OLが喜び、おじさんが唸る。居酒屋の隠れた名脇役

酒に合わせる技と工夫がいっぱい。
老舗の「居酒屋サラダ」進化中!

 
 
酒飲みながら葉っぱなんて食えるか! というあなた、
老舗居酒屋の秀逸サラダをお試しあれ。
居酒屋ならではの涙もののサラダはホント酒に合うんですから。
 
 
タベアルキスト
マッキー牧元 = 文浜村多恵 = 撮影
 
 
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タベアルキストにしてノミスギストのマッキー牧元さん。ポテトサラダ研究家を自称し、居酒屋でも必ず注文し、「ポテサラ以外のサラダは酒に合わない」と、最初は言っていたが……。

 わたしは、居酒屋でサラダを頼まない。うさぎや牛じゃあるまいし、葉っぱをむしゃむしゃ食いながら酒なんか飲めるかい。サラダなんか食べていると、あいつ居酒屋にまで来て健康に気を使いやがって、と見られちまうじゃないか。

 それにあのレタスってやつは、酒を相手にするには、腰が弱くっていけねぇ。そうよ、酒の相手には、塩気が効いて、こっくりと濃い味の、たんぱく質でなきゃいやだもんね。と思うのだ。

 サラダ自体に恨みがあるわけではない。あえていっときますが、好物である。的確な塩と酸が効いたヴィネグレットソースであえたサラダを食べる時には、この上なき幸せを感じるたちである。

 だが居酒屋では頼まない。日本酒や芋焼酎とサラダ? ビールやワインにサラダ? 老酒や白乾児(パイカル)にサラダ? と、頭に居座った疑問符が頑固で、てこでも動こうとしないのだ。

ポテトサラダは酒に合うが、
野菜サラダはいかがなものか

 ただし同じサラダでも、ポテトサラダは例外である。あのぽってりとした甘みにキュウリとニンジンのアクセントは、酒にぴたりと合う。

 中にはハムやトマトなどを忍ばせているやつもいて、宝探しの趣も与えてくれる。好みで醤油やソースをちょいとたらしたり、溶きがらしをつけたりと、味の変化も楽しめる。酒によし焼酎によし、白ワインによしビールによし、サワー類にもよし。全方位外交に長けた、優秀な肴である。

 実はなにを隠そう(隠す必要もないのだが)、わたしはポテトサラダ研究家なのだ。であるから、いままで居酒屋のメニューにポテトサラダを見つけて、頼まなかったことは一度もない(単に好きなだけなんですがネ)。

 その研究の成果はいつか発表するとして、現在の東京居酒屋を代表するポテトサラダベスト3は、以下の通りだ。

 ジャガイモの滋味が生きた、上品な味わいが気分を和ませる、青山の「ぼこい」。滑らかな舌触りのマッシュポテトが、チョモランマの如きに高く盛られて、小躍りしたくなる、浅草の「喜美松」。魚肉ソーセージ入り庶民感覚が涙を誘う、人形町「笹新」である。

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シンスケ風トマトサラダ

 殊に笹新のそれは、ポテトとなじむ魚肉ソーセージ、厚めの輪切りキュウリや小さく角切りしたニンジンなど、考え抜かれた食感が心にくく、また強めにふられた胡椒が酒を呼ぶ、居酒屋ならではの逸品である。

 常連の多くは、席に座るとまず、「ポテトサラダね」と頼んでから、じっくり注文を考えるというのも納得である。

 そんなポテトサラダは、酒飲みおじさんたちの精神安定剤のような役割も果たしていて、居酒屋各所で頻繁に見ることができる。だがその一方、他にサラダと名のつく料理で思い浮かぶのは、蟹サラダくらいではなかろうか。

 ところが編集部によれば、いま老舗系の居酒屋で、サラダが進化しているという。もちろん老舗の居酒屋にも幾度となく足を運んでいるが、そこでサラダを頼んだことはなく、酒に合わないという偏見を持つわたしだが、居酒屋サラダ巡りにつきあわされることになった。

 たしかに、タベアルキストであると同時にノミスギストであるから、居酒屋料理はお手のもんだが、サラダとなると門外漢である。お門違いではないかと思いつつも、ノミスギストの沽券にかけて、老舗居酒屋に出かけてみることにした。

日本酒に、ビールに、相性よし。
酒に合う仕掛けの巧妙さに唸る

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旬の肴と日本酒をじっくり楽しめる名居酒屋
創業大正14年の風格と清潔感のある店内。1階はカウンターとテーブル、2階はテーブル席で、1階では飲み物はビールと日本酒のみ。旬の素材を使った旨い酒肴が魅力。
●東京都文京区湯島3-31-5 3315ビル
TEL03-3832-0469
[営]17:00〜21:30(L.O.)、土曜は〜21:00(L.O.)
[休]日曜 祝日 [カード]不可

 まずは湯島の「シンスケ」だ。メニューを眺めていると、“鯛と久里浜タコのマリネ風サラダ”と“シンスケ風トマトサラダ”を発見。

 早速二つのサラダを頼んで出来上がりを待つ間に周囲を観察すると、ふむふむ、サラダを頼んでいる客が数組いるではないか。手元には、ビール、冷酒、燗酒とさまざまだ。

 最初に運ばれてきた“鯛と久里浜タコのマリネ風サラダ”を、ぬる燗でやってみる。タコの甘みやマリネされた鯛のうまみが酒に寄り添う。さすがにレタスはそれだけでは合わないものの、鯛やタコを包むようにして食べれば、なかなか乙な組み合わせだ。お次は“トマトサラダ”。こいつには黒ビールを合わせてみる。にやり。和風のドレッシングのコクと、上に散らされたあげタマネギの香ばしさが、黒ビールの香りやコクと調和して、思わず笑みがこぼれる。

 お見それしました、さすが名酒亭。酒に合う仕掛けが巧妙ではありませんか。シンスケで実力を見直し、俄然前のめりになった探求隊が次に向かった先は、これまた老舗、三代続く「山利喜」である。

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煮込みが評判の人気店。多彩な野菜料理も注目
多彩な品書きが下がる店内のカウンター。ビール、日本酒、ワインと客が飲む酒も多種多彩。好みが違う人と行ってもOK。
●東京都江東区森下2-18-8 TEL03-3633-1638
[営]17:00〜22:20(L.O.) [休]日曜 祝日 [カード]不可

 この店の“イタリア産 生ハムクレソンサラダ”は人気のようで、店内でもかなりの占有率であった。やきとんや名物煮込みやらの傍らに、違和感なくクレソンや生ハムがある。こんな光景は日本だけだろうと思うと、愉快になる。

 このサラダ、生ハムの熟成した塩気とクレソンの苦味がポイントで、日本酒よりも吉兆宝山などの焼酎を合わせてみるとおもしろい。豊満な焼酎の風味が塩気や苦味を受け止める。あるいは、チリの赤ワインもいいだろう。

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イタリア産 生ハムクレソンサラダ

 こうしてみると、偏見をあざ笑うように、居酒屋サラダは自由である。深く反省しながら、次は大衆居酒屋の雄、銀座の「三州屋本店」に向かった。

 おいしい賑わいでひしめくこの店のサラダは、ずばり“生野菜”。直球命名のサラダは、姿も直球である。自家製マヨネーズドレッシングで和えたレタスの上には、キュウリ、谷中ショウガにウド。脇にはもろみと味噌。

 さすが大衆居酒屋。酒を飲めよと訴える、実質サラダである。そうだよなぁと、キュウリだけでなく、レタスも味噌をつけて食べれば、立派な燗酒の友だ。

主役の肴の陰に隠れながらも
老舗の努力で進化していたのだ

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生野菜

 三軒を巡っただけで、居酒屋サラダの底力を見直した。居酒屋でサラダを頼むもんではないという、いままでの信念は揺るぎ始めたのである。

 同時に、どうやら似たような経験をしたことがあるぞと、記憶がよみがえってきた。試しに食日記を洗い出してみると、あれまあ意外にも食べているじゃありませんか。各所でサラダを頼んだ記録が、残されているじゃありませんか。

 思い込みと偏見が、都合よく記憶から抹消していたようなのである。

 例えば、神楽坂の「泥味亭」では、醤油とマスタード風味のドレッシッングの味わいに、これは西洋風解釈の新たな"ぬた"だと、“牛舌といんげんのサラダ”に興奮気味に書いている。

 神田の「新八」では、“合鴨とほうれん草のサラダ”を頼み、合鴨の滋味とホウレン草のみずみずしさが、ふくよかで透明感のある吟醸酒のよい伴侶になったと、一人悦にいって感想を述べている。

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定食から酒肴まで豊富なメニューに老若男女が集う
カウンターとテーブル席の店内は、昼は食事、夜は飲む人で賑わう。サラリーマンが多いが、客層は老若男女幅広く、若いカップルが仲良く酒を飲んでいることも。
●東京都中央区銀座2-3-4 TEL03-3564-2758
[営]11:30〜22:00(L.O.) [休]日曜 [カード]不可

 ううむ。どの店も酒に合うような巧みなアイデアが凝らされている。生野菜に魚介類や肉類を合わせ、ドレッシングに醤油や鰹ダシ、胡麻油を混ぜ、酒に寄り添うサラダに仕立てているのである。

 サラダの語源は、古プロヴァンス語の塩をするという意のSALADAとされている。生野菜に塩をするだけだった料理が、現在では各国の料理に取り込まれ、何百というスタイルを持ち、その許容量は無限であるといってよい。

 そんな懐の深さが、居酒屋でも発揮されているのだ。しかも最近流行のダイニング系や創作和食系の居酒屋ではなく、個性豊かな老舗居酒屋でこそ、サラダは密かに進化していたのである。

 進化を見逃していたのは、偏見と怠慢が原因だが、目立たないのも事実で、新米ゆえに、主役の肴になりきれない居酒屋サラダの宿命なのかもしれない。

 そんな立場をわかりつつも、老舗居酒屋の店主の努力と工夫によって、上等な肴へと変身していく。ぬたや刺身、煮込みや酢の物といった主役たちの陰に隠れながら、我々を健やかに導いていく。

 わたしは、そんな健気な居酒屋サラダを、もっと愛してやろうと思う。ポテトサラダだけではない。メニューにサラダの三文字を見つけたら、これからは必ず頼んでやろうと思う。

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※2004年10月号には、ほかにもいろいろなサラダやさらに詳細なデータが掲載されています。ぜひ、ご覧ください。

 
 

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