが出した六本木ヒルズの「ラトリエ・ド・ロブション」のような感じかな。エルミタージュ・ドゥ・タムラのレベルを保ちつつ、値段もリーズナブルにしているので、あんなに使いやすい店はないですよ。予約を取らないので、ふらりと訪れて行けるのもいいですしね。ああいう店がもっと増えるといいなぁ。

 場所が遠いので、そのためにわざわざ行くのは難しいでしょうが、たとえば軽井沢に遊びに行って、エルミタージュ・ドゥ・タムラに入れなかったときに行ってみるとか。特に若い人に行ってほしいですね。フレンチを食べ慣れていない人がまず、「無彩庵」に行って、それから「エルミタージュ・ドゥ・タムラ」デビューを果たす、なんていいんじゃないですか。軽井沢デートの新しい定番コースになってほしいなあ。

 それからね、ここのカツサンドが旨いんですよ。シンプルなのにジワッと旨い。食事して、おみやげにカツサンドをつくってもらい、帰りの新幹線でビールとともに食べる、なんていいですねえ。

――葉山の「夏至南風」の沖縄そばもお気に入りのようですね。

 ここは、カレーが旨い「木もれ陽亭」の店主、川辺智さんが出した店ですが、彼はもともと沖縄大好き人間なんです。麺は沖縄から空輸しているし、鰹節と昆布と煮干しで取っただしに豚骨を加えたスープが、すっきりしていて実に美味。沖縄まで行かなくても旨い沖縄そばが食べられるんですよ。

 間違いなく、僕が近年食べた沖縄そばの中でナンバー・ワンです。やはり沖縄が大好きで、沖縄でそばを食べまくった某有名パティシエが、「一食入魂」の記事を見てこの店を知り、早速食べに行ったそうです。「沖縄より旨い!」と叫んでましたよ。

――小山さんはいつも"いい店"を見つけていますが、その秘訣は何ですか? "2005年のいい店探し"のヒントがあったら教えてください。

 狭い店、わがままに上手に対応してくれる店、飲み物で儲けようとしない店。2004年の経験からあらためて実感した条件ですね。

 最近、若い人が独立して小さな店を開くケースが多いですよね。お金がないから大きな店が持てない、ということはあるのでしょうが、20席程度まででキッチン、料理人との距離が近い店は好感度大だし、旨い料理に当たる確率も高いですよ。

 カウンターのオープンキッチンの店も増えています。客はつくっている様子を見られるライブ感を楽しめるし、料理人も観客の食べる姿を見ながらつくる快感を知ってしまったら、やめられないでしょう。双方にとってカウンターが晴れの舞台になっている店は楽しいですよ。

 銀座の「トトキ」のように、ベテランの一流料理人がカウンターの店を出したりするのも、こうした快感を知ってしまったからでしょう。

 わがままに応えてくれる店は、"相性"と同じことかな。直感的な相性は店に入った瞬間にわかりますよね。なんとなく良さそうとか、なんかダメとか。もっと具体的に知るには、ちょっとわがままを言ってみることです。メニューを見て、あれとこれがあるなら、それらの材料を使って別のあの料理ができるはず、とか。あるいは、この料理からこの材料を抜いてつくってもらえますか、とか。

 実際にそれができるかどうかよりも、こうした注文に対する対応で、相性もわかりますよ。

 飲み物で儲けようとする店は論外。料理がおいしかったとしても、お酒がすごく高かったりしたら、興ざめですよね。支払いのときにガクッと印象が悪くなる。

――小山さんが個人的に2005年に流行ると思っているものは何ですか?

 素人料理が流行るんじゃないかなあ。今、素人でもプロ並み、いやそれ以上の凄い料理をつくる人が増えていますよね。僕の周りでも、素晴らしいカレーをつくる主婦がいます。彼女が店を出したら絶対流行ると思う。

 仲間たちで、ある有名一流レストランを味の単位にして味を評価する遊びが流行っていたんだけど、そのカレーは"7レストラン"でしたからね。一流フレンチより7倍もおいしいカレーなんて食べてみたいと思いませんか? こういう人はまだまだいると思うので、いずれ絶品素人料理の店が出てくるかもしれませんよ。

 それからね、実は"油揚げ"が流行らないかなあ、と思っているんですよ。ヘルシー志向はあるけど、それでもやっぱり濃い味のものも食べたい、という人は多いはずです。僕自身がそうだからよくわかる。味のしみた油揚げや厚揚げなんて、そんな人にピッタリ。というより、僕が単に"油揚げ"好きだからですけど……。

兼定
(かねさだ)
東京都港区六本木4-4-6
(※電話番号はお店の都合により掲載できません)
営/18:00頃〜 休/日曜 祝日 カード/ほぼすべて可
※カウンター10席。予算はおまかせで2万円程度(飲み物別)。要予約。地下鉄大江戸線六本木駅より徒歩2分。
礼華
(らいか)
東京都新宿区新宿1-3-12 壱丁目参番館1階
TEL03-5367-8355
営/11:30〜14:00(L.O.)、17:30〜21:30(L.O.) 休/月曜(祝日の場合は火曜)カード/ほぼすべて可
※2004年3月オープン。個室4席を含め店内24席、テラス席6席。上海を中心とした多彩な料理が揃う。コースは昼3500円〜、夜5000円〜のほか、アラカルトも充実。地下鉄新宿御苑前駅より徒歩1分。
かわむら 東京都中央区銀座7-3-16 東五ビル1階
TEL03-3289-8222
営/18:00〜22:00(L.O.) 休/日曜 祝日 カード/ほぼすべて可
※2004年4月オープン。カウンター8席。前菜、ステーキなどのおまかせコースで2万円〜(予算に応じて料理の内容が決まる)。要予約。地下鉄銀座駅、JR・地下鉄新橋駅より各徒歩5分。
無彩庵
(むさいあん)
長野県北佐久郡軽井沢町長倉1891-50
TEL0267-44-3930
営/11:00〜14:00(L.O.) 休/月曜 火曜 冬季休業あり(1月15日〜3月15日) カード/不可
※2004年8月オープン。「エルミタージュ・ドゥ・タムラ」の2号店。「エルミタージュ・ドゥ・タムラ」の定番メニューなどもある。コース昼3150円、夜5250円。アラカルトもある。JR軽井沢駅より車で7分。
夏至南風
(カーチバイ)
神奈川県三浦郡葉山町堀内562 D棟
TEL046-875-5477
営/11:30〜19:00(L.O.) カフェタイムは10:00〜20:00 休/第3水曜 木曜 カード/不可
※2004年5月オープン。ソーキソバやタコライスなどもある。JR逗子駅より車で10分。
 
 
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