鍋の季節到来。とっておきの鍋をプロの道具街で探索
「かっぱ橋」で鉄鍋を買おう
寄せ鍋ですか? しゃぶしゃぶですか?
いつもの土鍋でもいいけれど、今年は鍋を新調して
みませんか。鉄鍋、土鍋、小鍋……。プロの道具街、
合羽橋には多種多彩な鍋が揃っています。
これであなたの鍋ライフも一変すること間違いなし。
さあ合羽橋へ!

- 「かっぱ橋道具街」は東京・上野と浅草の間、地下鉄田原町駅から徒歩3分のところにある。800mほどの商店街に食器や調理器具など食道具関係の店が約170軒建ち並ぶ、食道具専門街だ。プロはもちろん、一般客も購入できる。
僕は「合羽橋」が怖い。ちょっと油断していると、あてもなくぶらりと歩いただけで、帰りにはなぜか両手に重い袋をぶら下げている羽目になるからだ。
東京・浅草近くの「かっぱ橋道具街」は、言わずと知れた道具街、食器から厨房機器まで、何でも安く揃っており、食のプロが集う。かつては、「小売りは致しません」などと貼り紙をして、強面のオヤジが奥からにらんでいるような店も多かったが、ここ数年は、不景気で買い出しに来るプロが減ったせいか、一般客もウエルカム。おばさま方のグループや外国人観光客が目立つ。
むろん、僕のような料理好き、道具好きのおじさんにとっては、たまらなく面白い街だ。暇を見つけてはぶらついているし、店をのぞいていると、ご同輩とおぼしき男性とよくすれ違う。我々は店頭でじっくりと道具を吟味する。本能のままに行動すると、あっという間に大量の道具や食器を買ってしまうから、慎重に品定めをしているのだ。正直言えば、「また何か買ってきたの? どこに置くつもり!?」という家人の声が頭を駆け巡り、買いたい調理道具や鍋を前に逡巡しているだけなのだが。
そんなわけで、合羽橋に行くときには必死で自重したり、なるべく多くの荷物を持って行ってそれ以上荷物を増やせないような自衛策を講じるのが常なのだ。
しかし、この冬、僕は一大決心をした。合羽橋で鍋を買うことにしたのだ。そう、冬にはやっぱり鍋物。わが家ではちょっと寒くなると毎週末には必ず鍋、お客さんが来ても鍋。

- 「今、紙鍋が人気なんですよ」と、営業部長の田中義人さん(上)。質問にも、気軽に答えてくれる。写真はその紙鍋セット(右下)と、一つの鍋で二つの味が楽しめる源平鍋(左下)。
ところが、わが家の鍋は何年も前に近所の雑貨屋で買った安物の土鍋一つ。これで寄せ鍋でも湯豆腐でもしゃぶしゃぶでも何でもこなしてきた。それだけに愛着もあるのだが、やはり今後の長い鍋人生を考えると、きちんとした鍋があったほうがいいし、来客時にも恥ずかしくない鍋が欲しい。ああ、鍋、鍋。一度思ったら居ても立ってもいられず、合羽橋で鍋という大物を買うことに決めたのだ。誰が何と言おうとも。
さて、通い慣れた合羽橋でも「鍋」だけを目当てに歩いてみると随分景色が違う。漠然と、土鍋をイメージしていたのだが、建ち並ぶ店の軒先には、やたら鉄の鍋が並んでいる。つる付きの“いろり鍋”や、すき焼き鍋はもちろん、四角形の万能タイプ、小ぶりの一人鍋、しゃぶしゃぶ鍋、真ん中に仕切りが付いた鍋、おお、一人用の湯豆腐鍋まであるではないか。
店の人に聞いてみると、「鉄鍋は人気があるよ。数年前に鉄鍋を使うと体にいいって言われて、それで使い始めた人が『火の通りがいい』って言って使い続けたりしてね」。実際、鉄鍋は力強く、やわらかい加熱や保温が可能で鍋や煮物を一層おいしくしてくれるのだそうだ。
錆びないように内側がほうろうびきになっていたり、電磁調理器でも使えるように底が平らになったいろり鍋まであった。電磁調理器で使う“いろり鍋”というのも妙だが……。
間仕切りのついた“二色鍋”で
鍋の味わいが格段に広がる

- 鍋の使い方や性質などを丁寧に説明してくれた藤田雅博さん。個人客には小さめのいろり鍋やチゲ鍋が売れるとか。しゃぶしゃぶ鍋(左下)と、田舎鍋(右下手前)、いろり鍋(右下奥)。
特に最近人気なのが、間仕切りのついた二色鍋。中国の火鍋のように直線的な間仕切りで二分割されたものや、ゆるやかな曲線で仕切られた“源平鍋”、真ん中に“煙突”が付いたしゃぶしゃぶ鍋に間仕切りが付いたものもある。
こうした鍋は「一つの鍋で2種類の味が楽しめますよ」というのが売り文句。たとえば、それぞれに味噌味と醤油味のだしを入れておけば、同じ具でも二度おいしい。水炊きと寄せ鍋、しゃぶしゃぶと湯豆腐なんていう組み合わせだってできる。中国の火鍋のように水炊き風のスープに具を入れてから、激辛スープにつけて食べるという手も。「お父さんと同じ鍋をつつきたくない!」なんて言う子供がいる家庭は……鍋とは別の心配をしたほうがよさそうだが。
大体において、我々料理好き・道具好きは鉄や銅の道具に弱い。重いし手入れが大変だとはわかっていても憧れちゃうのだ。しかも、間仕切りが付いているなど、ちょっと変わった道具や新しい道具にものすごく弱い。つい欲しくなる。これで鍋やったら楽しいだろうな。
よし、これは買い!
そりゃあ、本当は渋く輝く銅の鍋も欲しいのだが、いかんせん高価である。当面は鉄鍋で我慢し、景気が回復したら銅鍋に挑戦することにする。もちろん、銅鍋でも合羽橋なら比較的安く買える。

- 主人の斎藤源次郎さんと、奥さんのかよ子さん。やさしい笑顔で対応してくれる。煮込鍋・丸鍋(右下)と、湯豆腐鍋(左下)。
さて、味の好みが各人でまったく異なるなら、あるいは一人暮らしで鍋を楽しみたいなら、一人用の小さな鉄鍋がいいかもしれない。かつては旅館や居酒屋などが業務用に揃えていたが、最近では個人客が家族の人数分だけ買っていくケースが多いとか。丸いものから四角いものまで姿形もさまざまで面白い。
これをかける焜炉も充実していて、固形燃料を使う台や小型のガスコンロ、炭を入れる小型の飛騨焜炉も勢揃い。これも欲しくなってしまう。
しかし、家族がみんな固形燃料で一人鍋を食べる姿を想像したら、まるで旅館ごっこだな。と思っていたら、究極の旅館ごっこ鍋発見!
紙鍋である。固形燃料の焜炉の上に金網のザルのようなものをのせ、そこに具やだしを入れた紙の器を入れて火をつける、アレである。紙の鍋を直接火にかけているのにあら不思議、なぜか燃えない。という経験をした方は多いだろう。旅館の夕食などでよく見かけるアレを店頭で売っているのである。しかも、一軒だけではなく、あちこちで。
「最近のヒット商品だね。なぜか一般の個人客によく売れるんだよ」と店の人も意外そうであった。
個食の時代もここまで進んだか!? しかし、単純に紙で鍋というのは面白い。子供が喜びそうだし、鍋の材料を少し残しておいて帰りの遅いお父さんに出したら泣いて喜ぶかもしれませんよ、奥さん。
ちなみに、紙が燃えないのは、中に汁が入っていて、紙の温度が100℃以上にならないためです。念のため。
さて、鉄鍋のバリエーションは実に面白い。面白いが、バリエーションを見ているとやはり“本物”にも惹かれる。南部鉄の鍋や砂鉄でつくった本格鉄鍋もちょっと見て行こうか。

- 専務の熊沢大介さんは、自ら鉄器を料理に愛用。「鉄の旨味がしみ出て深い味になります。」
右は南部寄せ鍋(18cm)と自然石焜炉。
やはり王道はすき焼き鍋だ。静かに黒光りする美しい姿を見ているだけで、ジュワッと肉を焼く光景が浮かび、口の中に割り下の味が広がる。
より本格を求めるなら、老舗のすき焼き屋にあるような取っ手のない、丸い縁取りの鍋に限る。本当は取っ手が付いているほうが扱いやすいのはわかっているのだが、使いやすさより格好の良さを重視するのが、道具好きの性。後悔を繰り返すのも常なのだが。
ところで、鉄鍋を長くもたせるためには、買った鍋をすぐ使ってはいけない。まず油をひいてくず野菜などを炒め、油を十分になじませる。凸凹になっている鉄鍋の表面を油の膜でコーティングするのだ。これで錆びることなく、使い込むほどに鉄鍋のいい味が出てくる。間違っても洗剤で洗ってせっかくできた油の膜を落としたりしないように。と、「釜浅商店」の人が言っていました。
やはり土鍋も捨てがたい
実は作家ものの鍋もあった!

- 「土鍋の底は水で洗っちゃあいけないよ」と、アドバイスをしてくれた店長の出居完さん。
右は萬古焼の角鍋。
鉄鍋は魅力的だ。しかし、やはり土鍋の温もりも捨てがたい。手に鉄鍋が入った袋を持ちながら、陶器の店をのぞいていると、またも不穏な衝動が。
正直言って、合羽橋の陶器店は、店で使うような一山いくらの安物の皿を売っているイメージが強かった。逆に、これは薬味皿、こっちは醤油皿と目的を決めて安い小皿や豆皿をまとめ買いするのも楽しみのひとつであったのだけれど。
ところが、土鍋を探してみると、業務用(?)の機械大量生産品ばかりでなく、窯元直送の質のいい土鍋や作家ものの鍋も売っていることに気がついた。
しかも安い。店や物によっては市価の2割から3割引き、場合によっては半値程度のものも。合羽橋では安物を気軽に買うのもいいが、高価な鍋を安く買うのがお得だったのだ。

- 賑やかにディスプレイされた店内には、鍋周りの小物が多数。鍋と同じ焼物の小鉢やれんげが揃っていることもある。
ちなみに、土鍋の中には細かい隙間が無数にあり、これが独特のやわらかい火の通りや保温性を実現している。ただ、そのまま使うと、水分や熱が隙間に入り込んでしまうので、手づくりのいい土鍋を買ったら、最初はおかゆなどを炊くこと。これによって鍋の表面に膜ができ、しっかり火が通って、長持ちする。鍋底は洗わないこと。せっかくススでできた膜が取れてしまうからだ。これも「いでい陶器」で聞いたコツ。
さて、鍋という大道具を手に入れたら、小道具も揃えなければ鍋の舞台は始まらない。などと格好をつけているのは、竹やれんげやお玉、湯豆腐すくいなど、ちょっといいものを見つけてしまったからだ。いい土鍋にはお洒落なお玉が似合うし、湯豆腐すくいは形もさまざまで、豆腐以外の具を取るのにも便利。

- 竹の湯豆腐すくい(右上)、ヘラ付き竹つみれ(左上)、土鍋を湯豆腐鍋に変身させる中子……。こんな小道具たちを揃えれば、鍋ライフが一層楽しく、便利に!
最近はつみれやつくねを鍋に入れる“竹つみれ”も人気だとか。鍋奉行の小道具としてはもってこいだろう。
ところで、合羽橋はとにかく何でも安いというイメージがあるが本当か。
もちろん店や商品によっても異なるが、通常は市価の2割から3割程度は安いものが多い。ただ、たとえばデパートや陶器店などではセールなどで安くなる時期があるのに対し、合羽橋は基本的に通年同一価格と考えたほうがいい。
デパートのセール時期などであれば割安感は小さいが、それ以外の時期では割安感は大きいのだ。というのが、日頃の実感および店の人に聞いた話。
結局、今日もまた、鉄鍋やら土鍋やられんげやらがたっぷり入ったずっしりと重い袋を両手にぶら下げて、帰路につくことに。しかし、心は浮き立つ。さあ今宵は鍋だ!(でも、どの鍋だ!?)

- dancyu2004年1月号には、さらにたくさんの写真や詳細な店のデータ等が掲載されています。ぜひ、ご覧ください。
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