中国●上海

洋館と並木道が続く旧租界で変わらぬ味を供する。
料理を知っている美食家のための隠れ家

 
 
在上海
須藤みか = 文
 
 

 街も、人の暮らしも考え方もとてつもないスピードで進化する上海。そんな上海に、世界中から集まってくるのはお金だけではなく、人であり、文化であり、食だ。そして、街が進化するのに伴って、食の世界でも新しい上海料理が生まれつつある。開港から150年と歴史の浅い上海は、一方で新しいものを受け入れ、上海流にアレンジする達人だった。そもそも上海料理自体が、近郊の蘇州や杭州、無錫、寧波などの料理を結集させたもの。今度はそこに世界各地の食文化のエッセンスを取り込んだのである。その料理は上海流を意味する海派から、「海派菜(ハイパイツァイ)」と呼ばれている。

 洋館と静かな並木道が続く旧租界地区、華山路にある「徐家私房菜(シュージアスーファンツァイ)」は、海派菜の先駆けともいうべき店だ。上海一の目抜き通り、淮海中路にも店を構え、日本の雑誌にもたびたび紹介されてきたが、実は華山路のこちらが本店で、オープンは1998年。上海では建物同様に、レストランのスクラップ&ビルドのスピードも激しい。半年や1年で消えたり、数カ月で開店当初の味を出せなくなる店が多いなかで、今も変わらぬ評判を保ち続ける確かな店だ。地元の食通の間では、「料理を知っている美食家のための店」と絶賛される。

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 オーナーは、シンガポール、台湾、香港出身の3人。店名は、料理長の徐正才氏からつけられている。この徐氏、料理人の世界大会で中国人として初めて金メダルを取った人物で、今も、彼を上回る中国人シェフはいないという。その徐氏率いるシェフチームは、色香味はもちろんのこと、形や料理名にも工夫を凝らした“見せる料理”を供する。

 オリジナルメニューはいくつもあるが、なかでも人気の“蝦蟹油散子(シアシエヨウサンズ)”は、自家製の揚げ麺の上に、上海蟹のみそ、肉とエビを炒めたものをふんわりとかけた一皿。揚げ麺のサクサク感と、蟹とエビの濃厚なソースが絶妙に合い、麺の独特な食感と旨味が口に広がる。

 春らしい一品なら、これまたエビになってしまうが、“龍井塩酥蝦(ロンジンイエンスウシア)”はどうだろう。上海近郊の杭州産緑茶、龍井茶を使った料理で、新茶がとれるこの時期にぴったりだ。龍井茶とエビ炒めはよく見かける料理だが、油を使いすぎたり、炒める時間が長すぎて、茶葉がクタッとなっていることが多い。お茶の香りを楽しめる一皿をつくれる店はそうはない。

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 ここでは、茶葉を炒めるのではなく、落花生油と大豆油をブレンドした油で揚げる。皿が運ばれてきた途端に、テーブルに香ばしさが広がった。茶葉の深緑色もそのままに美しい。からりと揚げられた龍井茶と殻付きエビは、薄い塩味と唐辛子少々だけで、お茶の香りと味が存分に引き出されている。こちらも食感が心地よく、上質の茶葉のほのかな苦味が爽やかな余韻を残す。盛りつけは、どこか日本料理を思わせる。

 料理に厳選された茶葉を使えるのは、店をマネジメントする母体が、茶畑を持つ茶葉の製造販売業者であるためだ。前後するが、茶葉を使った前菜をひとつ。“烏龍燻[魚昌]魚(ウーロンシュン[チャン]ユイ)”は、烏龍茶でいぶしたマナガツオで、マヨネーズソースをつけて食べる。上海料理にありがちな、過ぎた甘さがないのがうれしい。

 スープは、白と緑の組み合わせが爽やかな“瑶柱翡翠豆腐湯(ヤオジュウフェイズイトウフタン)”。時は清朝、第六代皇帝の乾隆帝がある農村を訪ねた折に、その地の農夫婦が出した豆腐とナズナの素朴なスープを、乾隆帝がことのほか喜んで飲んだ。ナズナの緑が翡翠の色に似ていることから、この名がついたと伝えられる一品だ。現在はさらに豚肉を入れたりするが、「徐家私房菜」では帆立の貝柱であっさり仕上げる。

「私房菜」の店名通りに隠れ家的な室内は、64席。上海の喧騒を忘れさせてくれる静かな空間で、新上海料理を楽しみたい。

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徐家私房菜
シュージアスーファンツァイ
上海市華山路480号
tel.021-6249-9917
営業時間/11時30分〜14時30分、17時30分〜23時 無休
Menu
烏龍燻◆魚(烏龍茶風燻製マナガツオ) 35元
川味鶏絲(四川風バンバンジー) 22元
蝦蟹油散子(揚げ麺のエビ・蟹あんかけ) 98元
龍井塩酥蝦(龍井茶風味エビから揚げ) 78元
干焼四季豆(インゲン炒め) 28元
瑶柱翡翠豆腐湯(ナズナと豆腐のスープ) 1人25元
王朝干紅葡萄酒(750ml) 78元

(1元=約14.1円 2003年3月11日現在)
 
 
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