名店「たいめいけん」の看板娘をわがものに
半熟卵がつややかライスにとろりと
からむ、憧れオムライスに挑戦!
シンプル極まりない食材から生まれる老舗洋食屋の絶品オムライスには、
プロならではの数々の小さなコツや計算が隠されていた。
「ライスがベチャつく」「オム部分が破れちゃう」
「きれいな紡錘形にならない」などなどの失敗よ、これにてさらば!
オムライスの前で、僕は子供になる。

- 苦闘すること数回。「マッキー牧元製オムライス」の見事な出来上がりを祝して、ハイ、ポーズ! 茂手木浩司氏(写真右)は、祖父・心護氏、父・雅章氏と受け継がれてきた洋食屋「たいめいけん」の三代目。料理教室でも引っ張りだこの人気者だ。今回は、タベアルキストにして、オムライス愛食家のマッキー・牧元さん(写真左)を懇切丁寧に指導。
どんなに美食を重ねても、オムライスを前にすると「ワァーイ」と、無邪気にはしゃぎたくなる。どうやら側頭葉に居座った子供の頃の感動が人一倍強く、食べる前からドーパミンが分泌されてしまうようである。
こんなに素直に愛してるため、オムライスについては、つい点が甘くなってしまうのだが、薄焼き卵だけには妥協しない。薄焼き卵は程よい厚さで、外はふんわり、内側はしっとりと、ケチャップライスを慈しむように包んでほしい。やさしい食感になった卵がパラリと炒められたご飯に出会ってこそ、オムライスはご馳走になるのである。
そんな理想のオムライスに出会える店の一つが、「たいめいけん」だ。その艶やかな肌は、焦げジワ一つない、息をのむ美しさ。スプーンで割れば、半熟卵がケチャップライスの頂上部にしみわたって、ぴかりと光る。卵の甘味、バターの香り、ケチャップの酸味と甘味、すべてがピタリと決まって、一口で笑いがこみ上げてくる。食べ手を夢見心地にさせてくれる料理人の志と技を込めた1650円は、決して高くはない。
ただしこの志と技を、自宅で再現するのは難しい。すでに百回はつくっているが、一向に上達しないのである。
オムレツ専用フライパンも買いました。新鮮な卵と良質のバターも用意しました。米一粒一粒にケチャップがからむように炒めました。皿も温め、食べ手も待機しています。だが悲しいかな、肝心の薄焼き卵がどうもうまくいかないのである。
端に焦げ色がついたり、一部破れたり、火が通りすぎたり、紡錘形からかけ離れた姿だったり……。でも、「まあ上出来、味にそんな変わりがあるでなし」と、いつも自分をごまかしてスプーンを運ぶのであった。
オムライスづくりには、
料理すべてに通じる教訓あり!
しかし、このごまかし人生も本日で終焉する。「たいめいけん」のご主人より、技を伝授していただけるのである。

- 思わず頬ずりしたくなってしまう、ふくよかにして可憐な姿。まさに、「たいめいけん」の看板娘だ。さあ練習して、わが家の食卓で!
「これを使えば、誰でも簡単にできますよ」。意気込みをいなすように手渡されたのは、フッ素樹脂加工の鉄のフライパン。なるほどこいつはいい。縁の角度がきつい家庭用フッ素樹脂加工のものと違い、ゆるやかに傾いているので、オムライスが回転しやすいとご主人。今までのやり方は、卵とご飯を縁に寄せ、そのまま皿に返してナプキンで形を整える方式であった。だがこれなら、フライパンの中で難なく紡錘形が完成しそうである。しかし人生は甘くない。いくら名器といえど、習練は不可欠なのであった。
まずフライパンの持ち方からして違う、菜箸の握り方が違う。いずれもオムライスを返しやすく、卵を早く攪拌しやすい力学上最良な型があるのだ。
そして最後の難関、トントンと柄を叩いて回転させる、オム返しの術。ご主人がつくると、卵は命を吹き込まれたかのように、縁にゆっくりとせり上がっていき、くるりと一回転半した。僕の場合は、仕方ねえから動いてやるよといったぎこちなさで一回転。なんとか体裁を保ったが、それもご主人が、慌てる僕をなだめ、褒め、落ち着かせてくれたからだ。
教わるうちに気づいたのは、柄を叩く力加減である。卵が最初に返る瞬間は、弱く慎重に、最後に返すときは勇気をもってトンッと強く叩くとうまくいく。しかし同時に、フライパンをあおる左手との連係も忘れてはいけない。
こうしてみるとオムライスづくりには、器具や素材への敬意、判断力と行動力、繊細さと大胆さ、配慮、度胸など、料理すべてに通じる要素が詰まっている。いや、料理だけでなく、自信をもって立ち向かい、問題が起きても慌てないという、人生の教訓も詰まっているのであった。

- ※2002年12月号"いつも心に「オムライス」"は、このクッキング(「スタンダードオムライス」「タンポポオムライス」)の手順とポイントを詳細な写真付きで紹介するほか、オムライスのおいしい店、手づくりケチャップの記事等、"オムライサー"必見の盛りだくさんな第二特集です。









