特集/主役は、夏野菜
水茄子、毛馬きゅうり、泉州玉ねぎ……旨味もアクも人一倍
濃いでェ! なにわ野菜、ここに復活
味が濃くて旨いこと。人気の水茄子をはじめ、ゴーヤーのような
苦味をもつ毛馬きゅうり、生でも辛味がない泉州玉ねぎなど、
一度は姿を消しかけた個性の強い"なにわ野菜"が復活の兆しを見せている。

- 形も味も食感も個性の強いなにわ野菜。手前から時計回りに、泉州玉ねぎ(貝塚早生種)、全国区でも人気の水茄子、千両茄子、そして毛馬きゅうり。
茄子は、夏の野菜である。
加茂茄子、千両茄子など、それぞれ個性があるが、大阪人にとって一番なじみがあるのが、泉州の水茄子だ。この水茄子をはじめとして、大阪で伝統的につくられてきた、個性豊かな"なにわ野菜"が注目を浴びている。だが水茄子とて、どれだけ多くの人たちが、味わったことがあるのだろう。本当に旨いこの茄子の食べ方は、浅漬けが最もポピュラーだ。夜、糠床に漬け、翌朝取り出して食べると、水分が程よく抜け、微かな酸味と塩分を感じ、ぺろりと一個食べてしまうほどである。
この水茄子をはじめ天王寺かぶらや毛馬きゅうり、勝間なんきん、泉州玉ねぎなど、なにわ野菜の発掘と発展に尽力した、日本料理「天神坂 上野」の大将・上野修三さんは、「大阪の土地でとれた野菜をなにわ野菜と呼ぶんですけど、それだけやあらへん。大阪でしかできひんということが大事。同じ種を余所の土地で育てて、ええものができたらそれは別の野菜。同じやったらそこのなにわ野菜ちゅうことになりまっしゃろ」と彼流になにわ野菜を定義してくれた。上野さんが、なにわ野菜の天王寺かぶらと出会ったのは4年ほど前のことだ。それまでも店では大阪の野菜を積極的に使っていたが、昔の文献に登場する天王寺かぶらや毛馬きゅうりは名前を知っているだけで、実物に料理したことがなかった。

- 水茄子は金気を嫌うので、手で裂くのが基本。漬物にするとそのジューシーな味わいがやみつきに。
「新聞で天王寺かぶらが展示会に出るというのを読んだんです。ある文献には『さても大きな天王寺蕪』と書いてあったんで、どんな大きなかぶらかと期待してゆくと、それが小さくて扁平(笑)。皮は硬いけれど味は深い。漬物や煮物には向いてると思いましたんや」と上野さん。このように、気になるとすぐに行動に移す人物なのである。
それから上野さんの農家巡りが始まったのだ。実際現地に出向き、生産者の人たちと言葉を交わし、素材の特質を知る。実際、畑で出来たての野菜を齧ると、その濃厚な味わいには驚いてしまい、アクが強すぎるのではないかと思うほどだった。
そこで手に入れた野菜を、それこそ余すところなく使い切る。ケチというか合理的というのか、始末と呼ぶのか、これぞなにわ割烹の特色であり、京料理との一番異なるポイントである。
能書きより旨いかどうかや!
味もアクも強い大阪の野菜

- 泉州玉ねぎ
写真は貝塚早生種で、ほかの品種に比べて、扁平な形が特徴。"刺身玉ねぎ"と呼ばれるとおり、生でも玉ねぎ特有の辛味が少ない。出荷は5月〜7月頃まで。
大阪府の「食とみどりの総合技術センター」の森下正博農学博士を訪ねた。羽曳野市にあるこのセンターは約10万坪の用地を有し、府下に点在していた農業試験場を一ケ所にまとめるべく1963年に建てられた。現在、大阪の伝統野菜の保存と伝播にも力を注いでいる。
「大阪各地の農家から種を分けてもらい、栽培し続けたのです。なかには絶滅寸前の種もありましたが、とにかくつくってきたんです。そこに上野さんが来られて、もっとなにわ野菜を使いたいと。いくらおいしい野菜をつくっていても出口、つまり調理してくれはるところがなかったら、ぎょうさんはつくれないんです」と、森下さんは語る。おいしい野菜は手間もかかるし、大量生産できない。でも使うところがたくさんあれば、効率も上がってくる。

- 「浪速魚菜を守る会」の発起人である、上野修三さん。浪速割烹「(き)川」の取締役。地元の食材を愛し、大阪を代表する料理人の一人である。
「たとえば、今、ある焼酎メーカーが勝間なんきん焼酎をつくりたいと言ってきたので、開発の相談にのっています。うちでつくったなんきんをサンプルにうまく焼酎ができれば、今度は農家を紹介するということになるのです」。
極めて柔軟な発想である。「なにわ野菜は、ホント個性が強い。京野菜は宮廷に献上しお褒めの言葉をいただくための野菜です。形がきれいとか味が上品だとか、そういったハードルが幾つもあるのです。ところが大阪のほうは宮廷がないわけです。旨かってなんぼ、という精神が根本にあるんで、みんな味は濃厚です」。確かに、たとえば、毛馬きゅうりは曲がりくねったものも多い。しかし、一口齧れば、青臭さも濃厚なら、青色の濃い部分はむしろ苦味が強烈だ。この特性を生かすとユニークな料理が生まれるはずだ。

- 毛馬きゅうり
長さは40cm以上にも達し、曲がりやすいのが特徴。青みが強い部分ほどゴーヤーのような苦味が強くなる。漬物にも最適。出荷は6月〜8月頃まで。主な産地は河南町。
濃厚で個性ある食材は、ありきたりの調理法では個性を生かすことが難しい。そのため上野さんは1999年に、「浪速魚菜を守る会」を発足させ、仲間の料理人たちと、定期的にそれらの野菜を使って勉強会を始めた。それが口コミで急速に発展を遂げ組織が大きくなった。事務局長の笹井良隆さんは、「たとえば天王寺かぶらは、古くから食べられていた野菜です。大阪の人は能書きより旨いかどうかです。だからこれほどおいしくするために改良を重ねた地域も珍しいんじゃないですか。改良してもおいしくなるということは、それに耐えうる力が野菜にもあるということでしょう」と話す。同会では、会員になれば年に3回、なにわ野菜を宅配するシステムも始めた。そのシステムをサポートする野菜商が難波で「八百屋の飯屋 びわとも」という、旬のなにわ野菜を取り込んだご飯屋を始めたのも、なんとも大阪らしいと言える。

- 水茄子
水分たっぷりの漬物が、全国的に人気を呼んでいる。現在、一般に流通しているのは、絹皮水茄子(絹茄子とも)と呼ばれる改良品種。もともとは、色が淡く巾着形だったという。
さて、なにわ野菜の代表選手ともいえる水茄子だが、上野さんが、「去年の夏、貝塚市で、古い水茄子の血を引く、とてもおいしい茄子をつくり続けてはる方のところに行ったんです。中長形の茄子で皮も薄いけど、そりゃ甘うてみずみずしいんや。果物のように甘い感じやろか。これが、塩をふりかけて手でただもんだだけなんやけど」と教えてくれた。これはぜひ貝塚まで出かけねばなるまい。
水間観音から程近い畑を訪ねた。すべて露地栽培。隣の畝で栽培されている水茄子は、丸みを帯び漬物に適した形をしている。「そりゃ、味はぜんぜん違うで。甘味も水分もまったく違う。畝も5年は空けんと、同じ茄子はできへん。肥も少なくして丁寧に育てるんや。漬物もいいけどジャコと一緒に炊いたんもええよ。7月上旬にはとれる」と川崎竹一さん。70歳とは思えぬ健康的で若々しい表情だ。6月上旬、畑に入ったが、まだわずかに花がついているだけだ。残念至極である。しかし、自然には従順な姿勢が一番。「7月上旬にまた来たらええがな」という川崎さんの言葉を信じて、辛抱することにしよう。
われながら、旨いものには敏感である。地酒、地魚、銘柄豚に銘柄牛にも興味がある。当然のことながら地野菜にも注目してきた。京野菜も相当食べてきた。
しかし、肝心のお膝元「なにわ野菜」はまだ入り口に到達したばかりである。でも味は深い。濃い味好みの僕には、ありがたい野菜だ。では、まずは川崎さんの水茄子から……。
- なにわ野菜を取り寄せる

- 「守る会」の宅配は春(今年は5月17日)、夏(7月20日頃)、秋冬(11月〜12月上旬)の3回で、年会費1万円(野菜5〜6種、送料・税込み)。この夏は、毛馬きゅうり、勝間なんきん、石川早生芋、上野さんが味つけした泉州水茄子の漬物、川崎さんの水茄子を予定。電話(06-6243-1012)で申し込むと申込書が届く。銀行振込で前払い。
守る会ホームページは、http://www.ukamuse.jp 。同会が発行するなにわ野菜の専門誌『浮瀬(うかむせ)』もここで購入可。
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